side律
自衛官にクリスマスはない。いつか付き合った彼女には、クリスマスに会えないことを伝えると浮気を疑われ最終的に別れることになった。この職についてからはクリスマスにあまりいい思い出はない。
「高宮一尉、聞きましたよ! ついにプロポーズしたんですよね?」
プロポーズというキーワードに周りの隊員もざわつく。いやいや、どこでどうなったら俺がプロポーズする話になるんだよ。テンション高めの秋庭を一瞥すると今日の定食の唐揚げに箸を突き立て口に放り込む。
「あれ? まだ非公開でしたか!? すみません!」
「誰が、誰に、プロポーズしたって?」
イライラしながらもことの真相を確かめようと秋庭に詰め寄る。
「高宮一尉が、結衣ちゃん…に?」
秋庭が結衣さんを名前呼び、しかも『ちゃん』付けで呼んでいることにもやもやしながらも、さらに根拠を追求する。
「東堂一尉から、高宮一尉は彼女さんに指輪を渡したと聞きました! 指輪を渡したということは、ついに! かと。もう付き合って5か月くらい経ちますし、信憑性の高い話かと」
東堂め! 後で覚えてろ! そんな予定は一切ないと秋庭に告げる。先程送られてきた彼女からのメッセージには那覇の街並みであろう写真と、彼女が写った写真が初めて一緒に添付されていた。もう3回は写真を開いて眺めている。
仲の良さそうな2人の友だちと写る彼女は、自分といるときには見せないあどけない笑顔だった。そして、ペットボトルを手にした薬指には先日クリスマスプレゼントとして送った指輪が輝いて見えた。
「おー、それが例の、へー」
急に後ろから声がして、驚いた拍子にスマホを取り落としそうになった。元凶現る。東堂だ。
「スマホのぞいてニヤニヤしてるかと思ったら、目に入れても痛くないほど寵愛する彼女と、虫除けの指輪かぁ」
「お前なぁ!」
「いや、からかいたくもなるわ。あの律が、俺に指輪の相談してくるなんて前代未聞だからな。で、気に入ってもらえたのか?」
あの日、彼女に指輪を渡したとき、一瞬驚いた表情を見せたがすぐに耳まで真っ赤に染めて「ありがとうございます」と笑顔で答えてくれた。もちろん、エンゲージリングではなく、クリスマスプレゼントとしてだが。
「毎回毎回秋庭に情報もらして、俺の反応見るの楽しんでるだろ!」
「…応援してんだよ、俺は…。ようやく、大切にしたいと思える存在がまたできたんだからな。」
東堂が苦笑いをした。ようやく…か。確かに、あれから4年の歳月が流れていた。しかし、当時の様子は今でもはっきりと思い出すことが出来る。
「ま、何はともあれ、可愛い彼女を横取りされんように頑張れよ」
そう言い残し、東堂は午後の訓練に向かって行った。あのときはあいつにかなり心配かけたな。午後の訓練も終わり、更衣室でスマホを取り出すと、ジップラインで楽しんでいる結衣さんの動画が送られてきていた。他にも数枚、風景写真が添付されていた。
『高宮さんと一緒に見られたらと思う景色ばかりです』と一言添えられていた。無性に声が聴きたくなり、着信履歴から彼女の名前を探す。だけど、今は友だちと旅行中…電話は我慢して返信するか…
「いたいた! 高宮一尉!」
後ろから秋庭たちに声をかけられて思わず結衣さんにリダイアルしていた。やばいと思いすぐに切った。
「俺たち今から彼女いない組で飲むんすけど、高宮一尉たちも一緒に行きませんか? それともこれからデートですか?」
「彼女には会いたいのは山々だが、今は友だちと旅行中だ」
「じゃ、東堂一尉と高宮一尉は参加ということで!」
「いや、まだ行くとは…」
「高宮一尉、スマホなってますよ」
画面を見ると三雲結衣の文字が点滅している。すぐに出ると彼女の可愛らしい声が聞こえた。
「高宮一尉、彼女さんですか? 会いたいって言ってから、声だけでも聞けてよかったっすね!」
余計なことを! 2日前に会ったばかりなのに彼女の声を聞いたら、今すぐにでも会って抱きしめたい願望が湧き上がってきた。声を聞いただけでこの有り様なのに、次本人を目の前にして果たして俺は今まで通り彼女をちゃんと帰すことができるのか…不安しかない。




