君へ続く光3
薄明の薄紫がぼんやりとピンク色に変わる。
宿に帰るために、ワレスは長い坂道をくだる。どこまでも堕ちていく感覚。
あの老人はこれからもずっと、ああして秘密の信号を、夜ごと空になげかけるのだろう。
過去を悔いながら、二度とは帰ってこない人にむけて。
君を待っている。私はここにいるよ、と。
いつの日か、おかえりと言える、そのときまで。
その日など、来ないかもしれないのに。
(でも、いいじゃないか。あんたの親友は、まだ生きてる。待ち続ける意義がある。どんなに願ったところで、会えない人を待つよりは……)
ただ、同じ罪を犯した者の存在で、ワレスの孤独は少しいやされた。さびしいのは自分だけじゃないと、痛む胸をなだめることができる。
そのときだ。
坂道をのぼってくる人影がある。
ワレスはドキリとした。
かなり背の高い男。だが、男には片足がない。木製の義足をひざから下につけ、片手で杖をついている。白髪頭の老人。ちょうど、さっきのロジェと同い年くらいの……。
ハッとしたのは、その老人の瞳の色だ。すれちがうときに見えたのは、あざやかな青い瞳だった。
ロジェが最初にワレスを見たとき、息を呑んだのは、きっと、この瞳の色が誰かをほうふつとさせたからだ。
誰かを——誰を?
そんなのは決まっている。
ワレスは思わず、老人のあとを追った。
坂道をのぼりきると、あの灯台がある。ロジェはまだそこにすわっていた。刻一刻と明るんでくる空をながめている。
杖をついた老人が、かたわらに立った。
二人の声は聞こえなかった。しかし、何を話しているのかは、ロジェの驚愕の表情を見ればわかった。老人たちの双眸にこみあげてくる涙と、たがいに抱きしめあうその態度を見れば。
今日が、その日だったのだ。
ロジェにとって、今日がゆるしの日。人生で最良の日であり、待ちわびていた友の帰還の日。
ワレスは坂道をかけくだって、その場を去った。
うらやましい。
たまらなく、うらやましい。
ロジェはゆるされた。
でも、ワレスには永遠にその日は来ない。
宿に帰ると、エントランスホールにジェイムズがいた。ワレスを見てビックリしている。
「ワ、ワレス? どうしたんだ? 追い剥ぎに会ったみたいな顔して?」
「…………」
それを聞いて、ワレスのほうこそ愕然としてしまう。
ついたった今まで、自分は号泣しそうになるのを必死でこらえていた。
永劫に来ない救いの日を求めて。
いなくなった天使の腕にすがりつきたくてしかたなかった。いっそ殺してほしいと願うほど。
なのに、どうだろう?
たったひとこと、ジェイムズがコミカルな言葉を発しただけで、その瞬間に肩の力がぬけて、ふきだしそうになった。
完全に油断していた。
信じられないくらいすんなりと、ふところにとびこんできた。今なら、ジェイムズが剣をぬいて喉元をついても、ワレスは抵抗できなかっただろう。
「ジェイムズ……」
「今度はイカサマを疑う賭場の胴元の顔だね」
「だから、ジェイムズ……」
「ああ。なんだい?」
もうさっきまでの陰鬱な気分には戻れそうにない。ワレスはあきらめて吐息をついた。
「恐ろしい男だな。おまえは」
「何がだい? そろそろ朝食を食べよう。出発までに」
「……ああ」
ワレスがゆるされる日は来ない。そもそも、自分で自分がゆるせない。
でも、少しずつ、何かが変わっているのかもしれない。
あの茜色の空に、君へと続く光が見える。
もうその気配が、そこまで——
了




