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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第十二話 君へ続く光

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君へ続く光3



 薄明の薄紫がぼんやりとピンク色に変わる。

 宿に帰るために、ワレスは長い坂道をくだる。どこまでも堕ちていく感覚。


 あの老人はこれからもずっと、ああして秘密の信号を、夜ごと空になげかけるのだろう。

 過去を悔いながら、二度とは帰ってこない人にむけて。

 君を待っている。私はここにいるよ、と。

 いつの日か、おかえりと言える、そのときまで。

 その日など、来ないかもしれないのに。


(でも、いいじゃないか。あんたの親友は、まだ生きてる。待ち続ける意義がある。どんなに願ったところで、会えない人を待つよりは……)


 ただ、同じ罪を犯した者の存在で、ワレスの孤独は少しいやされた。さびしいのは自分だけじゃないと、痛む胸をなだめることができる。


 そのときだ。

 坂道をのぼってくる人影がある。

 ワレスはドキリとした。

 かなり背の高い男。だが、男には片足がない。木製の義足をひざから下につけ、片手で杖をついている。白髪頭の老人。ちょうど、さっきのロジェと同い年くらいの……。


 ハッとしたのは、その老人の瞳の色だ。すれちがうときに見えたのは、あざやかな青い瞳だった。

 ロジェが最初にワレスを見たとき、息を呑んだのは、きっと、この瞳の色が誰かをほうふつとさせたからだ。


 誰かを——誰を?

 そんなのは決まっている。


 ワレスは思わず、老人のあとを追った。

 坂道をのぼりきると、あの灯台がある。ロジェはまだそこにすわっていた。刻一刻と明るんでくる空をながめている。


 杖をついた老人が、かたわらに立った。

 二人の声は聞こえなかった。しかし、何を話しているのかは、ロジェの驚愕の表情を見ればわかった。老人たちの双眸そうぼうにこみあげてくる涙と、たがいに抱きしめあうその態度を見れば。


 今日が、その日だったのだ。

 ロジェにとって、今日がゆるしの日。人生で最良の日であり、待ちわびていた友の帰還の日。


 ワレスは坂道をかけくだって、その場を去った。


 うらやましい。

 たまらなく、うらやましい。

 ロジェはゆるされた。

 でも、ワレスには永遠にその日は来ない。


 宿に帰ると、エントランスホールにジェイムズがいた。ワレスを見てビックリしている。


「ワ、ワレス? どうしたんだ? 追い剥ぎに会ったみたいな顔して?」

「…………」


 それを聞いて、ワレスのほうこそ愕然がくぜんとしてしまう。


 ついたった今まで、自分は号泣しそうになるのを必死でこらえていた。

 永劫に来ない救いの日を求めて。

 いなくなった天使の腕にすがりつきたくてしかたなかった。いっそ殺してほしいと願うほど。


 なのに、どうだろう?

 たったひとこと、ジェイムズがコミカルな言葉を発しただけで、その瞬間に肩の力がぬけて、ふきだしそうになった。


 完全に油断していた。

 信じられないくらいすんなりと、ふところにとびこんできた。今なら、ジェイムズが剣をぬいて喉元をついても、ワレスは抵抗できなかっただろう。


「ジェイムズ……」

「今度はイカサマを疑う賭場とば胴元どうもとの顔だね」

「だから、ジェイムズ……」

「ああ。なんだい?」


 もうさっきまでの陰鬱いんうつな気分には戻れそうにない。ワレスはあきらめて吐息をついた。


「恐ろしい男だな。おまえは」

「何がだい? そろそろ朝食を食べよう。出発までに」

「……ああ」


 ワレスがゆるされる日は来ない。そもそも、自分で自分がゆるせない。


 でも、少しずつ、何かが変わっているのかもしれない。


 あの茜色の空に、君へと続く光が見える。

 もうその気配が、そこまで——




 了

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