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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

災害 〜チロルチョコがくれた光〜

作者: 藍瀬 七

突然訪れた震災で、すべてを失った男。

絶望の中、少年との出会いが小さな希望を生む。

心の再生を描いた、短編ヒューマンドラマです。

 とある町に住む会社員、咲田孝之助さくたこうのすけは、結婚2年目で新居を持ち、2歳の子供を持つ。幸せながらもごく一般的な人物だった。平日は会社で定時まで働き、休日は家族で出掛けることが日常であった。


 そんなある日、幸せな日常が劇的に変わってしまった。突然の震度7強という、かなり大きい地震だ。その時、時刻は10時を回っており、会社で仕事をしていた。急に大きく揺れるものだから、机は大幅に揺れ、置いてあったパソコンや備品が床へと乱暴に振り落とされる。

 僕たちもその場で立ってはいられず、机の下や頭を守れそうな場所で身を守った。会社と震源地が近かったため、かなり強く揺れた。その影響で停電となってしまい、だんだんと揺れが収まった。

 身の安全の確保をして、会社全体が早退という形になった。会社の建物は倒壊せず、なんとか持ちこたえてくれたが、何より家に居る家族がとても心配だった。スマホも電話が繋がらず、役に立たない。そこで災害用の伝言ダイヤルや掲示板を活用した。家族が見てくれているといいのだが……。


 そして電車も止まっていたため、徒歩での帰宅となった。帰宅途中の住宅街は、半壊していたり、住民が避難所に行くような列で溢れていた。意識的に妻と子供を探すのだが、それらしき人物は見当たらない。

 不安と心配を抱えた中、僕は新居を目前にしてへたり込んでしまった。3時間かけてようやく帰宅した新居は……全壊していた。僕は慌てて瓦礫をかき分けて、妻と子供を大声で呼ぶのだが、何も返答が聞こえない。

 嫌な予感しかしなかった。スマホも使えないから救急車も呼べない。とにかく自分の力で出来る限りのことをやった。不安と焦りの中、6時間ほど経っただろうか、瓦礫の下に人の腕が確認できた。反射的に妻と子供の名前を呼んだが、相変わらず何の反応もないのだ。


 ようやく2人の全身が確認できるくらい瓦礫を撤去できた頃、僕の目の前に居たのは、息をしていない妻と子供の姿だった。地震のせいで、全てを失った僕の心は絶望感しかなかった。


 途方に暮れて、町を見渡す。僕の故郷のほとんどが、壊滅している。よく確認しなくても分かる。僕はその場から動けず、ついには泣き崩れてしまった。絶望的だった心が限界を迎えたのかもしれない。ただひたすら泣き続けた。


 そんなとき、僕の目の前に小学生くらいの少年が現れた。


「おじさん、どうしたの?」


と声を掛けてくれた。いい大人が小学生に慰められるなんて、僕はなんて情けないんだろうと、とても惨めな気持ちになった。


「これあげるから、元気出してほしい。もう1個しかないから、おじさんの分だよ」


そう言って僕にチロルチョコを1つ手渡してくれたのだった。


「ありがとう」


少年は、少し汚れた服と破れた靴で立っていた。


「僕もね、家がなくなっちゃったけど、パパがきっと迎えに来るから待ってるんだ。」


チロルチョコを差し出しながら、少年は少しだけ笑っていた。


「それ食べたら絶対元気出してほしい!約束。ゆーびきりげんまん……」


僕と少年は小指を交えて歌を口ずさむ。その後、少年は僕の前からすぐに去ってしまった。


 僕の手に残されたチロルチョコを再度見つめる。あの少年も食べたかったんじゃないだろうか?少年にとって貴重な物ではなかっただろうか?と考えが巡る。僕は有難くチロルチョコを食べた。その甘さが心に染み込み、また泣きそうになるのをぐっと堪えた。


それから僕は、自分の故郷の復興・復旧活動に励んだ。

最初はがれき撤去の手伝いで、重機を使わない作業が中心だった。

「こんなことして、意味があるのか……」と自問する日もあったが、

同じ町の人たちが「ありがとう」と笑顔を向けてくれると、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

次第に、僕自身も「自分のためにやっているんだ」と思うようになった。

誰かに助けてもらうだけじゃなく、僕もこの町に力を与えたい。 

この体験を通して、僕は災害に遭った人のためのボランティア活動も始めた。しかも、今まで担当したこともない中心の人物となっている。

復旧までどのくらいの時間がかかるか分からないが、自分の故郷のために出来ることを精一杯やっていきたい。


ある日、避難所の片隅で見かけた少年がいた。

「おじさん、元気になった?」と、あの少年が笑顔で話しかけてくれた。

「お前、無事だったのか……!」

「うん。あの後、パパとママが迎えに来てくれたよ。」

僕の手に、またあのチロルチョコを差し出す少年。

「今度は二つあるよ。一緒に食べよう。」

その時、僕の胸の中に温かいものがこみ上げ、自然と涙がこぼれた。

その力をくれたのは、最愛の妻と子供、そして偶然出会った少年のおかげだとも言えるだろう。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

人の優しさが心を救う瞬間を描きました。

感想やご意見をいただけると嬉しいです。

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