星夜祭5
「あら、ジェイムズ? 帰ってきたって、どういうこと?」
ワレスから説明する。
「じつは、おれが頼んで、小舟で街まで行ってもらったんだ。しらべてほしいことがあったからな。それで、ジェイムズ。どうだった?」
「うん。君の考えたとおりだ。ディボレー男爵家はおかしいよ。十年前、前の男爵夫妻が亡くなったとき、本来なら、男爵のじつの娘に爵位を継がせるべきだった。なのに、なぜか、その娘を縁もゆかりもない商人の家に養子に出してるんだ。かわりに襲爵したのが、今の男爵夫妻なんだが、どうもまわりの人たちの話からすると、当時の家令が男爵になったらしい。夫人にいたっては召使い頭だ」
「まあ、そんなことだろうと思ったよ。つまり、あの夫人はほんとの男爵夫人じゃない。男爵家をのっとったんだ」
ワレスが見ると、アナイスの頬が紅潮している。
「アナイス。君が亡くなったディボレー男爵夫妻の実子だ。そうなんだろ?」
「はい……」
「自分の素性をいつ知った?」
「二年前。乳母がほんとのことを教えてくれたんです。乳母は赤ん坊のわたしをつれて屋敷を出ていき、養女として育ててくれました。召使い頭だったゾエに、そうしないと殺すとおどされて、しかたなく。でも、ほんとの主人はわたしなんだって」
「それで、復讐をくわだてた?」
「爵位をとりもどすには、家宝をとりかえして、わたしが正当な後継者だと証明するしかなかったので」
「君が持っていた首飾りの座金は、そのために用意したもの?」
「これはわたしの母が生前、乳母に贈った首飾りでした。乳母はわたしを育てるために、宝石を一つずつ売っていったのです。でも、台座に母の名前が入っているから、せめて何かの証になるんじゃないかと思って、これだけは手放さずに残しておいたんです」
「なるほど」
ワレスはジョスリーヌをかえりみる。
「どう思う? ジョス。これは、ただの盗難事件じゃない。あなたの一族の問題のようだ」
「男爵夫人……いいえ。召使い頭と家令は、今すぐ捕らえて処罰します。こんなこと、ゆるされていいはずないわ」
「当然、跡目を継ぐのは?」
「アナイスよ」
アナイスの瞳から透明な涙がこぼれおちる。それはルーラ湖をいろどる星輝石のように、澄んだ輝き。
*
翌朝。
もと家令と召使い頭のゾエは、早急に捕縛され、牢に入れられた。
「ほんとにありがとうございました」
アナイスは感謝を述べるが、これからが大変だ。
「君の後見にはアストリュック子爵がついてくれる。まじめな男だ。きっと頼りになる」
「はい。乳母もいますし、わたし、がんばります」
そう言って微笑む少女の耳に、ワレスはささやく。
「君ならやるだろう。何しろ、あれだけのことを一人で計画したんだ。皇都から来た侯爵の前で、不思議な事件を起こせば、必ず興味を持ってもらえる。そこからゾエや家令の悪事も明るみになる。ほんとの狙いは、それだったんじゃないか?」
アナイスは恥ずかしそうにうつむく。
「ほかに方法を思いつかなくて……」
「まあいい。ジョスは喜んでいたからな」
アナイスと別れ、ワレスたちは出航だ。
昨夜はあれほどにぎわった湖も、今日は落ちついている。のどかな景色が戻っていた。
「ジョスリーヌ。そろそろ皇都へ戻ろうか?」
「そうね。船遊びはたまにだから楽しいのよね」
夜をいろどる豪華な花火や、水中で無数に輝く星のきらめき。花火がひらく瞬間、湖底からざわめくような光が立ちのぼる。
夢のような一夜を充分、堪能した。不思議と皇都がなつかしい。
きっと、そこにはまた、いくつもの事件が待っているのだが……。
了




