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3.助力を請われる

 翌日、マリーベルは冒険者の店で正式な依頼である薬草採集を受けた。

 その薬草は傷薬など幾つかの薬に使われる基礎的なもので、常に需要があるため、その採取は常時依頼として出されている。

 採集場所は王都から1日の内に往復できるところで、冒険者見習いの子供達が日銭稼ぎの為に受けることもあるような、簡単な依頼である。


 といっても、昨日“治療師”に頼まれたことよりは危険だ。

 王都から少し離れたところまで行かなければならないからだ。

 普通なら魔物が出るような場所ではないが、マリーベルのような若い娘が1人でそんなところに居るのを無頼者にでも見つかれば、襲われて手篭めにされる可能性もないではない。

 だが、マリーベルはそれを受けた。

 もう一度自分で報酬を稼いでみたかったのだ。


 マリーベルはその依頼も無事にこなす事ができた。

 報酬を受け取って、彼女は喜びかみしめる。


 そんな彼女にまた声をかけてくる者があった。

「すまないが、マリーベルさんでよかったかな?」


 その声の主はクロースアーマーを着込んだ上にハードレザーアーマーを重ねて装備した長身の女戦士だった。

 神官服を着て光明神ハイファの聖印を首から下げた女性と、黒色のクロースアーマーを着た小柄な少女もその少し後ろに立っている。

 女戦士は20歳代中頃、神官服の女は20歳代前半、クロースアーマーの少女はまだ、15・6歳のように見えた。

「そうですが、何か御用でしょうか」

 マリーベルは少し警戒しつつ答えた。


「実は、出来ればお願いしたいことがあってな。賢者の学院のドーチェス導師からあなたの事を教えてもらって声をかけさせてもらったんだ」

 ドーチェス導師は賢者の学院でマリーベルを指導している導師で、いい加減なことをする人物ではない。

 彼が自分の事をこの女戦士に伝えたならば、少なくとも彼はこの女戦士達を信頼しているのだろう。そう思ったマリーベルは話を聞くことにした。


 4人は隅のテーブル席についた。

 女戦士はマイラと名乗った。

 褐色の肌に短めの茶髪、長身の身体は細めだが良く鍛えられている。そして凛々しく整った容貌をしていた。


 神官服の女はエイシア。見た目どおりハイファ神の神官とのことだ。

 肌は白く金髪を長く伸ばしている。男性が彼女を見たなら、ゆったりとした神官服をも押し上げるその胸の膨らみについ目が行ってしまう事だろう。

 その容姿は優しげで気品も感じられて、やはり美しかった。


 小柄な少女は斥候であり、名はレミといった。

 彼女も色白で、淡い色の赤髪を肩位にまで伸ばしている。彼女は全般的に小柄で、どちらかというと可愛らしいという感じだ。

 彼女達は他所の街から最近王都にやって来た冒険者とのことだった。


「頼みというのは、私達が受けた仕事の手伝いをして欲しいということなんだ」

 マイラがそう話し始めた。

「私達はある珍しい薬草の採集の依頼を受けたんだが、本当に情けない話だが、私たちは自分達の技術や知識を過信していた。

 私達の出身地とここらへんでは勝手が違って、私達だけでは依頼は達成できそうにない」


 エイシアが話しを引き継いで発言する。

「本来なら直ぐにでも前払金を倍にしてお返しし、引き下がるべきでしょう。

 ですが、もしかしたら手助けしていただける方を紹介してもらえるかも知れないと考えて、賢者の学院にお声かけしたのです。

 私達は少し前に学院の依頼をこなして伝手を得ていましたので」


「私の発案だよ」

 レミが元気良くそう言った。


 発言をさえぎられてしまったエイシアだったが、気を悪くした様子も見せずに話しを続ける。

「そういうことで、学院に聞いてみたのです。

 薬草に詳しく野外活動もできて、冒険に同行してくれそうな方がいないかと。

 可能ならば女性がいいともお伝えしました。するとマリーベルさんのことを紹介していただいたんです」


 そういう条件なら、確かにマリーベルが紹介されるのも自然だといえる。

「ということで、手助けをお願いできないだろうか」

 マイラがそうまとめた。


 マリーベルはこの話を引き受けたいと思った。

 人に頼られることを嬉しく思うようになっていたからだ。

 それに依頼達成までにかかる期間はそれほど長くはならないはずで、ヘンリーたちが帰って来るまでに間に合うだろう。


 だが、初対面の者達と冒険を共にすることには躊躇いを感じた。

 心象としてはマイラたちは悪人には見えなかったが、それを保証するものは特にない。

「少しだけ待ってもらえますか?」

 マリーベルはそのように告げた。

 とりあえず、自分の事を紹介したというドーチェス導師に話しを聞けば、彼女達の事をもう少し知ることができると思ったからだ。


「もちろん構わない。ただ、出来れば明日中には答えを出してもらえると助かる」

 マイラがそう応じた。

「分かりました」

 マリーベルはそう答えて、今日のところは解散となった。




 翌日、マリーベルはドーチェス導師を訪ねてマイラたちのことを聞いた。

「彼女達は信頼できるよ。君が属するのとは別の冒険者の店の紹介で、学院の仕事を受けてくれたんだ。

 その店によると、彼女達が王都に来たのは最近のことだが、前に居た街の冒険者の店の紹介状を携えていたし、他にもある貴族からの紹介状も持っていたそうだ。

 その冒険者の店では、紹介状が本物であることを発行者に連絡を取って確認したというし、貴族の方については学院でも直接確認している。

 そして、学院の仕事も誠実にこなしてくれた。

 だから君の事を伝えても支障は生じないと判断させてもらったんだ。彼女達が求めている人材は、正に君の事だと思ったのでね」

 ドーチェス導師の答えはそのようなものだった。

 それなりに信頼してよいということらしい。


 念のため、自分が属する冒険者の店の店主に、他の店に属する冒険者パーティに臨時に参加しても良いか確認したが、事前に申告してくれるなら問題ない、との返答だった。

 マリーベルは、マイラたちの依頼を引き受けることを決めた。




 マイラたちとの冒険は、思った以上に楽しいものだった。

 彼女達の冒険譚はマリーベルにとって興味深いものだったし、彼女達はマリーベルの技術や知識を素直に褒めてもくれたからだ。

 冒険を楽しいと思ったのもマリーベルにとって初めての経験だった。


 道中で、ゴブリン5体とコボルド4体の妖魔の群れと遭遇したが、マイラたちは苦もなくこれを倒した。

 マリーベルはやはり戦闘では何の活躍も出来ず、詰られることを覚悟したが、誰もマリーベルを非難することなどなかった。


「すみません。迷惑をかけてしまって」

 それでも気が咎めたがマリーベルはそう謝罪した。

「何を言っているんだ、最も迷惑にならないように上手く立ち振る舞ってくれていたじゃあないか。むしろとてもありがたかったよ」

 マイラはそう返す。

 それは、近接戦闘能力を持たないマリーベルに対しては当たり前の評価だったのだか、そんな風に言ってもらえたのは初めてだった。


 依頼自体も無事に達成することが出来た。

 報酬はマリーベルも含めて四等分にすることにした。


 マイラ達は、マリーベルがいなければ赤字になっていたのだから、と言って報酬全体の半分をマリーベルに渡すことを提案してくれたのだが、マリーベルは断った。

 例え今だけの、形だけのものでも、対等な仲間という関係を持ちたかったからである。

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