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ギルド《ボンド》  作者: きたじまともみ
第一章 癒しの矢
2/65

2 合流

 ほどなくして止まり、ルルが俺とシーナが降りやすいように寝そべる。

 俺たちが降りると、ルルは子猫ほどの大きさに姿を変えて走り出した。


「チア!」


 シーナが駆け寄った先では、マイルズと腰まである金のウェーブヘアが眩い女の子が食事をしていた。ルルは女の子の膝の上に飛び乗って身体を丸くする。


「何してんの?」


 マイルズに聞けば「お前こそ」と返ってきた。


「カイくんの友達?」

「そう」


 シーナがチアの隣に座り、俺はマイルズの隣に腰を落とす。


「ねぇ、なんでそんなにズボンが破けてるの?」


 シーナのズボンの片足は太ももから先がない。チアは自分の着ていたローブを、シーナの足に掛けた。ローブで隠れていた、ショートパンツに黒いタイツがあらわになる。


「足を捻ったから固定するために破いた」

「痛い?」

「大丈夫」

「シーナの大丈夫は信用できない。見せて」


 チアがシーナのブーツを脱がせて、ズボンで作った紐を解いていく。足首は赤く腫れ上がっており、痛くないわけがない。


 チアが無表情でシーナの目を見ると、シーナはバツが悪そうに「少しだけ」と呟いた。チアは再びキツくシーナの足首を固定する。


 マイルズが豆と野菜を煮込んだスープをよそった。シーナに渡した後、俺にもくれる。


「それでカイは何をしてたんだ? 手ぶらだし」

「あっ! 鶏肉忘れてた!」


 地震が起きる前に仕留めた鳥のことを思い出す。

 久しぶりに肉が食べられると思っていたのに。がっくりと肩を落とす。

 俺はマイルズと別れてからのことを話した。


「シーナ、隣のエリアに入ったの?」


 チアの鋭い視線に、シーナが「ごめん」と小さく俯いた。


「薬草を取るのに夢中になっていたら、隣のエリアに入ってた」

「隣のエリアって?」


 俺もマイルズもこの森は初めてだ。目的地への近道だと思って入った。


「このケイルの森は2つのエリアに分かれているの。ここは比較的安全。隣のエリアは、魔物も多くて色々不安定。だから大きな地震なんてあったんじゃないかな。ここは揺れなかったもの」


 特定のエリアだけが揺れるなんてあるのか。


「それなら魔物に合わなかったのはラッキーだったな」

「多分ルルのおかげ。ルルが近付いてくるのが分かって、魔物が警戒していたのかも」


 今は可愛らしい姿だが、ルルに踏まれた時のことを思い出して身震いする。あの時は本当に終わったと思った。


 チアの膝で寛いでいたルルが「ちょうだい」とでも言うように、甘えた鳴き声を出す。チアが小皿を取り出した。


「少しもらってもいい?」

「いいけど、猫が食べちゃいけないものってあるよね? 大丈夫?」

「ルルは猫じゃないよ。見た目は猫だけど、私が描いた絵を魔術で実体化させた使い魔だから」


 マイルズが小皿によそうと、ルルがスープをペロリと舐める。気に入ったようで、あっという間に皿をキレイにした。

 絵なのに意思があるみたいで不思議だ。


「チアちゃんには他にも使い魔がいるの?」

「作ることはできるけど、そうするとルルが消えちゃうからやらない」


 使い魔は魔術師しか得られず、一人に対して一体だけのようだ。チアは絵を実体化させたが、人によって様々だと教えてくれた。魔物や精霊と契約したり、植物に意思を持たせたり。


「ごちそうさま。マイルズくんのご飯美味しかった。ありがとう」


 シーナが礼を言うと「どういたしまして」とマイルズが返す。


「本当に美味しかった。ありがとう」


 チアが顔を綻ばせると、マイルズが顔を赤くして思いっきり首を振った。マイルズ、わかりやすいな。


「チアはどうしてマイルズくんと一緒にご飯を食べてたの?」

「美味しそうな匂いを辿ってここに着いたら、マイルズくんに『一緒に食べる?』って誘われたから」

「食いしん坊だね」

「美味しいものが大好きだから、仕方がないよね」


 シーナとチアが笑い合った。癒される。


「私たちそろそろ帰るけど、二人はここで野営してどこかに向かう途中なんだよね?」


 チアが立ち上がると、ルルは人が乗れるほどの大きさに変化する。


「ここから半日ほど歩いたところにある、ギルドの街『テアペルジ』に向かってる」

「本当? 私とチアはテアペルジに住んでるんだよ」

「マジ?!」


 大きな街はすごいな。こんなに可愛い子が二人もいるんだ。いや、きっともっといっぱいいるのだろう。可愛い彼女も夢じゃない。


「なんでテアペルジに行きたいの?」

「彼女と仕事が欲しいから」


 俺の言葉に、シーナとチアは眉を顰めた。

 マイルズが慌てて育った環境を説明する。あのままライハルにいたら、彼女なんて絶対にできない。結婚なんて絶望的。

 シーナとチアは、マイルズの説明で納得してくれたようだ。


「仕事はあてがあるの?」

「ギルドに入りたい。俺もマイルズも狩りをして生活していた。戦闘に関しては自信がある」


 シーナとチアが顔を寄せて囁き合う。小さすぎて聞き取れないが、あまりいいことではなさそうだ。


「あのね、テアペルジには『ボンド』『ファントム』『ディフェーザ』の三つのギルドがあるの。その三つが協力しあって成り立っている。私は『ボンド』の構成員なの」


 チアが袖をまくる。二重丸の中に歪な星型のマークが二の腕に刻まれていた。ギルド員の証のようだ。


「シーナも入ってるの?」

「ううん、私は妹と道具屋をやってるの。でも治癒術が必要な時や、薬草採取みたいな知識がいる時にはお手伝いをしているから、サブメンバーみたいな感じかな。道具屋はボンドが治めるエリアにあるから、ボンドの人だと安くなるよ」


 シーナの二の腕にも、チアと同じマークが刻まれている。


「それは何? ギルドに入ると付けなきゃいけないの?」

「どこに所属しているか分かるようにするためだよ。それに特殊な術式が組み込まれていて、同じギルド員には攻撃が一切当たらなくなる。私がここで広範囲の魔術を使うとするでしょう? シーナは無傷だけど、カイくんとマイルズくんには怪我を負わせちゃう。仲間を傷つけることはなくなるの」

「すごいね。俺とカイは物理攻撃だけど、それも無効化できるの?」

「うん、剣で刺そうとしても、バリアが張られているみたいに絶対に攻撃は当たらないよ」


 そんな技術があるのか。味方を気にせず攻撃できるのはやりやすいな。


「なぁカイ。俺らもボンドに入らねーか?」

「いいけど、そんな簡単に入れるのか?」


 チアとシーナに目を向けると、チアが口を開いた。


「入団試験があって、それに受かれば入れるよ」

「一ヶ月後くらいだよね」


 一ヶ月後? そんなに待てない。


「俺もマイルズもすぐに働きたいんだよ。わずかな金しかないし」

「一ヶ月も家と仕事がないのはキツイ」


 金がないから、野宿をして狩りをして食べることはできる。この五日間はそうしてきた。柔らかいベッドなんて望まない。硬い床でもいいから、屋根のあるところで眠りたい。見張の必要のない場所じゃないと、身体が休まらない。


「ギルドに入っていなくても、ランクの低い依頼なら受けられるよ。入団試験を受ける申し込みさえすれば、宿屋が試験を受けるまでの間、無料で使えるし」

「それは助かる。ギルドに入っていなくても、そんなに高待遇なんてすげえな」


 すぐに働けて宿屋も使えるなんて、太っ腹だな。


「人助けにもなるし、いい人が入団してくれれば、ギルドも助かるから。ほとんどの人が落ちるけど、入り口を広げていれば、狭き門を突破できる人が増える可能性もあるし」

「待って! ほとんどの人が落ちる?」


 チアの言葉にマイルズが慌てて口を挟む。


「うん、ボンドはとくにそう。厳しいと思うよ」

「理由は?」

「言ったら試験に有利になるかもしれない。試験を受ける前の人に言えば、私が咎められるかもしれない。それでも聞きたい?」


 マイルズがチアの言葉に首を振る。


「いらないよ。チアちゃんが怒られるのは嫌だし。俺もカイも、自分たちで試験突破するから」


 俺の言いたいことは、マイルズが言ってくれた。


「そう思ってくれるなら大丈夫かもね。ご飯のお礼に二人もテアペルジまで一緒に行く?」

「ああ、助かる」

「ルル、もう少し大きくなって」


 チアが撫でると、ルルはその手に首を擦り寄せて鳴いた。みるみるうちに四人が乗れそうな大きさになる。

 ルルに一列に跨った。先頭のチアにシーナがしがみつく。俺も目の前のシーナの身体に腕を回した。細いのに柔らかくて、鼓動が跳ねる。


「シーナに変なことしたら、燃やすから」


 俺の心のうちを読んだかのようなタイミングで、チアがドスを効かせる。


「しねーよ!」


 慌てて弁明して、少し腕を緩めた。


「ちゃんと掴まってないと危ないよ」


 それなのに、シーナが俺の腕を掴んで前方に引っ張る。シーナにピッタリと張り付く形になった。こんなに近いと早鐘を打つ心音を、シーナに聞かれていないか気が気じゃない。


「大丈夫。カイのことは俺が見張ってるから」


 一番後ろで俺に腕を回すと、マイルズが力強く言った。

 俺って信用されていないのか?

 ルルが駆ける。景色を置き去りにするようなほど速く。


「すげー!」


 マイルズが感嘆の声を上げた。俺はルルに乗るのは二度目だが、気持ちがよくわかる。

 俺も使い魔欲しいな。魔術が使えないと無理らしいけど。

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