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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 ワレスが消えた日

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ワレスが消えた日3

 *



 あれから五日がたった。

 食事の回数やら何やらで、計算すると、そうなる。

 それに日中は鐘の音が聞こえる。ごく近くとは言えないが、少なくとも皇居のそばにある時計塔が遠くない場所ということだ。


 ワレスはあいかわらず、暗い部屋のベッドにクサリでつながれていた。食事や入浴の世話には召使いらしい女がやってくる。


 だから、今のところ飢え死にする心配はない。が、誰がなんの目的でこんなことをしているのか、それがいまだにわからない。


 明かりはないが、闇に目がなれて、少しは周囲が見わけられるようになった。室内の造りはなかなか豪華だ。平民の家ではない。あるいは身分はなくても、富豪の屋敷の内。


 やはり、怪しいメンバーのなかで言えば、第一候補はラ・ヴァン公爵だろうか?

 しかし、それなら、ぼちぼち、ワレスの前にご当人が姿を現すだろうに。ワレスが精神的にもっと疲弊ひへいして、公爵の要求を断れなくなってから出てくるつもりか?


 幸いにして右足にクサリはついているが、体を縛られているわけではないので、室内を歩きまわることはできた。ベッドのまわりしか動けないものの、手さぐりで得た感覚では、近くに窓はない。脱出に使えそうな置物などもなかった。


 ワレス自身の剣は奪われている。服は湯浴みのときに何度か着替えさせられたので、今はもうワレスのものではない。入浴時にはクサリを外され、別室へ移される。逃げだすなら、このときしかないとふんでいた。


 ただし、毎日ではない。二日に一度ていどだ。まあ、貴族の屋敷でも毎日ふろに入る人間は少ないから、二日に一度なら高待遇だ。


 そう。そこがおかしい。

 むりやりつれてきて監禁しているくせに、食事もかなりいいものがあたえられている。料理とともに出される酒は最上級だ。


 この時点で、リュックとジェルマンは容疑者から外れる。彼らの財力では、これだけの用意はできない。


 それに、ジョスリーヌでもないことがわかった。ジョスリーヌなら退屈しのぎにおかしなことを始める可能性はある。が、五日もほっとくことはない。そこまで待ちきれる人ではないからだ。退屈をまぎらわすためなら、もっと早くに、ワレスをおびやかすなりなんなりして、派手な趣向をこらしてくる。


(ジョスのいたずらならよかったのに)


 どうも本格的にシャレにならない目的のようだ。本気でワレスを捕獲しておきたいらしい。めずらしい南国の鳥か、獣のように。


(おれは孔雀くじゃくでも黒豹でもないぞ)


 しかし、クサリは人の力でちぎれるような代物ではなかった。足かせには、しっかりカギがかけられている。


 しかたないので、逃げだすときのために五感をとぎすまし、体力がおとろえないよう筋力だけはきたえておく。


 なみの神経の持ちぬしなら、こんなわけのわからない状態で軟禁されて、光のあたらない部屋にずっと一人で放置されていれば、それだけで精神に異常をきたすところだ。が、ワレスはその点はまったく問題なかった。幼少期にもっと過酷な状況を、イヤというほど経験してきているからだ。このていどのことでは根をあげない。


 ああ、そうか。もしかして、おれを狂わせるつもりなのかなとも考えた。世間知らずの貴公子なら、とっくに泣きわめいて「ここから出してくれ」と懇願こんがんしているだろう。


 もしそうなら、よほどワレスに恨みがあるはずだ。その場合、食事も満足にあたえないのが当然ではないだろうか?

 ほんとに、よくわからない。


 うたたねしていると、外から足音が近づいてきた。

 ワレスは目をあけて、扉のある方角を見る。扉がひらくと、その瞬間、外からの光がさしこむ。室内のようすが見渡せるようになる。


 待ちかまえて注目していると、やはりだ。ベッドの反対側の壁に、ごく小さな窓がある。どうやら板でふさいであるようだ。外が見えないようにという用心か。


 ワレスはそれが気になった。ただの空気ぬきの小窓なら、ふさぐ必要はない。それにワレスが背伸びしても手の届く高さではないのだ。こぶし大の窓だから、人間が出入りできるようなものでもない。


 それでも、あえてふさいでいるということは、あの窓は外に通じているのかもしれない。そうだとすれば、あの壁のむこうは庭だ。または人の通り道。


 となりも部屋なら、もっと物音が聞こえるはずだから、そうではないだろう。ふだん使わない客間なら、物音はしないが、そのかわり、わざわざ小窓をふさぐ必要はなくなる。つまり、庭か通りに面している。


(あそこから、どうにかして、ジョスかジェイムズに連絡がとれないかな)


 ひらいたドアから入ってきたのは、小間使いの服装の女だ。食事を運んできたのだ。ワレスが寝入っていると思い、油断している。


 小間使いは戸口の小さなテーブルに食事の皿と水さしを置くと、ベッドに近づいてきた。ワレスのようすをうかがうためだ。ワレスがあばれてケガをしたり、とつぜんの病気で死んでいたら困るからのようだ。よく考えたら、クサリを首にまきつけて、自殺しようと思えばできる。それを案じているのだろう。


 ワレスは目をとじて眠っているふりをする。小間使いが枕元まで来るのを待った。かなり小柄な女だ。組みふせるのはわけない。


 女がワレスを見おろしているのが息づかいでわかる。

 すばやく起きあがり、ワレスは小間使いをベッドの上に押し倒した。

 カギを奪おうとしたのだ。女はいつも大きなカギたばを持っている。部屋のカギと足かせのカギも、そこについていた。


 キャーと女が悲鳴をあげたとたんに、ろうかからバタバタと数人の兵士がかけてきた。ワレスは引き離され、小間使いは走って逃げだす。


 カギは奪えなかった。

 が、なぜだろう?

 あの女、どこかで見たことがある。それも、わりと最近だ。薄暗い室内だが、たしかに顔を見きわめることができた。


 いったい、誰だったろうか?

 それさえわかれば謎が解ける気がする。

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