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Chiyo to Ritsu

未来も見えない私の人生の中で、律くんは私の全てだった。


「千代?」


名前を呼ばれるだけで、どうしても私の心臓は律くんに反応してしまうのだ。


「大丈夫? 心臓苦しくなった?」


「律くんのせいだからね」


「え!? 俺、何かした?」


「名前呼ばれた。だから心臓がヤバい…」


私の冗談にも真剣に付き合ってくれる律くんはとにかくモテるのだ。本人は気づいていないこと多いけど、それでも彼の周りにはいつも誰かしらいる。私がこんな身体じゃなかったら、堂々と戦線布告してやるのにな。


でも律くんは浮気はしないと思う。私が言うのも何だけど。それは一緒にいて彼を見ていればわかる。



「律くん、いつになったら満天の星空見に行けるの?」


「元気になったらだよ」


「そんなのいつになるかわからないでしょ?」


「大丈夫、ちゃんとよくなるし、ほらリサーチ済みだから」


そう言ってスマホの画面いっぱいに映る満天の星空を見せてくれる。私が言ったことを覚えていてくれたんだ。


「天文関係詳しい人に聞いたから間違いないよ。ここのキャンプ場なら2時間くらいで行けるし」


「ほんと!? じゃ、今日行こ!」


「それはダメ。千代の身体が一番大切」


時々律くんの真面目が窮屈な時もあるけど、その分大切にされてることは伝わっている。



「そういえば研修の高宮先生って、高宮総合病院のご子息らしいよ」


「通りで! 育ち良さそうだもん。しかもイケメン! 彼女とかいるのかな?」


「知らないの!? 805号室の犬飼いぬかいさんと付き合ってるっぽいよ」


「え!? あの心臓移植の?」


「そうそう、なんかそうゆう子選んじゃうところもポイント高いよね!」


「でも、大病院の御曹司とかたや心臓病の女子大生って、実際うまくいくの?」



それは私が一番よく分かってる。上手くいくわけないって…。でも、この先どうなるかわからないなら、神様…今だけは律くんと一緒にいることをどうか許してほしい。



そうして2年が過ぎ去った。



律くんはうちの病院での研修が終わり他の病院に移った。毎日は会えなくなってしまったが、忙しい合間を縫って私に会いに来てくれている。


「ちゃんと食べてる? もうすぐ移植手術なんだから体力つけないとだめだよ」


「食べてるよ!」


最近の会話は病気の事ばかりでつまらない。心配してくれるのは分かってるけど…律くんとはもっと楽しいことや未来の話をしたい。



「律くんは今日一日どうだった?」


「俺はいつも通りだよ。千代は?」


いつも通りってなんなの? 律くんのいつもは律くんにしかわからないじゃん。


「私もいつも通り、朝起きてご飯食べて、検査して、終了」


「何か怒ってる?」


可愛くない!と心底自分の行動に嫌気がさす。こんなんじゃ、律くんの心もいつか離れていってしまう…。


「別に怒ってない」


「千代、機嫌直して」


律くんはこういうとき、決まって優しく抱きしめキスをしてくれる。私は律くんに弱い…だからそれだけで許してしまうのだ。


「律くん…ずるい」


「知ってる」


そう言って律くんはもう一度キスをする。


「ねぇ、律くん。律くんは私が死んだら悲しんでくれる?」


「千代、それは言わない約束。ちゃんと良くなるよ」


それ、もうずっと言ってるよね…。実際、移植手術になるにはドナーが必要だ。なかなかドナーが現れず、亡くなってしまうケースも少なく無い。私は間に合うのだろうか…死んでしまったら…律くんに会えなくなってしまうんだ。


それからほどなくして、律くんの父親の代理と名乗る人が現れた。律くんと別れることを条件に、アメリカでの移植手術と留学を提案された。


「全て費用はこちらで負担します。あなたも時間がないことは知っているでしょう。死んでしまったら元も子もないのですよ。あなたの命と未来をかけるほど、高宮律さんにこだわる必要はないはずです」


「お、お断りします! 私、律くんと離れるなんてできません」


「もう少し、自分自身についてしっかりお考えになった方がよろしいのでは? あなたのことを今まで大切にされてきたご両親のお気持ちはどうなさるおつもりですか? あなたを失えば生涯消えない傷を心に負ってしまわれる」


私の入退院ですごく迷惑をかけてきた両親。そんなこと私の前では一切出さず寄り添ってくれている。私が死んでしまったらどうなるのだろう?


「それから律さんは、今後病院の跡取りとして他のご令嬢とのお見合いも控えております。高宮の家にとって律さんは大切な存在なのです。どちらにしても律さんと別れることになるなら、あなたの幸せな未来を律さんも選ぶのではないでしょうか?」


「それ、どういう意味ですか!?」


嫌な予感がして背中に冷や汗が伝う。


「あなたが決断出来ないのであれば、律さんに選んでもらうまでだと言っているのですよ」


「そんなこと!?」


律くんにそんな話してほしくない。律くんなら間違いなく、私の命を選ぶに決まっている。それよりも、自分の親がそんな提案をしていることを知ったら…。


「わかりました…。律くんと別れます」


そして、律くんには何も告げず私はアメリカに旅立ったのだ。

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