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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第三話 泥試合前夜
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泥試合前夜4



 そのあと、ワレサは状況を把握し、自分のとるべき行動を模索する。


 ジェイムズやドニは無視してもかまわない。が、寮長のロベールは家柄のいい大貴族だ。将来はラ・ヴァランタン家を継ぎ、侯爵になる。宮廷貴族ではないものの、皇都に近い大きな街をいくつも領内に持っている。つながりを持っておけば、必ず自分の得になる——とふんだ。少なくとも悪い印象をあたえるべきではない。


「わかりました。解決できるかどうか自信はありませんが、できるかぎりのことはいたします」

「それは助かる」


 あからさまにロベールは安堵している。寮長は二年交代。高学年の身分の高い子息が、経歴の箔付けのために順番に任される。自分の代で問題を起こしたくないのだろう。


「……ここではルーシサスさまのお体にさわります。別の部屋で話しましょう」

「食堂へ行こう。今の時間なら誰もいない」


 というわけで、ワレサはタヌキ寝入りのルーシサスを残して、彼らと歩いていく。一階にある大食堂。


 もちろん寮母も料理人もこの時間にはいない。

 真っ暗闇のなかに、ロベールの手にしたカンテラの明かりだけが、心もとない光をなげる。


「では、まず、ブローチがなくなったときの状況をくわしく聞かせてください」


 ドニがこれに答える。

 ベルナールが卓上に起き、風呂場へ向かった。ドニがあとから退室し、帰りは三人。そして、ブローチはなくなっている、という大すじを、ワレサはここで聞く。


「ドニさま。あなたはなぜ、一人だけ部屋に残ったのですか?」

「たいしたわけじゃないよ。校庭から帰るとき、みんなの剣を持ってたんだ。それで部屋につくのが遅れただけ。僕が室内に入るのと、ベルナールたちが出ていくのが同時くらいだった」


 少年たちの持つ剣は刃引きされた飾りものだ。長さも実戦の剣より短い。それにしても、鉄のかたまりだ。三人ぶんを持てば、かなりの重さになった。校庭から帰ってくるのに、一人遅れるのはいたしかたないことだ。


「いつも、ドニさまが剣を持つ役目だったのですか?」

「そういうわけじゃないけど、今日は泥遊びしたから。僕が一番、手が汚れてなかった」


 思春期の少年たちの力関係なんて、外から見ただけではわからない。案外、ドニがほかの二人からイジメられているのではないかと思ったのだが、そういうわけではないらしい。


「では、質問を変えます。ドニさまは部屋を出るとき、ベルナールさまのブローチが卓上に置かれているところを見ましたか?」

「見たよ。ちゃんとあった」

「ほんとに?」

「うん」


 ドニは知能がたりないんじゃないだろうかと、ワレサは疑った。そんなこと断定すれば、自分の立場が悪くなるだけだと、なぜ気づかないのだろう。


「では、ドニさまが出ていくとき、ほんとうに鍵をかけましたか? じつはかけ忘れていたということはないですね?」

「ちゃんとかけたよ。ベルナールのブローチはラ・ギヴォワール侯爵さまからの贈り物だと知ってるからね」


 養父になるはずの人からのプレゼント。それは大切だ。絶対になくすわけにはいかない。だからこそ、ベルナールが大さわぎしているわけだ。


「そんなに大事なものを、なぜ、ベルナールさまは机の上などに置いたままにしたのでしょうね? 鍵のかかる引き出しに入れておけばよかったのに」

「さあ? それは急いでたから、ウッカリしたんじゃないかな?」


 まあ、あの泥遊びで興奮したあとでは、そういうこともある。


「そのあと、大浴場でベルナールさまやパトリックさまと合流し、あなたがたは三人で部屋に帰った。鍵をあけたのは、ドニさまですか?」

「いや。僕が鍵をとりだしたとき、ベルナールが受けとってあけたよ。ふだん、鍵を持っているのは、ベルナールだから」


「最初に部屋に入ったのは?」

「ベルナールだね」


 たしかにそれだと、犯人はドニしかいないことになる。いや、部屋に帰ったあと、ブローチがなくなったことに三人が気づくまでに時間があれば、パトリックも怪しくなるが。


「ブローチの紛失に気づいたのは、正確にはいつ? それは誰が最初に発見しましたか?」

「ベルナールが。部屋に入った直後に」

「なるほど」


 聞けば聞くほど、ドニしかいない。


「ちなみに正直にお答えいただきたいのですが、ドニさまはブローチを——」

「とってないよ! ベルナールの大切なものだよ。僕はそんなことしない」


 ドニの口調を聞いて、ワレサは「おや」と思った。

 これまで、ドニやパトリックは、ベルナールにとり入るために近づいているのだと解釈していた。だが、今のドニの口調には少し異なる響きがあった。


「……ドニさまは、ベルナールさまのご友人なのですよね?」

「うん。そうだけど」

「いつからです?」

「えーと、最初に会ったのは、五歳くらいかな? 遠縁なんだ。ベルナールは母上が病弱だから、三年間、うちで暮らしたことがあるよ」

「兄弟のような間柄」

「まあ、そう。幼なじみってやつだね」


 ドニの答えは率直だ。

 もしかしたら、真にベルナールを《《親友》》と目しているのか?


 だとしたら、困ったことになる。《《容疑者が誰もいなくなった》》。

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