ロング・デイ・グッド・バイ
ロング・デイ・グッド・バイ
宇宙人の降りて来た星空はとても美しかった。
ウィリアムは地球から来た隕石を拾った。この星にご先祖さんは住んでいたんだなあ。
ウィリアムはそれを持ってMAIの街へ帰った。
MAIは賑やかだ。
「マンモス基金? みんなと一緒にやるんだ」男の子のゾヘーが母親に言って駆けて行く。
ウィリアムはそれの頭に手をやって、「くりくり坊主、マンモス基金は今すぐやった方がいいぞ」と笑いかけた。
ゾヘーもウィリアムに笑い返して駆けて行った。
見回すとメリッサはいないみたいだ。
ウィリアムは市場のもろ芋きびを一つ取って、かじりながら地球局へ行った。
「やあ、また湖畔が増えたか」
「どうしました、ウィリアムさん」
「うん、ちょっとアイネさんの様子を見にね」
「変わりありませんよ」
画面にはジャングル、それに老人が一人映っていた。このアイネ老人はたった一人まだ地球に残り続けている。
「うん、変わりないみたいだね」ウィリアムはまた一口、もろ芋きびをかじり隕石を手の中で確かめた。
月では湖畔が産まれ続けている。この地球局から見える眺めも来る度に湖畔が増えたり一つになったりしている。
地球局から出たウィリアムはその湖畔の横を過ぎ、石器じいの所へいつものように行った。
その途中でメリッサが一人遊びをしていた。遊んでいる内に心が霊な子が生まれた、あのメリッサだ。
「あら、ウィリアムおじさんじゃない」
「メリッサ、何してる。こんな所でじっとしていてはいけないよ」
「何で?」メリッサは不思議そうな顔をして玉を突いていた手を止めた。
「何たって君は思い出人なんだから」
「おじさん、何言ってるか分からない」転がった玉を持ってまた地に突き始めた。
ウィリアムは笑ったまま、石器じいの家のドアを叩いた。
「やあ、そろそろやって来る頃だと思ったよ」
石器じいさんはもう金ヘラとコテを持って洞窟へ潜る出で立ちだ。
「そんなシャリッとした服は汚れるよ」
ウィリアムは自分の顔の美しいだけが取り柄であった。
背広の襟を合わせて、石器じいと共に行く。
ここ月ではあちこちに穴が開いていて、そこから潜ると洞窟になっている。
「今日こそ見つけようじゃありませんか」
「私もそんな気がしてきたよ」
約1000年前の鉄に置換した頭蓋骨が顔を覗かせている。種々様々な生き物がいたようだ。
土を掘る手を二人ともやめて、一休みしていた。
ウィリアムは手に残るリングの跡をさすり、「夢は誰が見せる映像なのかねえ」と言った。
青白く光るカンテラに照らされて、石器じいは「なーも」と頬を撫でた。
まだ指をさすりながら、「イノセントピープルだけが集う天国があったらねえ」とウィリアムは呟いた。
石器じいは「なーも、なーも」と言いながらまた土を掘る道具でかき始めた。
「あっ」声を出したのはウィリアムが先だった。
岩が削れた洞窟の横に海があった。見飽きた海の天然色だ。
「石器じい!」
石器じいも驚いたように声も出さないでウィリアムの握手に応えていた。
「やっぱりあったんだ・・」ウィリアムはしゃがんだ。
「未来とは執念のことなんですよ、ねえ、石器じい思いませんか」そう言った時だった。ウィリアムが洞窟の上を見上げると、川美風が吹いた。
「君の行いに手を」ウィリアムにしか見えないのか、ウィリアムは海岸にいて、天から巨大な手が差し出された。
ウィリアムは振り返って、海を見ている石器じいの手を取って、「good work」と握手した。
石器じいは外へ駆け出していくウィリアムを呆気に取られ見ていた。
さっきまで遊んでいたメリッサの所へ矢のように駆けていくと「good work」とメリッサともウィリアムは握手した。
驚くメリッサを横にウィリアムは地球局へ駆けて行った。
職員とも「good work」「good work」と握手を続け、アイネの画面に向かってマイクをオンにし、「good work」と言った。
市場まで来ると会う人会う人全員に「good work」と握手を求めた。
ゾヘーが帰って来た。「good work」とウィリアムが握手すると、「何かあったの、おじさん」と笑い返してくれた。
現代のアダムとイブのゾヘーとメリッサのために色の白いスナック菓子を買うと、自分の家に帰った。
「メリッサ、うちにおいでよ」メリッサの家へ電話すると、ウィリアムは椅子に深々と座って、またリングの跡を指で確かめた。
メリッサが来ると、先ほど買ったエンドウのスナック菓子を皿に空けた。
「なあに、お話って」メリッサはそれを二、三本口に運ぶとウィリアムを見た。
「メリッサゴーランドと言ってごらん」
「ゴーランド」
「違う、メリッサゴーランドだ」
「メリッサゴーランド・・」
「もう一度」
「メリッサゴーランド」
ウィリアムは感に堪えないように笑った。