episode.30
「ちょ、ちょっと待って!? プロポーズ!!?」
奈々ちゃんが、口に運ぼうとしていたアスパラベーコンを机に落とした。おしぼりを奈々ちゃんに差し出すと、横から莉子が感慨深い顔つきで私を見る。
「あの結衣もついに人妻かぁ」
「え?」
「…え?」
私の反応に、同時に二人が意外そうな顔をした。しびれを切らした奈々ちゃんが、ちょっと戸惑いながら「…結婚…しないの?」と質問してきた。まぁ、そうなりますよね。あれだけ二転三転しておいて、結局付き合ってるんだから、その先にあるのは『結婚』の二文字になりますよね。
「…えっと…もしかして、噂の東堂さんのこと…好きになっちゃったとか?」
「ち、違う、違う! 東堂さんは大切な人だけど、恋愛とか結婚とかそうゆう対象では!」
「…じゃ、なんで?」
莉子が冷静に質問を投げかける。その隣の奈々ちゃんときたら、頭の中の妄想がダダ漏れている状態だった。
「高宮さんに不満があるわけではない…です」
一段と二人の眉間のシワが深くなった。今までにない状況に説明が難しい。けど、一番は何かをきっかけに高宮さんの気持ちが離れてしまうのでは?…ということなのかもしれない。高宮さんを信用していないわけではないと思う。けど、どんな恋愛においても別れがくることは少なからずあるのだ。そして、『結婚』は契約であり、『恋愛』とは似て非なるものだと思っている。『別れ』の重みが違う。
「つまり結衣は、いつか捨てられてるのが怖くて、怖気づいてるってこと?」
「奈々ちゃん、言い方! まぁ…でも…簡単に言えばそうかもしれない?」
「高宮さんに『どんな事があっても、結衣といる未来を選択する』て宣言までされても不安ってこと?」
「…それは…」
「ねぇ、結衣はそんなうだうだしてて、明日高宮さんが死んでも後悔しないの? ちゃんと忘れられる?」
莉子にそう言われて、高宮さんが自衛官であるという事実から、都合よく見ないふりをしていた自分に直面した。この前の東堂さんのけが…日頃から訓練をしていても、命の危険性があることを実感したばかりだったのに。
「…全然ダメじゃんわたし…」
「結衣?」
高宮さんが明日死んだら…そんなの、後悔するに決まってる。いつか別れがくるかもしれないけど、そんな先のこと、今から心配するより1日でも長く高宮さんと一緒にいたい。
「私、すごい時間の無駄遣いした…」
「そんなことないって…たくさん考えたから、今の結衣がいるんでしょ?」
「まぁ、善は急げって言うし、早めに高宮さんに会って気持ち伝えておいで」
すぐにスマホを取り出すと、高宮さんにメッセージを送った。今年もサマーフェスタが開催される時期となり、準備に追われているとのことで、それから1週間後、ようやくフェスタ当日、高宮さんに会える日となった。




