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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第七話 虚言の王

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虚言の王1



 それはジョスリーヌの酔狂から始まった。


「なんだか退屈ねぇ。このごろ、同じことのくりかえしで、日々に刺激がないわ。たまにはこう、パァッと派手な遊びがしたいものね」

「…………」


 ワレスは一瞬、あぜんとする。どの口が言うと思ったからだ。

 ジョスリーヌほど自由きままに生きている女は、皇都じゅうを探してもいるはずがない。


 現に今、侯爵家のきらびやかな客間には、ワレスとワレスの同業者が総勢五人もそろっている。つまり、ジゴロや芸術家の卵や、それに等しい連中が。みんな、ジョスリーヌが話し相手に呼びよせたのだ。


 だが、ジョスリーヌ自身はそんなワレスの思いなど無視して、こう言い放った。


「いいこと思いついたわ。ゲームよ。盛大なゲームを楽しみましょう」


 この時点でイヤな予感しかしない。


 ジョスリーヌは続けた。

「三日前にルイド大公領から、ユイラの宮廷に大使が来ているじゃない?」


 いるじゃない? なんて言われても、宮廷貴族でないワレスにはわからないのだが。

 まあ、そこはいい。追及してもムダだ。


「五日後にうちで歓迎パーティーをひらくのだけど、大使はひどくマジメで退屈きわまりない男なのよ。皇帝陛下の手前、宴をしないわけにはいかないし、堅物の男の相手なんて、わたくしはまっぴら。だから、あなたたち、わたくしを楽しませてごらんなさいな」


 困ったような顔をしているのは、顔だけはとびきりいいが、性格はおとなしいアンリだ。ワレスと同じジゴロである。こんなにシャイなくせに、よくジゴロなんてやっている。やはり、顔だけはとびきりいいせいか。


「侯爵さま。楽しませるとは? どうしたらいいのですか? せめてルールは欲しいものです」と、近ごろ注目の作家、マクシムが問う。


 ジョスリーヌは鷹揚おうようにうなずく。


「そうね。では、ウソつき大会にしましょう」

「ウソ……ですか?」

「どんなウソでもいいわ。大使をだまして、わたくしを一番喜ばせた人が勝ちよ。審判はわたし。勝ったら、特別なご褒美をあげましょう。上等な馬でも、宝石でも、なんでもあげる。准男爵の爵位くらいならあげてもいいわよ。もちろん、領地つきで。ただし、大使を怒らせたり、傷つけることをしてはいけません」


 准男爵と来た。

 ジョスリーヌはユイラでも屈指の名門貴族だ。代々の結婚や襲爵で、多くの爵位を一身に集めている。そのうちの一つくらい、誰かにゆずっても、ジョスリーヌにとってはなんの問題もない。


 とたんに場が色めき立った。それはそうだろう。ただの顔だけのジゴロが、とつぜん貴族の仲間入りできるかもしれないことになったのだから。


 ワレスは聞いてみた。


「ルールはそれだけ?」

「ええ。それだけ。わたくしを思いっきり、おどろかせてごらんなさい」

「わかった」


 ワレスは爵位には興味がない。それも准男爵だ。貴族のなかではもっとも低位。厳密にはその下に騎士の位があるが、騎士は貴族に使える兵隊だ。そのていどでは食指は動かない。

 だが、ワレスは負けず嫌いだ。


「お任せください。侯爵さま。必ずや、この私があなたさまに最高の娯楽を提供いたしましょう。私以外にそれができる者など、おりませぬゆえ」


 などと、芝居がかった態度で作曲家のリュックが言う。オペラで名をあげた男だ。

 彼はジゴロのワレスやアンリをバカにしているので、目線がかちあうと火花が散った。


 アンリはオロオロしているだけだが、ワレスは違う。このアンリと自分が同列に見られていると思うだけで腹立たしい。


(見てろよ。絶対、負かしてやる)


 心ひそかに誓う。


「では、支度のために帰ります」と、男たちは去っていく。

 ワレスも思案しながら退室した。が、ろうかへ出たところで、ため息をついているシモンに出会った。


 シモンは売れない画家だ。

 正確に言えば、ジョスリーヌが後見についているから、生活には困らない。描いた絵はすべてジョスリーヌに買いとられ、ラ・ベル侯爵家の豪邸を飾ることになる。


 だが、ジョスリーヌ以外の顧客こきゃくがいないので、彼女にあきられたらおしまいとも言える。


 キレイな絵を描くのだが、今の流行ではない。もっぱらジョスリーヌに顔を気に入られてるのだと、画家仲間には陰口をたたかれているようだ。


「どうした? しょっぱなから、ため息なんてついて」


 ワレスが声をかけても、シモンは遠くを見ながら、ふうっと長い吐息をつくばかりだ。

 うしろからやってきたリュックが大声で笑う。


「敗者がより集まってどうした?」と挑発したあと、さらにあざけりの言葉をなげてくる。

「そいつは失恋して生きる気力がないんだ。かかわってもなんの得にもならないぞ」

「失恋?」

「身分違いの恋だったかな? なあ、シモン?」


 ふりかえると、シモンはまたため息を吐きだした。これは重症だ。ほっておこう。


 シモンのそばを離れるワレスを見て、リュックは笑い声をあげる。


「ワレス。おれは前からおまえが気に食わなかった。おまえやアンリなんて、なんの才能もないくせに、ジョスにとりいって食わせてもらってる。才能の差を見せつけてやるからな」


 大口をたたくと、足どりも勇ましく去っていった。

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