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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第十一話 星夜祭

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星夜祭5



「あら、ジェイムズ? 帰ってきたって、どういうこと?」


 ワレスから説明する。

「じつは、おれが頼んで、小舟で街まで行ってもらったんだ。しらべてほしいことがあったからな。それで、ジェイムズ。どうだった?」


「うん。君の考えたとおりだ。ディボレー男爵家はおかしいよ。十年前、前の男爵夫妻が亡くなったとき、本来なら、男爵のじつの娘に爵位を継がせるべきだった。なのに、なぜか、その娘を縁もゆかりもない商人の家に養子に出してるんだ。かわりに襲爵したのが、今の男爵夫妻なんだが、どうもまわりの人たちの話からすると、当時の家令が男爵になったらしい。夫人にいたっては召使い頭だ」


「まあ、そんなことだろうと思ったよ。つまり、あの夫人はほんとの男爵夫人じゃない。男爵家をのっとったんだ」


 ワレスが見ると、アナイスの頬が紅潮している。


「アナイス。君が亡くなったディボレー男爵夫妻の実子だ。そうなんだろ?」

「はい……」


「自分の素性をいつ知った?」

「二年前。乳母がほんとのことを教えてくれたんです。乳母は赤ん坊のわたしをつれて屋敷を出ていき、養女として育ててくれました。召使い頭だったゾエに、そうしないと殺すとおどされて、しかたなく。でも、ほんとの主人はわたしなんだって」


「それで、復讐をくわだてた?」

「爵位をとりもどすには、家宝をとりかえして、わたしが正当な後継者だと証明するしかなかったので」


「君が持っていた首飾りの座金は、そのために用意したもの?」

「これはわたしの母が生前、乳母に贈った首飾りでした。乳母はわたしを育てるために、宝石を一つずつ売っていったのです。でも、台座に母の名前が入っているから、せめて何かの証になるんじゃないかと思って、これだけは手放さずに残しておいたんです」

「なるほど」


 ワレスはジョスリーヌをかえりみる。


「どう思う? ジョス。これは、ただの盗難事件じゃない。あなたの一族の問題のようだ」

「男爵夫人……いいえ。召使い頭と家令は、今すぐ捕らえて処罰します。こんなこと、ゆるされていいはずないわ」

「当然、跡目を継ぐのは?」

「アナイスよ」


 アナイスの瞳から透明な涙がこぼれおちる。それはルーラ湖をいろどる星輝石のように、澄んだ輝き。



 *



 翌朝。

 もと家令と召使い頭のゾエは、早急に捕縛され、牢に入れられた。


「ほんとにありがとうございました」


 アナイスは感謝を述べるが、これからが大変だ。


「君の後見にはアストリュック子爵がついてくれる。まじめな男だ。きっと頼りになる」

「はい。乳母もいますし、わたし、がんばります」


 そう言って微笑む少女の耳に、ワレスはささやく。


「君ならやるだろう。何しろ、あれだけのことを一人で計画したんだ。皇都から来た侯爵の前で、不思議な事件を起こせば、必ず興味を持ってもらえる。そこからゾエや家令の悪事も明るみになる。ほんとの狙いは、それだったんじゃないか?」


 アナイスは恥ずかしそうにうつむく。


「ほかに方法を思いつかなくて……」

「まあいい。ジョスは喜んでいたからな」


 アナイスと別れ、ワレスたちは出航だ。

 昨夜はあれほどにぎわった湖も、今日は落ちついている。のどかな景色が戻っていた。


「ジョスリーヌ。そろそろ皇都へ戻ろうか?」

「そうね。船遊びはたまにだから楽しいのよね」


 夜をいろどる豪華な花火や、水中で無数に輝く星のきらめき。花火がひらく瞬間、湖底からざわめくような光が立ちのぼる。


 夢のような一夜を充分、堪能たんのうした。不思議と皇都がなつかしい。

 きっと、そこにはまた、いくつもの事件が待っているのだが……。




 了

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