表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第三話 泥試合前夜
7/52

泥試合前夜5



(ドニが犯人じゃない? もしそうなら、ブローチを盗むチャンスがあった人物は一人もいなくなる)


 ワレサは別の観点から思索してみる。


「寮長。各部屋の鍵にはマスターキーが存在しますね?」

「あるね。寮母のエスピナス先生が管理していらっしゃる」

「生徒が持ちだすことは可能ですか?」

「先生にたのめばできる。が、先生は誰にでも貸しあたえるわけじゃない。できるのは、生徒のなかでは私だけだね」


 ならば、その線もない。

 寮長が自分で盗んだのなら、ワレサの助力など得ず、自力で問題を解決して手柄にするだろう。つまり、最初からそれが目的で盗んだことになる。


「四人部屋の窓は二人部屋より大きいですか? そこから誰かが入りこめるかどうか、という意味ですが」


 ドニはちょっと考えて首をふる。


「ムリだろうね。窓の大きさもだけど、僕らの部屋は三階だ。バルコンもないし、手の届くような木の枝もない。壁をはうトカゲでもないと」


 これはもういったん、侵入の可能性はすてるしかない。人間関係でしぼるべきか。


「ところで、ドニさま。あなたはベルナールさまの幼なじみということですが、パトリックさまはいかがです?」

「パトリックも親類だ。でも、ベルナールとパトリックは学校へ来てから初めて会ったんだ。二人は実家が遠いので」

「あなたほどには、ベルナールさまと親しくないということですね?」

「まあ、そうなるかな」


 パトリックにしてみれば、ドニが目ざわりであるとも考えられる。ベルナールの《《親友》》は自分であるべきと考えたなら、ドニはジャマな存在だ。


 なんらかの方法を使って、パトリックがブローチをちょろまかし、それをドニのせいにした。ベルナールとドニの友情を裂くために。


 そんなところだろうか?


「パトリックさまはベルナールさまのことを、どう思っておられるのでしょうね?」

「さあ? パトリックはあんまり自分の気持ちを話すヤツじゃないからね。でも、ときどき、ため息はついてる」

「それは、心からベルナールさまと親しくしているわけではないと?」

「パトリックはがんばってるよ。ベルナールは母上のこともあって、ちょっと愛情表現が不器用だからね。子どもっぽいカンシャクも起こすし。でも、それはさみしさの裏返しなんだ」


 案外、バカではなかった。ドニ。

 パトリックが家庭の事情(おそらくは親からの要望)で、いずれ一族の長になるベルナールに《《つきあわされている》》ことには勘づいていたわけだ。


「単刀直入に聞きます。パトリックさまが、あなたをおとしいれるなんてことがあると思いますか?」


 ドニは困惑している。しかし、となりに立つジェイムズが首をふった。


「それはないよ。パトリックはそういうヤツじゃない。僕はパトリックを信じてる」


 おまえの信頼なんて、どうでもいいんだよ。


 が、その言葉は胸の内だけにとどめる。

 幸い、ワレサがイラつく前に、ドニが言いだした。


「でも、パトリックじゃないと思うなぁ。だって、あのとき、パトリックがベルナールの机に近づくヒマなんてなかった。パトリックは僕のうしろに立ってたし、ベルナールは部屋に入ってから、まっすぐ机に近づいていった」

「まっすぐ?」

「うん」


「失礼ですが、そのとき、時刻はいつごろでしたか?」

「入浴したら食事の時間になってたんだ。だから、食堂へよって、晩餐ばんさんのあと部屋に帰った」


「ではもう、部屋は暗かったですよね?」

「暗かったね。窓の鎧戸よろいども閉まってたし」


「誰かが明かりを持っていましたか? カンテラか燭台しょくだいでも?」

「いや。僕が部屋のランプに火をつけるまで、明かりはなかった」


 ワレサはだまりこんだ。

 犯人がわかったのだ。ただ、なぜ、そんなことをしたのか、さっぱり見当もつかない。


「ドニさま」

「うん?」


「もう一つだけ聞かせてください」

「何を?」


「ベルナールさまがラ・ギヴォワール侯爵家の養子になるという約束は、どういう事情からですか?」

「侯爵に子どもがないからだよ。侯爵さまはもう四十なんだ。それで、ベルナールの父上が、侯爵の弟君にあたるから」


「最近に、ラ・ギヴォワール侯爵さまにお会いになったことがありますか?」

「いや、ないよ。ベルナールは手紙をもらってたみたいだけど。そう言えば、あのあとから機嫌が悪いな」


 寮長のロベールは少し、じれてきたようだ。


「ワレサレス。君はいつまで話しているんだ? できれば今夜じゅうに片をつけたいのだが」

「さようですね。明日は朝から泥試合です。今夜のうちに解決しましょう」

「というと、君には——」

「ええ。もう、わかりました。急ぎましょう。おそらく、犯人は今、次の行動に移っていますよ」


 ワレサは彼らをせかして、三階へあがっていった。

 三階のドニたちの部屋だ。


 前もって、カンテラの灯は消してあった。足音を忍ばせ近づいたのち、いきなりドアをあける。


 まちがいなかった。

 犯人はたったいま、ドニの机の引き出しに、《《それ》》を隠し入れようとしていた。


「油断しましたね? 今夜ならドニさまは帰ってこない。懲罰房ちょうばつぼうへ入れられると考えたのでしょう?」


 あけはなたれた扉の前で、ベルナールがうろたえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ