episode.6
「じゃ、荷物預けて少しラウンジで休んでから行こ」
「おっけー。ほら、結衣もぼーっとしてないで行くよ」
久々の空港に少しだけテンションが上がる。美容師の奈々(なな)ちゃんと、歯科衛生士の莉子は小、中の同級生で、ひまがあるといつも3人で飲みに行ったり、旅行をしたりしている。
「沖縄って、大学ぶりかな?」
「奈々が陽介に振られて、みんなで失恋旅行して以来」
「うっわ、名前忘れてた! 莉子よく覚えてたね! てか、笑わんでよくない?」
奈々ちゃんあの時すごく落ち込んでたなぁ…確か高校から4年間付き合ったって言ってたかな。あれから彼氏ができても長続きしないみたいで、もしかしたら今でも陽介くんのことを引きずってるんじゃないかと思うときがある。
ラウンジで沖縄版るる●を開いて、2泊3日クリスマス満喫ツアーについて相談を始めた。パラパラとページをめくると、大きな水槽にジンベイザメが悠々と泳ぐ水族館の特集があった。高宮さんは、水族館とか興味あるかな?
「あの〜、結衣さん? いつ突っ込もうか迷ってたんですけど…その右手に光る指輪はいったい…」
急に恥ずかしくなり右手を引っ込める。
「これは…」
私の次の言葉を今か今かと期待の目で見る奈々ちゃんに対して、彼氏くらいいるでしょ? と相変わらず冷静な莉子。
「ちょっと! 何で教えてくれなかったの!?」
「いや、その…まだどうなるか分かんなかったから人に言えなくて」
ことのあらましを簡単に説明すると、『自衛官』というワードに少し怪訝な顔をされたが、『医者』というワードには2人とも好感をもったようで、沖縄に着くまでの機内ではとにかく質問攻めにされた。
「うわー、独占欲丸出しだね! その人」
「今どき、虫除けに指輪持たせるなんて…一体相手はいくつなの?」
「えーと、31歳。独占欲とかそんなんじゃないって。それに高宮さん、女慣れしてる感じだし、大人だし…ないない!」
「甘いな、結衣! 大人に見えるけど、所詮男はみんな子供だって」
飛行機を降りると「めんそ〜れ」の看板が目に入った。懐かしい…前もこの看板の前で写真撮ったな…。昔を思い出し3人で写真を撮ると、荷物をピックアップしてレンタカーに乗り込んだ。運転は最もドライビングセンスをもつ莉子がすることになった。
「窓開けていい?」
許可を得て窓を開けると、12月とは思えないほど暖かな空気がほほを掠めていく。私はスマホを取り出し、今朝送られてきた高宮さんからのメッセージをもう一度見返した。
『沖縄楽しんできてね。俺は訓練頑張ります』
たったそれだけのメッセージだけど、高宮さんが自分のことをこうして送ってくるのは初めてだったので、遠くにいても繋がっている感じがして嬉しかった。
私は車窓から見える那覇の街並みと、先程3人で撮った写真をメッセージとともに返信した。自分の写真を送るのは憚られたが、高宮さんも写真送ってと言っていたし、何より大切な2人の存在を高宮さんと共有したかった。
「もうすぐホテル着くよ」
「はっや! さすが莉子!」
「普通に距離近かった…」
チェックインを済ませて、いざ沖縄の旅開始! アクティビティを楽しみたかった私たちは満場一致でやんばるの森にあるジップラインに決定したのだ。インドアの莉子がそこにのってきたのは意外だったが、運動神経は3人の中でダントツで感覚で何でもこなしてしまうタイプなのだ。
かたや私は運動神経はあまり良い方ではなかったので、ジップラインに決まってから、2人から何度も大丈夫かしつこく聞かれた。
「莉子、もうすぐ道の駅あるから寄って!」
車中はナツメロで盛り上がり、昔話に華を添えた。道の駅の駐車場に車を停めると、すぐ後ろにはエメラルドの海が見えた。
「うっわー、めっちゃキレイ! 写真撮ろ!」
奈々ちゃんがスマホを覗き、少しずつ下がりながらアングルを確認する。
「な、奈々ちゃん! あぶな…」
声をかけるタイミングがワンテンポ遅く、奈々ちゃんは後ろを歩いていた男の人にぶつかってしまう。奈々ちゃんが思わず転びそうになったところで、その人が支えてくれ難を逃れた。…が、奈々ちゃんの手が男の人の眼鏡にぶつかった拍子に地面へと滑り落ちた。
「す、すみません!」
咄嗟に眼鏡を拾い上げ渡そうとすると、レンズに傷が入っているのが目にとまった。
「あの。レンズに傷がついてしまって…」
「あぁ、大丈夫ですよ。前から少し傷があったので。それより、怪我はありませんでしたか?」
その人は奈々ちゃんから眼鏡を受け取ると、何もなかったかのように笑顔でそう答えた。
「奏! 早く行くよー」
遠くから、男の人を呼ぶ女の子の声が聞こえた。彼はそれに気づき、私たちに挨拶をしてその場を去っていった。
「奈々ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫!」
それから森の中を空中散歩し、夕方にはホテルに帰ってきた。部屋で少し休憩をし、夕食を何にしようか相談をする。とりあえずスマホで検索しようとかばんから取り出すと、3分前に高宮さんから着信の履歴が残っていた。
「彼氏? かけ直せば?」
「そうだね。まだ夕食には時間あるし、ゆっくりかけていいよ。何かプライベートビーチから夕陽が見えるらしいから、うちらちょっと行ってくるわ」
「う…ん。ありがとう」
奈々ちゃんたちを見送り、ベランダに出て高宮さんにかけ直すと数コールでつながった。
「結衣さん、旅行中にごめん! ちょっと同僚がイタズラで勝手にかけただけで…」
「高宮一尉、素直じゃないですね! 声聞きたかったんじゃないっすか?」
高宮さんの声の向こうから冷やかす声が聞こえてくる。少し経つと周りが静かになったのがわかった。
「ごめん、もう切るね」
「あ、あの…もう少しだけお話出来ますか?」
「俺は大丈夫だけど…友達と一緒なんじゃ?」
「今、部屋で一人なんで…」
「気をつかわせたかな?」
スマホ越しに聞こえてくる優しい高宮さんの声に胸がきゅんとする。高宮さんはその後も今日あったことをただ聞いてくれた。
「高宮さんは…今日の訓練、どうでしたか?」
「いや、いつも通りだよ。俺ももうすぐ出ないといけないから…えっと…結衣さんが帰ってきたら会いに行くよ」
もう一つ高宮さんが変わったことは、電話のときや別れるときに次の約束を必ず伝えてくれるようになったこと。




