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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第十話 箱庭の花

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箱庭の花2



 冗談じゃない。そんなこと、しらべようがないぞと主張してみたところで、ジョスリーヌには通用しない。

 何より、ジョスリーヌの目が輝いている。船旅に少し飽きていたのかもしれない。とつぜん降って湧いた跡継ぎ探しに、ジョスリーヌの興味がひかれてしまったのだ。


 とりあえず、ワレスはリンナールを飲みほした。ミルクと砂糖のたっぷり入った甘すぎる茶で、脳の養分を補充しておかなければ。


「じゃあ、一人ずつ話を聞きたい。あとは自分が伯爵令息の子どもだという証があれば、それを見せてほしい。ああ、それと、令息の若いころの肖像画はないのか? 顔が知りたい」


 後半については、家令が気をきかせて、どこやらから肖像画を持ってきてくれた。


「こちらがゆいいつ残された、アルチュールさまの肖像でございます。ほかの絵はみんな、奥さまが処分されてしまいましたので」


 義母と息子の仲はそうとう悪かったらしい。残った一枚は伯爵が隠していた。アルチュールが出奔する二年前くらいに描かれた肖像だという。


 アルチュールは絵で見ると、小柄で可愛い女の子のような顔をしている。髪は褐色の巻毛。瞳は黒いのでユイラでは一般的だ。しかし、最大の特徴は《《そばかす》》だった。ユイラ人でそばかすはめずらしい。髪も黒髪直毛が多いユイラで、比較的個性的な容姿と言えた。


 この絵を見た感じでは、第一印象は男の子のグリンドレがよく似ている。そばかすがあるし、髪も黒髪だが巻毛だ。ただ、これは年齢的なものと性別のせいかもしれない。


 ジャニーヌは正直、美人すぎるなと思った。とは言え、母親がものすごい美女なのかもしれない。それだけで除外できるほどのものではなかった。


 一方、レナは微妙だ。ユイラ人の女の子としては、かわいそうなくらい地味な目鼻立ちをしていて、鼻の頭に少しだけ、そばかすがある。おさげにしている髪はときどきハネているから、巻毛なのだろう。


「では、話を聞こうか。まずはグリンドレから」

「はい! 何を話せばいい?」


 グリンドレは元気よく受けこたえする。


「たとえば育った街や母の名や、父親に会ったことがあるか、など。父とは別に育ったのか?」

「僕はル・グイド男爵家で育ったんだ。男爵家の三男だとばっかり思ってたけど、ほんとは養子だったんだって。僕のお母さまが若いころに、お父さまとつきあってて。でも、正式な結婚じゃなかったから、伯父さまが自分の子どもとしてひきとってくれたんだ」


 グリンドレはよどみなく話す。とてもハキハキしている。物おじしないたちのようだ。

 しかし、話の内容は貴族の令嬢が不節操ふせっそうをしてできた子どもを、兄のもとへ養子に出したという、なかなかヘヴィーなものだ。


 そのあと、グリンドレは叔母だと思っていたほんとの母のことや、母から聞いた父の思い出などをとうとうと語った。


「わかった。とりあえず、もういい」


 キリがないので黙らせて、『あの子、長すぎるわ。まだなの?』という目をしているジャニーヌに手招きした。チラリとレナを見て、『やっぱり、わたしのほうがさきね』と、視線ににじませる。なんとも正直な目の持ちぬしだ。


「ジャニーヌ」

「はい」

「君は自分の父について、どう思っていた?」

「わたしの母は踊り子なのよ。とても美しくてね。人気者だったの」

「いや、父のことを聞いているんだが?」

「父がどんな人だったかは、わたしには関係ないわ。母は大勢の男たちに、いつもチヤホヤされてたから。プレゼントも毎日されて、生活に困ったことはないの。そのなかの一人が、アルチュールって人だったみたい」

「なるほど」


 しかし、大勢の男と交際していたなら、誰がほんとの父親なのかは、きわめて判断が難しい。とは言え、アルチュール自身が『これはおれの子だ』と認めていたなら、実子かどうかは問題じゃない。その子を継承者にするしかない。


「君はアルチュールと会ったことがあった?」

「ないわね。わたしはハンサムなリュシーがお父さんじゃないかと、ずっと考えてたから、ほかの人だと聞いて、最初はガッカリした」


「なぜ? 伯爵家の跡取りになれば、贅沢ざんまいできるのに?」

「お姫さまの生活も一度はしてみたいけど、わたしもお母さんみたいに、一生、恋をし続けたいの。令嬢になってもそれがゆるされる? それなら、なってもいい」


 なんとも自由奔放な娘だ。

 貴族の城で礼儀作法を厳しく教えこまれて、きゅうくつに暮らすよりは、街の酒場でダンスを見せながら喝采かっさいを浴び、情熱的な恋に身をゆだねるほうが幸せなタイプ。


「わかった。とりあえず、もういい。じゃあ、最後に、レナ」


 呼ぶと、ビクッと肩をふるわせてから、少女は立ちあがった。ワレスの前まで、恐る恐る近づいてくる。


「レナ」

「は、はい」

「君は父の思い出があるか?」


 レナは首をふった。

「わたしは、あの……子どものころにお母さんも死んじゃって、病気で。それで、叔母さんのうちにいたけど、十歳になったとき、もう自分でかせげるからって、呉服屋の徒弟になりました。わたしの係は刺繍ししゅうなんです」

「亡くなった母から何か聞いていないのか?」

「聞いたかもしれないけど、小さかったから……」


 記憶が定かでないと。


「ふうん。わかった。三人とも帰っていい」


 退室させたのには、わけがある。家令の話をくわしく聞きたかったからだ。


「いかがでしたか?」と、たずねてくる家令に反問する。


「逆に、あなたはどう思う? 誰が令息の子どものころに似ている?」

「似ていらっしゃるのは、グリンドレさまでしょう。利発なようですし、男爵家でお育ちなので、伯爵家の跡目をお継ぎになるには最適かと」

「まあ、そうだな」


 貴族としての礼儀や知識を持ちあわせているということだ。たしかに次期伯爵として育てるのは容易だ。単に跡継ぎ選びなら、ジョスリーヌが彼に決定すればいいだけのこと。


 だが、問題はそこではない。

 アルチュールが自身の子として認めたのは誰か、なのだ。

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