episode.10
高宮さんは私をベッドに寝かすと、軽く何か食べられる物を買ってくると部屋を後にした。
こんなに優しくしてもらって…私…高宮さんに何もしてあげられないなぁ…。いつか高宮さんにたくさんお礼をしたい!
ガチャと玄関の扉が開く。
「おかえりなさい、高宮さん」
上着を脱ぎながら買ってきた物をテーブルに置くと、ベッドへ来て私を起こしてくれる。
「ただいま」
そう言ってほほにキスをする。『ただいま』の響きが妙に甘い…甘すぎる…。これだけでもドキドキが止まらないのに、慣れる日なんて来るのだろうか…。
「少し顔が赤いね。また熱が上がってきたかな」
「多分、違うので大丈夫です…」
高宮さんが買ってきてくれたおにぎりを一口かじる。1日ぶりの米は空腹を徐々に満たしていってくれる。テーブルの上には、サラダやサンドイッチ、パンにデザートと色々な物がそろっていた。「調子悪いときは食べられる物を食べればいいよ」と高宮さんが選んでくれた。
「あの…ありがとうございます…」
「してあげたくてしてるだけだから、気にしなくていいよ。それより、早く元気になってね」
市販薬だが、高宮さんが私の症状にあった薬まで用意してくれていた。
「何度も言うけど、何か気になることがあったら遠慮せずに話してほしい。結衣さんと一緒にいたい気持ちは変わらないから。そのためにできる努力はなんだってするから」
「分かりました…」
「じゃあ、少しだけ練習ね」と私をソファに座らせて、高宮さんも隣に座り私の手を握る。
「今、俺にして欲しいことは?」
「と、特に…何も…」
咄嗟に私がそう答えると、高宮さんは少し意地悪な顔になる。
「練習だから、結衣さんがして欲しいことを一つ言うまで俺は帰らないよ」
「そんな! 急に言われても…」
「…君は目の前にいる彼氏に、何も求めないってこと?」
「そ、そんなの高宮さんだって、いつも余裕だし、私してもらうばっかりで…高宮さんにも何かしてあげたいです!」
高宮さんは私の頭をポンポンすると、「それが君のわがまま?」と呟いた。
「じゃあ、早く寝て、早く元気になることだね」高宮さんはギュッと私を抱きしめると「そろそろ行くね」とコートを羽織る。
見送りは大丈夫。と私をベッドに寝かすと、スマホを枕元に置いてくれた。「何かあったらいつでも連絡して」そう言って立ちあがろうとする高宮さんのコートの袖を思わず掴んでいた。
「結衣さん…?」
あれこれ考えた。本当はもう少しだけ一緒にいたい…だけど、その言葉は飲み込み「気をつけて帰って下さいね」と声をかける。
「本当に帰っていいの?」
「う…何か、高宮さん、さっきから意地悪です!」
高宮さんがしゃがみ込み目線を合わせてくれる。
「ごめん、意地悪した。…なかなか会えないから、会えたときくらいお互い我慢しなくていいようにしたい。だから、素直になってほしいんだ」
高宮さんの真っ直ぐな目を見ていられなくて、思わず彼の首に腕をまわし抱きしめた。
「高宮さんと…もう少しだけ一緒にいたいです」
素直な気持ちを伝えると、高宮さんは「ありがとう」と私の背中をさすってくれた。「はい、じゃあこれはご褒美ね」とチケットを一枚手渡された。




