episode.12
あの後、高宮さんは『千代』と呼んでいた彼女を、友だちが待っているらしいバンガローまで送って行った。
高宮さんは酷く動揺しているようだった。一体高宮さんとどういう関係なの? 指輪の箱をテーブルに置くと深く息を吐き、気持ちを落ち着かせようとする。
何で…このタイミングで…。高宮さんを待っている間に悪い想像が思考を占領し続けた。考えるのに疲れた私は椅子に深く座り込み目を閉じると、いつの間にか眠りについていた。
辺りがほんのり明るくなって、鳥の囀りで目が覚める。私はテントの中にいて、寝袋にくるまっていた。高宮さんが運んでくれたのかな…。
外からお湯が沸騰する音が聞こえた。ゆっくりと起き上がり、テントから外を伺うと、高宮さんが椅子に座り焚き火台で作業しているところだった。心なしか高宮さんが肩を落としているように見えた。昨日あの後、2人はどんな話をしたのかな…。
そろそろとテントを出て、高宮さんをギュッと後ろから抱きしめた。一瞬ビクッとしたように感じたが、私だとわかると「おはよう」と言って頭を撫でてくれた。
お互いに昨日は何も無かったかのように、触れないようにしている感じがしてもどかしかった。だからと言って、私から彼女のことを聞く勇気もなかった。
帰り際、「忘れもの…」と言って高宮さんが昨日の小さな箱を私の手に乗せた。これを受け取ってもいいのだろうか…。高宮さんが私の不安を察したように、優しく抱きしめてくれる。
「今度…彼女のこと、ちゃんと話すから…少しだけ待ってて」
私は返事をする代わりに、高宮さんを引き寄せキスをした。彼は傷ついたような顔で、私のキスに応えてくれた。
それから数日後、高宮さんの同期だという『東堂』と名乗る人が職場に尋ねてきた。高宮さんについて大切な話があるというので、近くのカフェで待ってもらった。
「律……高宮のことなんだけど…君が他人から聞かされるのは不本意だと承知で話に来ました」
東堂さんは高宮さんと千代さんの過去について教えてくれた。ひと通り話し終えると、東堂さんは私にハンカチを差し出した。涙が溢れていることにも気づかないくらい衝撃的な内容に、私は身動きがとれなくなっていた。
東堂さんは周りの目も気にせず、私が落ち着くのをただひたすら待ってくれた。
「律のことで話したいことがあったら、俺でよければ聞きますから連絡して下さい」
東堂さんは連絡先が書かれた紙を私に差し出した。今は高宮さんが少しでも幸せだと思える選択をして欲しい…ただそれだけだった。




