第6話 強力な協力
(ここはどこだ…。俺はいったい…?)ワットは目が覚めた。身動きが取れない。自身の手足がロープで縛られていた。顔を上に上げると、テイラーそして磔にされたキャシーとアインがいた。
「あら、早いお目覚めね。」テイラーが嘲笑する。
「何で俺は無事なんだ?」ワットが不思議操そうに呟くと、テイラーがそれに答える。
「魔法は込める魔力によって威力が変わる。魔力はあまり込めないで上げたわ。それに急所も避けた。情報が欲しいし。」
「情報?」ワットが訝しむ。
「そう。あなたはなぜにこの場所が分かったの?誰から聞いたの?」
「それを俺が言うと思ったか?」
「思ってないわ。だからこうして準備を整えた。5秒ごとにこのナイフで女を刺すから好きな時に話しなさい。女が死んでもまだ男の子がいるからどうぞごゆっくり。もちろん魔力を少しでも込めたらこの娘は一瞬であの世行きよ♡」テイラーが目を細めながら言う。
「ま、待て!」ワットが制止をするが、「1…2…」テイラーは止まらない。
「ノヴァという男に聞いた!20年前のリベレイションズのメンバーだ!」ワットは思わず答える。
「ノヴァ!?」テイラーが驚く。思わぬ解答に一瞬戸惑う。ワットはその隙を見逃さなかった。魔法操術で自身を縛っている縄を操り、ほどく。そしてすぐさまテイラーに『ナイトメア』をかける。
その間にキャシー・アインの縄を同じようにほどいた。しかしほどなくテイラーは目を覚ます。
「バカな!?なぜ動ける?」ワットが言う。
「幻影魔法は脳に何らかの作用を働きかける魔法。事前に脳に『防御魔法:プロテクト』を張っておけば防げるわ。」テイラーが誇らしげに言う。
「事前にプロテクトを張るだと?何とか三兄弟には普通に通じたぞ。」アインが声を荒げる。
「フン!あんな2流魔法使いと一緒にしないでくれる?」テイラーが鼻で笑う。
「あいつらが…2流だと…。」ワットが絶望する。
「おしゃべりはここまでよ!」そう言ってテイラーは3人に同時に攻撃魔法を繰り出す。3人は咄嗟に『プロテクト』を展開した。が、キャシーは先の戦闘で『奥義』を使用していた。残っている魔力はほとんど残っていなかった。キャシーの『プロテクト』が剥がれる。キャシーにテイラーの攻撃が直撃した。
「キャシー!!」ワットは『プロテクト』を展開しながら、キャシーの下に駆け寄る。(よかった。気絶してるだけだ。)ワットは安堵した。
テイラーの攻撃が止み、ワットが反撃に出た。この世界の人間は、感情の変化で魔力の増減に影響がでる。ワットは怒りで魔力が増幅していた。アインもワットに加勢して『ショックスタン』を繰り出す。
テイラーは2人の魔力とまったく同等の魔力を放出し、2人の攻撃を相殺した。
「攻撃魔法:ショックスティンガー」テイラーの攻撃がワットに直撃する。
テイラーの専用魔法『ショックスティンガー』は、威力が低く、針のように攻撃範囲がせまい分、速さは途轍もない。アインがその隙を突こうとするが、
「まだまだぁ!」テイラーが攻撃を続ける。
「攻撃魔法:サクセスシブスティンガー」テイラーの攻撃が2人を襲う。
『ショックスティンガー』の上位魔法『サクセスシブスティンガー』は、『ショックスティンガー』を連続で、複数放つことができる。
針のようにするどい攻撃が何度も2人を突き刺す。一発一発の威力こそ低いものの、それが繰り返されれば相当な威力になる。(意識が…飛びそうだ…。)
「こんなことをお前に言うのは癪だが。あとのことは頼むぞ」そう言ってアインは全魔力を込める。
「攻撃魔法:インパクトスタン」アインの全力の攻撃がテイラーを襲う。『インパクトスタン』は『ショックスタン』の上位魔法である。
「防御魔法:セーフティプロテクト」テイラーもまた上位魔法で防御を展開する。テイラーの意識は完全にアインに向けられた。
(お前が俺に頼み事とはな…。お前が全力で作ってくれた隙、絶対に無駄にしない。)ワットも魔力を込める。
「幻影魔法:サーペントオーガン」テイラーに直撃する。
『サーペントオーガン』はワットの専用魔法である。強力な分、対象は1人で、発動までのタメが大きいため、普段の戦闘ではあまり使えない。
テイラーは一瞬動けなくなるが、先と同様、既に脳に『プロテクト』を張っていたためすぐに解除をして、アインの攻撃を避ける。(無駄よ)テイラーは薄ら笑いを浮かべた。だがすぐにその笑みが消える。テイラーは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
(な!?どういうこと?)テイラーは心の中で戸惑う。
『サーペントオーガン』は、相手を麻痺させ動けなくさせる効果がある。それに加えて、相手が防御をしてもその防御を貫通し、数秒後に麻痺が発動をするという追加効果もある。
「今だ!アイン!」
「お前に言われなくても分かっている!」
「攻撃魔法:インパクトスタン」ワットとアインが同時に攻撃を放つ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」テイラーが後方に吹っ飛ぶ。
(やったか?)ワットは緊張を解かない。
「お前たち…絶対に許さない…。」テイラーは苦し紛れに立ち上がる。致命傷には至らなかったようだ。
ワットはあと1発魔法を打てるか打てないかしか魔力が残っていない。アインも同様である。(ここまでか)ワットは負けを悟ったが、何かに気づく。そしてアインに話しかける。
「おい、あと1発なら魔法打てるよな。あいつに幻影魔法をかけるぞ。」
「あいつにお前のサーペントオーガンをかけたところで、今の俺の魔力ではヤツを倒せるほどの攻撃は出せんぞ。」アインが言う。
「いや、2人であいつに幻術をかける。そうすれば絶対にヤツの動きを封じることができる。」
「だが、ヤツの動きを封じたところで…。」アインもワットと同じことに気づく。
「いつまで話し合ってるつもり?来ないのならこちらから行く!」テイラーが魔力を込める。
「いくぞ!」ワットが言う。「おう!」アインが応える。
「攻撃魔法合技:サーペントスパイダー」ワットとアインは2人の技を組み合わせた。
2人とも幻影魔法の使い手ということで、両者の技が完璧にマッチし新たな技を生み出す。テイラーは蜘蛛の巣により身体の動きを封じられ、さらに蛇にらみにより思考さえも停止した。合技が決まってすぐ、キャシーが立ち上がった。ワットとアインはキャシーが目を覚ましたことに気づいていた。そしてキャシーの魔力も回復している。
「攻撃魔法:アルティメットボンバーダ」キャシーの攻撃がテイラーに直撃する。テイラーは叫ぶ暇もなく倒れこむ。テイラーは意識を完全に失った。
ワット・キャシー・アインVSテイラー。勝者 ワット・キャシー・アイン
ーTo be continued ー