episode.29
ケーキを準備し終えた高宮さんと相馬くんがお盆を運んで来た。
「あんまり結衣をいじめるなよ」
「仲良くなりたくて来てもらったのに、そんな事するわけないじゃん! 静琉〜、律くんが私をいじめる〜!」
「はいはい、凛は見とくから、千代は先にケーキ食べて」
凛ちゃんを相馬さんに預けると、千代さんは私にケーキと飲み物を差し出した。
「で、何話してたの?」
相馬さんが凛ちゃんにいないないばぁをしながら、気のない質問した。
「律くんがプロポーズのOKもらえなくて落ち込んでる話」
「ごほっ!!」
隣でアイスコーヒーを飲んでいた高宮さんがむせた。まだ苦しそうに咳をしている高宮さんにハンカチを差し出し、背中をさすると「大丈夫」と静止された。
「お、お前…」
「だって、あの律くんがこんなに大切にしてる彼女なのに、断られちゃうなんてよっぽどじゃん!」
「あのってなんだ!」
「仕事人間ってこと〜、今までの彼女はかわいそうだけど、律くんの本当に大切な人じゃなかった気がするんだよね。でも、結衣さんは違うじゃん? 命に換えても守っちゃう感じじゃん。いないと生きていけないって感じじゃん」
「あ、あのな〜! そんな恥ずかしいことをずけずけと…」
「…でも、本当のことでしょ?」
一瞬何か言いたげな表情をするが、私の顔を見ると高宮さんはもう一度千代さんに向き合った。
「その通りだよ。結衣が俺の全てだ。この先どんなことがあっても、結衣といる未来を選択する」
「…約束だからね。今度こそ、律くんがちゃんと幸せになってね。…結衣さん、私がこんなこと言う資格無いし、2人のことを知ってるわけじゃないんだけど…出来ることなら…結衣さんに律くんを幸せにしてあげてほしい」
相馬さんは千代さんの隣に座ると、彼女に優しく微笑みかけた。そのあと、凛ちゃんのアルバムを見たり、育児の話を聞いたりして、あっという間に夕方になってしまった。凛ちゃんも遊び疲れたのかぐっすり眠っている。
寝顔の凛ちゃんにサヨナラし、2人にお礼を言うと部屋を後にした。お互いを想い合う2人を見て、結婚することで解決する想いもあるのではないかと、ふとそんなことを考えた。エレベーターから降りるとき、高宮さんが「今日のこと、あんま気にしなくていいから」と微笑んだ。
そういえば、今日は高宮さんにすごい告白されたんだった。『どんな事があっても結衣といる未来を選択する』…多分、千代さんとのことがあったからだよね…。あの時は、実家に反対されたって聞いた…。
もし、高宮さんといる未来を選択したのであれば、絶対にさけては通れない道になるのだろう…。確かに…今まで高宮さんの口からあまり家族の話は聞いた事なかったな。
「結衣、どこかでご飯食べて帰ろうか?」
「…今日は…もう帰ろうかな…」
「…わかったよ。今日は来てくれてありがとう」
高宮さんは私を抱きしめると、「ちょっと充電」と言っていつもより長く頭を撫でた。久しぶりの高宮さんの匂いが、私のざわざわしていた心を落ち着かせてくれる。好きな人に抱きしめられて、肌が触れ合うだけで、こんなにも安心出来るなんて…。私はいったい、何を迷っているのかすら、わからなくなってきた。




