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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第七話 虚言の王

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25/52

虚言の王5

 *



 黒髪のカツラを外し、口紅をハンカチでふくと、誰もの知ったワレスのおもてが現れる。胴衣の胸には赤いリンゴが二つ。


「セバスティアン、泣きながら帰っていったわよ。ちょっとかわいそうだったわね」

「堅物をおどろかせろと言ったのは、あんたじゃないか?」

「そうね。かわいそうだけど、あなたが男だとわかったときの、あの人の顔ったら」


 ジョスリーヌはこの上なくご機嫌だ。


「とうぜん、おれの勝ちだよな?」

「ええ。もちろんよ。もう来ないかと思ってたわ」

「途中でおれだと気づいたくせに」

「それは気づくわよ。ささやき声が、あなたなんですもの」

「なるほど」


 地声で男だとバレないように、ささやくように話していたのだが、貴婦人の前では甘い言葉をよくささやく。


 しかし、泣いているのは、セバスティアンだけではなかった。

 ワレスにまんまとだまされたばかりか、惹かれてしまったことが悔しくてならないのだろう。リュックやマクシムも悪態をつきながら帰っていく。アンリだけがクスクス笑っていた。


「約束だから、ワレス。あなたには准男爵の爵位と領地をあげないといけないわね」

「いらないよ。おれはリュックに勝ちたかっただけだからな」

「あら、そう?」

「でも、そのご褒美はもらっておく」

「どうして?」

「おれのかわりに、シモンが管理すればいい。爵位と領地があれば、結婚もゆるされるんじゃないか?」


 まだ部屋のすみには、シモンと令嬢がいた。二人はとつぜんの幸運を泣いて喜んだ。


「ジョスリーヌ。ほんとにいいのですか?」

「ええ。かまわないわ。ワレスがそれでいいと言うなら。結婚式には呼んでくれるわね?」

「もちろんです!」


 二人はかけおちする必要がなくなった。抱きあって去っていく。


 ワレスは商売で、貴婦人を相手に偽りの愛を売る。でも、たまには、みんなが幸せになるウソがあってもいい。


「素敵よ。ワレス。とっても綺麗きれい。そのままの格好で、わたくしの寝室へ来なさい」

「悪趣味だな」

「お人形ごっこをして遊びましょ。アンリ、あなたもいらっしゃいな。きっとドレスが似合うから」

「はい。侯爵さま」


 それはそれで、楽しい夜になりそうだ。


「ジェイムズ。あなたも来ない?」


 ジョスリーヌが誘うので、青い顔をして、ジェイムズは逃げていった。


 退廃たいはいに頭までドップリつかったワレスたちだけが、その姿を見送って笑う。


 ウソつきたちの夜が始まる。




 了

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