episode.22
高宮さんが呼び出され、いてもたってもいられず部屋の中をうろうろするが、改めて何も出来ない自分を思い知らされるばかりだった。
いったん落ち着こうと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとソファに座り込んだ。東堂さんには、高宮さんと別れてからの数ヶ月本当に気にかけてもらった…。今、高宮さんと一緒にいられるのも東堂さんのおかげ。
ようやく高宮さんから連絡が入ったのは昼を過ぎた頃だった。私が心配していることを伝えると、少しだけなら面会が可能だというのでタクシーを拾って病院へと急いだ。
「やあ、結衣さん。わざわざありがとう」
明るい声とは裏腹に、ベッドで横になる東堂さんの腕と脚には頑丈な石膏がはめられていた。その傍らでめそめそと突っ伏している若い隊員の方と、それを呆れた顔で見下ろす高宮さんがいた。
「東堂一尉…すみませんでした! 俺の不注意で…ぐすっ」
「俺のことは気にしなくていいよ。秋庭に怪我なくて本当によかったよ」
東堂さんは優しい笑顔で、鼻をすする秋庭さんの頭をぽんぽんとなでる。高宮さんはますます呆れ顔に拍車がかかる。
「秋庭、お前はもう戻れ。ここで泣いていても、東堂の怪我はよくならん。東堂も東堂だ! 自己犠牲もほどほどにしろ!」
「高宮一尉〜」
「悪かったね、律。心配かけて」
秋庭さんはその後もしばらくの間、東堂さんに飲み物を持っていったり、テレビは何が見たいか聞いたり、甲斐甲斐しくお世話をしていた。高宮さんと同じくらいスラっと背が高い割に、柔らかな明るい猫っ毛と人を惹きつける愛嬌さがある秋庭さんは、何だかゴールデンレトリバーのようだった。
「しかし、もろもろの検査等で1週間入院って…俺も明日から2週間近く海に出るしな」
「律も心配性だな。俺は大人、ここは病院。何不自由はないよ」
「退院してからのこともあるだろ。だいたいギプス外れるのだって、早くて一か月はかかる…」
あっけらかんとした東堂さんとは対照的に、高宮さんは可愛いペットを長い間誰かに預けるかのような心配ぶりだった。
「あ、あの…私でよければ、是非お手伝いさせて下さい!」
「え!?」
東堂さんと高宮さんが同時に驚いたように私を見た。
「こんな格好ですが、不自由ないですよ。結衣さんだって仕事があるでしょう」
「そうだ! 結衣に介助は大変すぎる。なんなら秋庭を呼び戻して…」
「秋庭は律と一緒でしばらく海だろ?」
高宮さんは眉間にしわを寄せて、考えあぐねている。東堂さんは散々関係ない私を気にかけて優しくしてくれた。今こそ恩返しをしたい。そして困っている高宮さんの役にもたちたい!
「大丈夫です! 普段重たい本とか持ってるんで力はある方です。だから私に出来ることがあればお手伝いさせてください!」
「いや、だから…」
「私が東堂さんのことちゃんとみますから、高宮さんも安心してお仕事頑張ってきて下さい!」
そのあと私に何か言いたげな表情をした高宮さんに、
「…だそうだけど、どうする律?」
盛大にため息を吐いたと思ったら、高宮さんは東堂さんに近づき小声で何か話している。それを聞いた東堂さんがおかしそうに笑いを堪えていた。
「じゃ、律の許可も出たことだし、結衣さんの好意に甘えるとします。少しの間、よろしくお願いします」
「こちらこそ! 何でも言って下さいね!」
何かあるときは連絡をくれることを約束して、東堂さんの病室を後にする。高宮さんは私の半歩先を歩いていた。
「東堂は、頼ることを知らないやつだから、連絡がなくても顔を見に行ってあげてほしい」
「高宮さんは東堂さんのこと大切に思ってるんですね」
高宮さんの腕を掴み顔を覗きこむと、恥ずかしそうにする彼の顔が見えた。何だか微笑ましい光景に、私の頬も自然と緩んでしまう。
「でも、必要以上に近づくのは禁止だから」
「私も大切にされてる気がします!」




