虚言の王5
*
黒髪のカツラを外し、口紅をハンカチでふくと、誰もの知ったワレスのおもてが現れる。胴衣の胸には赤いリンゴが二つ。
「セバスティアン、泣きながら帰っていったわよ。ちょっとかわいそうだったわね」
「堅物をおどろかせろと言ったのは、あんたじゃないか?」
「そうね。かわいそうだけど、あなたが男だとわかったときの、あの人の顔ったら」
ジョスリーヌはこの上なくご機嫌だ。
「とうぜん、おれの勝ちだよな?」
「ええ。もちろんよ。もう来ないかと思ってたわ」
「途中でおれだと気づいたくせに」
「それは気づくわよ。ささやき声が、あなたなんですもの」
「なるほど」
地声で男だとバレないように、ささやくように話していたのだが、貴婦人の前では甘い言葉をよくささやく。
しかし、泣いているのは、セバスティアンだけではなかった。
ワレスにまんまとだまされたばかりか、惹かれてしまったことが悔しくてならないのだろう。リュックやマクシムも悪態をつきながら帰っていく。アンリだけがクスクス笑っていた。
「約束だから、ワレス。あなたには准男爵の爵位と領地をあげないといけないわね」
「いらないよ。おれはリュックに勝ちたかっただけだからな」
「あら、そう?」
「でも、そのご褒美はもらっておく」
「どうして?」
「おれのかわりに、シモンが管理すればいい。爵位と領地があれば、結婚もゆるされるんじゃないか?」
まだ部屋のすみには、シモンと令嬢がいた。二人はとつぜんの幸運を泣いて喜んだ。
「ジョスリーヌ。ほんとにいいのですか?」
「ええ。かまわないわ。ワレスがそれでいいと言うなら。結婚式には呼んでくれるわね?」
「もちろんです!」
二人はかけおちする必要がなくなった。抱きあって去っていく。
ワレスは商売で、貴婦人を相手に偽りの愛を売る。でも、たまには、みんなが幸せになるウソがあってもいい。
「素敵よ。ワレス。とっても綺麗。そのままの格好で、わたくしの寝室へ来なさい」
「悪趣味だな」
「お人形ごっこをして遊びましょ。アンリ、あなたもいらっしゃいな。きっとドレスが似合うから」
「はい。侯爵さま」
それはそれで、楽しい夜になりそうだ。
「ジェイムズ。あなたも来ない?」
ジョスリーヌが誘うので、青い顔をして、ジェイムズは逃げていった。
退廃に頭までドップリつかったワレスたちだけが、その姿を見送って笑う。
ウソつきたちの夜が始まる。
了




