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第三話

挿絵(By みてみん)


「これは警察に事件を問い合わせる事案じゃないよな、普通は。

何せ念写だとしても、巧妙な作り物だとしても、どちらにしても証拠として出せる類のものじゃないだろう?」


真行寺は絵里を見遣りながら訊いた。


「だからなんじゃない?この事務所に刑事の私や御手洗みたらいさんが出入りしてるのを知ってるから、この事務所に送りつけたんだと思うわよ?

普通に警察に送りつけても、この映像の被害者が実際に起きた事件の被害者かどうか照合してみたりしないんじゃない?

『警察にイタズラしやがって!』って感じで、この映像を役立てるどころか、逆にこれを郵送した人に変質者の濡れ衣を着せる可能性があるでしょう?刑事の人間性如何によっては」


絵里は職場の誰かを思い出したかのように溜息を吐いた。


刑事の中には情報提供者や事件の通報者を執拗に容疑者としてマークするような者もいる。

刑事にとっては情報提供者や事件の通報者が変質者であったり犯人であった方が楽に手柄を上げられるので、そういう横着者も出てくる訳である。


真行寺の妹の絵里や真行寺の友人の御手洗の場合は

真行寺の特殊技能に関して理解があるので

こういった映像を見ても送り主を変質者や犯人だと決めつけるような真似はせずに

この映像に写っている男を容疑者だと見做して捜査を始める心境になれるのだ。



それにしても残留思念や心的残像(心象風景)を読み取る感覚は

「意識」というものに関して或る程度注意深い人間なら誰でもできる訳だが

それを「念写する」となるとそれはもう真行寺の能力を超えていた。


意識というものをパソコンのようなものに擬えてみるなら

顕在意識の認知は画面に表示されているものに該当する。


バックグラウンドで起きている処理をも

画面に表示させるとなると随意で意識をセパレートして

複数の意識の観点からの情報を同時に認知する事になる。


そこまでなら「離人症」や「幽体離脱」を体験した事のある人間なら可能だ。


だから残留思念や心的残像を読める人間は

「勘違いだ」

と自らを諌めて口を噤んでいるだけで、そこそこの比率で存在している事だろう。


だが読み取ったものを外部に物理的に反映させるとなると真行寺には

「一体どうやっているのか?」

見当もつかないのである。


「とにかく、この件に関してはお前と御手洗に任せるしかないだろうな…」

と真行寺は溜息を吐いた。


(また借りを作ることになってしまうな…)


「ねえねえ、ところでこのDVDって、ビデオテープの映像をわざわざDVDに変換してるものなんでしょう?

なんでわざわざそんな事をしてるの?」

絵里が真行寺に尋ねた。


「さあな。デジタルカメラだと合成が簡単だという事もあるからアナログで撮ることに拘ったんじゃないのか?

それでいて原本を渡して捨てられたら折角の労力が無駄になる。だから複数のコピーが簡単な形に直したんだろう?」

真行寺がそう言うと


「もしかして幽霊ってデジタル処理の画像には映れないのかもよ?」

絵里が素朴な疑問を呈する。


「さあな。その説で言えばデジカメで撮った心霊写真は全部偽物って事になるな?

ネットにも山ほどあるだろうに。全部イカサマ師の偽造か?

まあ、その可能性も無くはないな。人間ってのは暇だと何やらかすか判らん生き物だから。

他人を騙す為にせっせと偽造映像を作る奴も相当数いるのかもな」


真行寺は絵里の意見に関心なさそうに(やや皮肉っぽく)

そう言った。


「テレビもデジタル化されたし、その辺の理由も実は『砂嵐の画面に幽霊が映るから』とか、皆が心霊現象に関して本腰入れて興味を持ったら困るっていうのがお偉いさん人達の都合の一つにあったんじゃないの?」

絵里が指摘する。


「お前、何か変な陰謀論でも読んだのか?」

真行寺が思わず心配して妹の顔をまじまじと見遣った。


「この国にの上の方は闇に包まれてるってのは知ってるでしょ?

暴力団も結局は外国人。つまり日本の裏社会を仕切ってるのは日本人じゃないって事。

尚且つ警察関係者なら皆知ってる事だけど、警察署の署長らは最寄りの暴力団の組長宅にお歳暮やら御中元をわざわざ自分で足を運んでペコペコ頭下げて貢いでる。

そうした貢物の中には時には現金、時には某銀行ぐるみで裏で出回ってる宝籤の高額当選券が仕込まれてる訳よ。

こんな怪しい国の中で生きてて、無理矢理進められたテレビの地デジ化やらに何の疑問も持たない方がどうかしてるでしょ?」

絵里は絵里で自分が属する警察組織にまで不信感を持っているらしい。


「お前、そういう話、他所ではするなよ?殺されるからな?」

真行寺は先程よりも本気で心配する。


「言わないわよ。私だって命が惜しいし。でもね隠された真実がある藪の中を今まで誰も突かずにいたとは、どうしても思えないでしょう?

それなら今まで藪を突いた人達はどうなったのか?まあ、皆殺されたんだろうけどね。

そうした痕跡さえも隠滅されて、無念さを噛み締めながら草葉の陰で泣いている魂も無数にある筈でしょう?

アナログ波だと幽霊の姿が映る可能性があって、それが何を訴えてるのかが白日の元に晒されたら困る人達が沢山いるのかもよ?」


やはり絵里の発想は陰謀論じみている。

だが確かにこの国は国内に入り込んでいる外敵から国民を守っていない事は理解できる。



何でも屋、便利屋のような連中が

遺品片付けのような仕事を格安で引き受ける。


「愛国者」と言えば

「在○特権を許さない○民の会」のようなものがネットでは有名だが


生前にそういった活動をしていた人間の住居に遺品片付けに行くと

家の中に血の跡が残っていて

「殺されたとか、そういうのなんじゃないのかな?」

と一目で疑問に思わざるを得ないのに


テレビでも報道されてないし

警察も動いてない。


こうした事実から社会の底辺で細々と生きている人間達は

「日本を仕切ってるのは日本人じゃない」

という事を実感している。


なのでそれに関して何も思わない一般の日本人を

「単に何も知らない薄ら馬鹿ども」か

「無自覚なままストックホルム症候群に罹っている捩れ認知の馬鹿ども」か

そのいずれかだという事を知っているのだ。


だがそうした話を含めて様々な話を仕入れる「情報収集=飯の種」である探偵業の人間は

様々な推理が蔓延っている事もまた知っているので

「いずれにしても証拠のない話を真に受けていたらキリがない」

という事も知っている。


「お前の理論だと『死者の声を聞く、死者の体験を復元する技術』が存在していて、その技術が普及するとマズイ事になる連中がこの国を仕切ってる、って事になるが。それはそれで証拠がないだろ?」

真行寺が常識的な指摘をする。


「『証拠を揃えた時が殺される時』だったから誰も証拠が出せずに、後からそれを見つけようとする者が更に困難になるように隠蔽も巧みになったのかもよ?」

絵里がこれまたあり得そうな推理をする。


「それなら、このDVDはそうした秘匿技術で写されたあの世からのメッセージって事になるな?ヤバイんじゃね?こんなの持ってたら」


真行寺が冗談っぽく言って

背筋が冷たくなってきた感覚を誤魔化そうとする。


「けど、捜査しない訳にはいかないでしょう?この映像を見る限り、被害者の顔も加害者の顔も写ってるんだから…」


絵里はそう言って真っ直ぐな視線で

弱気な兄を射抜いたのだった。


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