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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集1 魔法使いの赤い薔薇〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第四話 狼男の求愛

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狼男の求愛3



 ジョスリーヌの馬車をこっそり出して、御者台にはワレスがすわる。

 マチアスの実家、アズナヴール家は半刻ほどの場所にあった。比較的近い。


「わたし、屋敷をこっそりぬけだすなんて初めてだわ」


 頬を紅潮させたアマンディーヌは、最初のおとなしいイメージより、だいぶキラキラしている。瞳の輝きが魅力的だ。


「さっそく、マチアスと話そう」


 アマンディーヌがいきなり訪ねてきても、マチアスはおどろかなかった。

 だが、事情を話して釈明を求めると、マチアスの顔色は変わった。神経質そうな風貌がひきつる。


「その話は、ちょっと……」

「どうしたの? マチアス。お母さまがウソを言っているだけよね?」

「ああ、うん……」


 歯切れが悪い。

 マチアスは何かを隠している。


 このまま食いさがってもらちがあかない。ワレスはそっと退席して、邸内を歩きまわった。ここはほかから情報を収集するほうが有益だ。


 ろうかで手すりをみがいている小間使いに出会う。ワレスは美青年の特権を存分にいかして、苦もなく応答を得る。


「ここだけの話ですよ? マチアスさまは死んだ黒犬に呪われているのです」

「黒犬?」

「先代の伯爵さまは狩りがお好きで、たくさんの猟犬を飼っておられました。なかに一頭、とても大きな黒犬がいて、あるとき、伯爵さまを噛んだのです。その傷がもとで、伯爵さまはお亡くなりに。悲しんだ奥さまは黒犬を処分してしまわれました。すると、そのころから急に、マチアスさまの奇行が始まったのです」

「夜中に歩きまわるという話だが」


 小間使いは真剣なおもてでうなずく。


「ただ歩くんじゃないですよ? 寝ながら歩くんです」

「寝ながら?」

「半目をあけているんですが、声をかけても返事がなく、朝になると坊っちゃまはそのことを忘れているのです。わたくしも何度か見ました」

「狼に変身するところを?」

「いえ。寝ながら歩いているところをです。でも、坊っちゃまが歩いた翌朝は、必ず犬が死んでいて……」


 小間使いはブルブルと肩をふるわせる。


「ほかにも大勢が見ております」

「その人たちの話を聞きたいな」


 一刻もさぐると、かなりの事情がつかめた。


 まず、家族構成。

 亡くなった先代伯爵はマチアスの実父であり、マチアスは一人息子。母が再婚し、今は義理の父と母とのあいだに妹がいる。

 ただ、爵位継承権はマチアスが持っているので、彼が成人、または結婚すると、正式に襲爵しゅうしゃくし、伯爵家の全財産をマチアスが受け継ぐことになる。ちなみに、この遺言書で言う成人は三十歳だ。六年後である。


 家族仲は悪くない。

 義父は身分の低い騎士の出身であり、公の場にはほとんど出ない。幼いマチアスが次期伯爵として人前で役目を果たすことが多かった。


(マチアスの母や義父の話が聞きたいな)


 アズナヴール家は見たところ潤沢じゅんたくな財産を有している。が、マチアスの結婚で、その金の管理は母からマチアスへと移る。血のつながらない父はそのことをどう思っているのだろう?


 考えていると、ちょうど庭を散策している貴婦人を見つけた。背の高いスラリとした体つきが、マチアスによく似ている。あれがマチアスの母だ。


 ワレスはちゅうちょなく、貴婦人の前に出ていった。


「ごきげんよう。よい午後ですね」

「ごきげんよう。あなたは?」

「アマンディーヌ嬢のつきそいです。姫君が今、この邸宅に来ていらっしゃるもので」

「あらそう。よかった。アマンディーヌは利発だけれど、ひかえめな淑女ですわね。おとなしいマチアスには、あんなご令嬢がピッタリですわ」

「と言うと、奥方様はご子息と令嬢の交際には賛成なさっておいでなのですね?」

「ええ。わたくしも夫もたいそう喜んでおりましてよ。ですが、あちらの奥様がよく思っていらっしゃらないのでしょう? うまくいってほしいのだけれど……」


 ウソをついているようではない。本気で二人の結婚を願っているふうだ。


「ポレットさまはご子息の例のウワサを案じているのです。黒犬の呪いだそうですが?」


 貴婦人の表情はくもる。


「もう治ったのだとばかり思っていました。何年もあんなことはなかったのですよ。ぶり返したのは、ここ数ヶ月ですわ」

「それは、アマンディーヌ嬢と出会ってから?」

「そうなりますわね」


 そのとき、屋敷のなかから少女が走ってきた。長い黒髪を結わずにたらし、男のような服装をしている。十三、四の美少女だ。自由奔放なふんいきが、ジョスリーヌの少女時代を思わせる。


「お母さま。そのかたは?」


 頬を染めているので、美男子のワレスを見かけて、よってきたのだろう。が、ワレスがアマンディーヌの従者だと知ると、急に態度が変わった。


「行きましょ。お母さま。お茶の時間よ」

「あらあら、マノン」


 母の腕をとって行ってしまう。

 残されたワレスは、夏の花々にかこまれながら、一人、思考をめぐらす。


 これは変身の謎が解けたかもしれない。

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