episode.15
高宮さんと別れて3か月、季節は初夏になりいつもの日常が戻っていた。変わったことといえば、ちょくちょく東堂さんに会うようになったことと、職場に新しい子が入社してきたことだ。
「あっつ…」
初夏といっても照りつける日差しがジリジリと痛い。
「あと俺やっとくんで、三雲さん館内業務戻っていいっすよ」
私の隣で泥まみれになりながら、花壇整備に尽力しているのは4月入社の新人くんである。見た目とは裏腹に何でも一生懸命なところが眩しい…あと若さ。まだまだ大学生気分の抜けない感じが若い!
「もうちょっとで終わるし、一緒にやった方がすぐ終わるでしょ?」
「三雲さん、まじめっすね。けど、そうゆうとこ好きです」
軽い! とにかく発言に重みが感じられない。最初は何だか変な気分になっていたが、今では羽よりも軽い発言を流すまでになっていた。
「相沢くん、無駄口たたいてないで、手動かす!」
「うっす!」
素直で犬みたいなところは万人受けしているようで、若い子から年配の職員さんまで彼の悪口を言う人を聞いたことがない。
うわっ、すごい汗かいた! 今日は早上がりでよかった〜。けど、電車大丈夫かな?? 汗拭きシートでできる限り処置をほどこし、図書館を後にする。
「三雲さん!」
私より少し先に上がった相沢くんが駅の改札から私に手を振っている。あれだけ泥まみれになっておきながら、そんなことを感じさせない爽やかさが眩しい。
「今日はお疲れ様。また明日ね」
汗もかいて匂いが気になるので、早く帰宅したい私はあいさつもそこそこに相沢くんの横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待って下さい。俺、三雲さん待ってたんです」
いつもはふわふわしている彼が、真剣な顔つきでそんなことを言うから少し身構えてしまった。
「こんなとこで言うのもあれなんですけど、俺三雲さんのことずっといいなと思ってて。もし彼氏とかいなかったら、俺と付き合ってもらえませんか?」
「…ごめんなさい。相沢くんとは付き合えない」
「少しも可能性ないっすか?」
それは…もう大丈夫と思っていたが、高宮さんのことが頭をよぎると言葉がつまって思うように話せなくなってしまった…。
「結衣さん?」
背後から声が聞こえて思わず振り向いた。
「東堂さん?」
相沢くんは東堂さんを見ると、お疲れ様でした。また明日。と改札を抜けていってしまった。
「もしかして…邪魔してしまったかな?」
「えっと…その…」
4月から図書館の広報担当になった私は、時々東堂さんに会って自衛隊との調整役を任されていた。館長の意向で、どうしても自衛隊を売りにした図書館にしたいらしく、自衛隊コラボのイベント開催を目論んでいる。近年、紙媒体の減少に伴い図書館も客足が減っている中、他と差をつけ呼び込みたいのが狙いらしい。
連絡しようと思ってた。と、ちょうど会えたし少しだけ近くのカフェで話をしたいと提案された。
「さっきの子は…」
「しょ、職場の後輩です」
「もてますね…」
「聞いてたんですか!?」
少しだけ。と東堂さんはストローでアイスコーヒーの氷をつつく。カランと音を立て、氷が列を崩して沈んでいった。
「まだ、律のこと忘れられませんか?」
「…そういうわけじゃ…」
「…結衣さんは、嘘が下手ですね」
東堂さんの瞳はとても澄んだ灰色をしていて、その瞳と合うと何もかも見透かされているみたいで苦手だ。少しの沈黙の後、東堂さんは今度の基地の取材についての概要を説明してくれた。
「やはり、気が進みませんか?」
「いえ、仕事なので大丈夫です…」
「何かあれば、俺がフォローします」
気が進まないか、と聞かれれば…高宮さんの職場だから、もしかしてどこかで会ってしまったら気まずい思いをするのは間違いない。でも、元気に働いている高宮さんを見て、私の選択は間違ってなかったと思いたい。そんな私の複雑な感情も、きっと東堂さんはわかっているのだと思う。




