episode.5
クリスマス2日前、夕方高宮さんと駅で待ち合わせをして、そのままイルミネーションを楽しみながら街を歩いた。目的地は並木通りで行われているクリスマスマーケットだ。
「わぁ! 可愛いオーナメントがいっぱい」
毎年、取り上げられる国によって、特徴のあるクリスマスマーケットが開かれる人気のスポットらしい。今年は英国がテーマになっており、英国国旗や黒い帽子を被った兵隊などのオーナメントもあった。全体的にハリー●ッターの世界観が採用されているらしく、古き良き英国の雰囲気を満喫できた。
「…懐かしい…」
高宮さんがスノードームのオーナメントを手に取りながらつぶやいた。
「高宮さんクリスマスマーケットは来たことがあるんですか?」
「あぁ、昔ね。英国に住んでいる友人に会いに由希と一緒に行ったことがあってね。向こうは雪がすごくて参ったよ」
高宮さんは当時のことを思い出しているのか、すごく優しい表情でオーナメントの中の雪を降らしている。手にヒヤッとした感覚が伝わると、空からふわふわと真っ白な雪が舞い始めた。
「今日は寒いと思った…」
手を擦り合わせ「はぁ」と息を吐くと。白いモヤになって空に吸い込まれていった。すると「少し大きいけど…」と言って高宮さんが自分の手袋を私の手にはめてくれた。
「た、高宮さんが寒いです!」
「大丈夫だよ、冬の海より100倍マシだから」
片手をポケットに入れ、もう片方の手を私に差し出した。高宮さんの手を取るとまだまだ続く長い出店の道を2人で進む。今日こうして高宮さんに会えてクリスマスを満喫しているのが奇跡みたい。ちょっと前の私からは想像が出来ない状況に、高宮さんに会える一回一回がすごく特別な感じがしてドキドキしてる。
「結衣さん…ジッと見られると…その」
「あ! す、すみません! いつも会えない分…ついつい…」
高宮さんは少し困った顔をして、私を引き寄せると優しく抱きしめてくれた。
「…ごめんね。たまにしか会えなくて。さみしい思い…させてるよね」
「そうゆう意味じゃ…」
こめかみに高宮さんの優しい唇が触れる。
「結衣さんはもっとわがままを言っていいんだよ。そうしてくれた方が俺も安心するんだ」
「…安心?」
「悲しい思いをさせているのに、勝手だと思うかもしれないけど…君がわがままを言ってくれるってことは、俺のことを少しでも必要としてくれてるってことだろ?」
周りの目も気にせず、いつものように高宮さんが私の髪を撫でる。
「わ、わたしは高宮さんとずっと一緒にいたいと思ってます!」
「それ、プロポーズ?」
「は!? いや…その…それは…」
「うそ、ごめん。あんまり可愛いこと言うから、ついからかいたくなって。…ずっと一緒にいたいと思ってるのは俺の方だよ。きみと初めて会ったあの日から」
今、サラッとすごいことを言われた気がする。いやいや高宮さんこそ! それ、プロポーズですか!? 高宮さんの言葉に心臓が反応して苦しい。今絶対顔真っ赤だよー! 顔があげられない私は高宮さんの腕をぎゅっとした。
「…高宮さん…大好き」
「結衣さん、顔あげて」
高宮さんにお願いされると…弱い。ゆっくりと顔をあげると、ちゅっと軽く口づけされた。なんだか名残惜しくなって、離れていく高宮さんの唇を塞いだ。