episode.27
京都旅行から数日後、東堂さんから内勤に戻り忙しくなるため当分会えなくなるとの連絡が入った。
「三雲さん、京都旅行どうだった?」
「えーと…とっても素敵なお宿でした!」
あの後、東堂家の古くからのお手伝いさんが車を運転してくれ、横須賀まであっという間に戻ってきた。疲れのせいか変な夢を見たことは誰にも言えない…東堂さんのこと卑猥な目で見てしまってすみません!
勤務を終え帰宅すると、ドアの前に見覚えのある人影を見つけた。
「高宮さん!」
私の声に反応すると、持っていたスマホから視線を外し微笑みかける。その胸に飛び込むと、彼に優しく抱きしめられる。
「おかえり、結衣」
久しぶりの高宮さんの声に胸がドキドキした。少し恥ずかしくなって、高宮さんの胸に顔を埋める。頭上でクスッと笑う高宮さんの声が聞こえた。余計とドキドキしてギュッと高宮さんを抱きしめる。
「部屋に入ろうか」
誘うような声に返事が出来ず、小さく頷いた。部屋に入ると、扉に押しつけられるように高宮さんに口を塞がれた。吐く息が苦しくなるくらい、次から次へと優しいキスがふってくる。
身体の奥が疼くようなキスに思考がついてこなくなる。ちゅっと小さくおでこにキスをすると、もう一度優しく唇を塞いだ。
「お、おかえりなさい…高宮さん」
高宮さんが、小さくため息をつくと、私の肩に項垂れた。いつもはこんなに甘えたりしないのに…仕事が大変だったのかな。優しく高宮さんの頭を撫でる。
「結衣…結婚しよう」
ため息の延長かと思うほど、小さく掠れた声で高宮さんがささやいた。どくんっと心臓が跳ねる。高宮さんと…? 結婚…?? 頭の中で返事を考えれば考えるほど、どんどん真っ白になっていく感じがした。すぐに返事をしたいのに、喉が詰まって上手く言葉が出てこない。
「…結衣?」
ギュッと高宮さんに抱きしめられたかと思うと、「ごめん、泣かせるつもりじゃ無かったんだ…」と切ない声が聞こえる。
気づくと頬を涙が伝っているのに気がついた。
「ち…違うのっ!」
そう言うのが精一杯で、後の言葉が続かない。ひょいと抱き上げられると、そのままソファまで連れてこられた。高宮さんはポケットから見覚えのある小さな箱を取り出すと、机の上に置き私の隣にゆっくりと座った。
「君が幸せになることが俺の願いだから、どんな選択をしてもちゃんと受け止める。ただ…もしこの先も一緒にいられるのなら、俺が結衣を幸せにしたい」
「…高宮さん…」
あの日から、関係を修復することばかり考えていた。…結婚と言われ、昔の私なら何も迷うことなく高宮さんの胸に飛び込んでいたに違いない。今もそうしたいと思っているはずなのに、高宮さんの望む言葉が上手く出てこない。不甲斐ない自分に嫌気がさす。
「ごめんなさい…」
高宮さんが一瞬傷ついた表情になったのを見て、取り返しのつかない言葉を伝えたことに気がついた。高宮さんにどう伝えたらわかってもらえるの……
「そう…だよね。いきなりこんな話してごめん。結衣は何も悪くないから、そんな表情しないで」
優しく肩をさする高宮さんの手が少しだけ震えている気がした。居ても立っても居られなくて、私は高宮さんをギュッと抱きしめた。
「あの…そうじゃなくて……私もこれからのことちゃんと考えるので、少し時間を下さい」
高宮さんから伝わる心臓の音が、徐々にゆっくりと優しくなっていくのがわかった。




