episode.4
自衛官は国防の関係から任務について他言する事は出来ないが故、急に連絡が取れなくなってしまうこともあること。一般病院での兼任勤務もあるため、時間が不規則になってしまってあまり自由に会えないこと。後出しで騙したみたいになって申し訳ない。と高宮さんが話をしてくれた。
「それでも、俺は君とこのまま付き合いたいと思ってる。返事は今じゃなくて大丈夫だから、ゆっくり考えてみて」
あの時告白しなかったら、今こうして君と一緒にいることすら叶わなかった。だから、君の考えが固まるのを待つくらい平気だ。と、私の気持ちを大切にしてくれているのが伝わってくる。
きっと今までも同じような状況で、高宮さんが大切な人を手放してきたかと思うと、彼のことを大切にしたいと強く思ってしまった。惚れた弱みというか何というか、『全力で応える』の一択しか私の考えはなくなってしまっていた。
「わ、私が高宮さんのこと大切にします!」
そう高らかに宣言したのが3か月前。そして季節は移ろい、寒さ厳しい冬となりました。私と高宮さんといえば、相変わらず1か月に1〜2度会えるかどうか…そんな現状で関係が進展するわけもなく、世間ではクリスマス一色となりました。
すでに高宮さんからクリスマスは勤務があり会えないことを丁重に告げられていた。あの後、何度も『浮気』とか『都合のいい女』とか、絶対に誓って違うことと、どれだけ私のことを好きなのか恥ずかしくなるくらい力説してくれた。高宮さんなりに私を安心させようとしてくれる行動に心がぽかぽかしてくる。まぁ、自衛官とか高宮さんの立場とかそれなりに理解をしているので、私はそこまで心配とかしていないが、高宮さんがどうも最初の勘違いにかなりショックを受けていたようだ。
高宮さんの提案で、その代わりといっては何だがクリスマスの2日前にデートの約束をしている。当日でないのは少し残念だが、クリスマスの雰囲気は2日前でも十分に味わえるだろうというのが結論だ。
約束の1週間前になり、久しぶりに新しい服を買い、服に合わせて靴を買い、美容院の予約もした。こんなに女子っぽいこといつ以来かなぁ…と物思いにふけながら、並木の通りをのんびりと散歩していた。
向かいから来る、背のすらっと高いロングヘアの女性が何だが気になって目で追ってしまった。隣にいる誰かと楽しそうに話しているその表情に惹きつけられてしまったのだ。人混みで相手がどんな人なのか分からなかったが、こんな芸能人のような美人と一緒にいる人だからきっと相当レベルの高い人だろうと勝手に予想をしていた。
「律くん、ちゃんと私のこと考えてくれるの!?」
りつくん…? 一瞬見えたその横顔は紛れもなく高宮さんだった。
いつも私と会うときはスーツ姿だけど、今日は少しラフな格好で彼女の隣を歩いている。
人混みに紛れ私に気付かず高宮さんたちが通り過ぎた。高宮さんは不安になられるくらいなら迷惑と思わず正直に話してほしい。と言っていたが、これは絶対に触れてはいけない領域な気がしてならない。
声をかけるべきか、悩んでるうちに高宮さんたちは遠ざかって行ってしまう。でも…私…こんな気持ちでクリスマスに高宮さんに絶対会えない気がする!
「た、高宮さん!」
街の喧騒にかき消されないよう、勇気を出して声をかける。すると、先に彼女が気付き後ろを振り向いた。私は恥ずかしさのあまり、顔が熱くなるのを感じた。
「律くん、知り合い?」
と彼女が高宮さんに話しかける。高宮さんがそれに気付きこちらを振り返った。一瞬驚いた表情を見せると、高宮さんがこちらにかけよってきて反射的に手首を掴まれた。
「結衣さん、久しぶり」
「あ、えっと…お久しぶりです」
「ちょっと律くん! 急に走り出さないでよ」
高宮さんのことを『律くん』と呼ぶ彼女は、追いつくなり高宮さんの腕を取り私を一瞥する。
「あ〜、この子が例の? 今回はいつもとタイプ、全然違うじゃん。律くんらしくない感じ」
明らかに私に敵意をむけてきている。声をかけたことを後悔した。後悔したと同時にわけもわからず涙が溢れてきた。
「待って、待って! 泣かないで」
「あーあ、律くん女の子泣かしてるんだー。いけないんだー」
「あのなぁ、由希がいるから勘違いされてんだって」
「えー、そんなこと言ったって、今日誘ってきたのそっちじゃん」
「誘ってきたって…まぁ、そうだけど」
やっぱり…高宮さんが誘ったってことは2人はそういう関係なんだ。さっきまでクリスマスデート楽しみだったのにな…。浮かれてる自分が虚しくなってきた。目の前で2人が言い合いしているのをもうこれ以上聞きたくない。この場を離れたいと思ってるのに、私の手首をつかむ高宮さんの右手がそれを許してくれない。
「もう、律くんがそんな態度ならバラしちゃうからね!」
高宮さんの手に力が入るのが分かった。由希と呼ばれるこの人は高宮さんの秘密を知っている。しかも、この場で話せないと言うことは私に知られたくないことであるのは明白だった。涙が次から次へと流れ、視界がぼやける。
「わかった!」
高宮さんは由希さんの手を払うと私を抱きしめた。
「バラしたいならバラせばいいだろ」
こう着状態が続くと由希さんの提案で近くのカフェで私が落ち着くまで休憩をすることになった。私はどんな秘密があるのかモヤモヤしたまま高宮さんに手を引かれカフェへ入る。
「結衣さん、落ち着いた? 今日なんだけど…実は結衣さんのクリスマスプレゼントを選ぶのに由希に付き合ってもらってたんだ」
…よりによって楽しみにしてたクリスマスのことを持ち出されるなんて。私はより一層混乱した。
「はぁ…律くん相変わらず女の扱い方ヘタすぎでしょ。余計誤解を招くわよ」
「どうゆうことだよ? 事実を伝えたまでだろ」
高宮さんは由希さんとだとすごく自然…しかも何だか自然体の彼が幼く見えてしまう。
「結衣ちゃんは、こんな男のどこがいいんだか。とりあえず私と律くんの関係が知りたいんだよね?」
「…はい」
「関係って、俺と由希はいとこだよ」
「でも、クリスマスプレゼント一緒に選ぶくらい仲良しってことですよね?」
「まぁ、ガキの頃からいつも一緒だったし、こいつは特別っていうか…替えがきかないってゆうか…」
「律くんストップ、恥ずかしいことサラッと言わないでくれる! それに今の言い方だと完全に誤解されたからね!」
「は!? 事実だろ?」
由希さんは呆れたように高宮さんを見やると、私に向き合い真剣な顔つきで言葉を続けた。
「律くんが惚れた女だから言わせてもらうけど、律くんは医者でイケメンで女慣れしてるから遊んでそうで心配になる気持ちは分からなくない。でもちゃんと律くんを見てればわかるけど超絶不器用で一途なの。で、律くんは今の会話、私が彼女ならもうほんとブチ切れてるとこだからね」
「そこまでのことじゃないだろ」
「律くんもいい加減気付きなよ。もう鈍感律くんにはこれ以上付き合いきれないわ。私この後用があるから、あとは2人で話し合ってね」
呆然とする高宮さんを置き去りにし、由希さんは颯爽と去っていってしまった。2人の間に沈黙の時間が流れる。高宮さんが意を決したように私の手を取り話し始めた。
「確かに俺が由希を誘って君のクリスマスプレゼントを一緒に探していたのは事実。事実なんだけど…。もしかしたら結衣さんは勘違いしてると思うから言うけど由希は女じゃなくて、男なんだ」
…男!? そう言って学生時代に撮った学ラン姿の由希さんと…高宮さんの写真を見せてもらった。確かにどことなく由希さんの面影が…。そんなの、わかるわけないじゃん! 恥ずかしすぎて穴があったら入りたい…って、スマホの中の学ラン姿の高宮さんに興味をそそられた。今より髪の毛が長くて細身の幼い高宮さんがスマホの画面に映っている。イケメンすぎる…。
「高宮さん若い…」
「いや、俺じゃなくて…もう、いいかな!?」
高宮さんが気恥ずかしそうにスマホをポケットにしまってしまった。もう少し見ていたかった!
「だから、その…俺的には、男友達と彼女のクリスマスプレゼントを見に行く感覚で…。ただ、君に誤解させたのは申し訳なかった…」
「ち、違うんです! 高宮さんのこと少しでも疑った私が最低なんです…ごめんなさい」
頭を下げると、高宮さんの大きな手が何度も私の髪を撫でた。
「それって、結衣さんが俺にヤキモチ妬いてくれたってことだよね?」
顔をあげると、高宮さんが私の髪の毛を弄びながら優しい笑顔で私を見つめていた。
「そ…それは…その……はい」
ごにょごにょと話す私を高宮さんは満足そうに眺めている。う…、その顔は反則です!!