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第二話

挿絵(By みてみん)


残留思念というものは

「その時の心理状態」

しか残っていないので

それ以上のものを読み取る事は難しい。


積極的に悪事を行っている人間特有の「優越感と嗜虐心」の混ざった思念は

嫌がらせや犯罪の現場や証拠に付着している事が度々あるのだが…

そうした思念自体はどれもよく似ている。


なのでそこから犯人特有の個性を割り出す事がプロファイラーの腕の見せ所なのである。


とにかく犯罪という程の事もないただのイタズラなら

「相手にせずにおく」

というのも一つの復讐ではある。


封書を送ってきた相手が「構ってちゃん」なのだとしたら

全く相手にもせずに、封も切らずにゴミ箱に棄てる事が一番相手にダメージを与えるからだ。


だがまあ、今回の相手はどうだろう。


真行寺はもう一度封書に手を触れながら

「犯人が封書を郵便ポストへと投函した時の事」

を思い浮かべようとした。


すると意外な事に

「迷うような気持ち」

が起こってきた。


(嫌がらせ封書を送りつけた犯人は実は投函を迷ったのか?)


嫌な予感がしたので

真行寺は手袋をはめてから

封書の封を切ってみることにしたのだった。


中身は予想通りディスクだった。

表面が白いままで何も書かれてないDVDディスク。


(もしかしたらただの嫌がらせのエロ動画かも知れないし、ウィルスの仕込まれたものかも知れない。だけど他の可能性として純粋に此方のリーディング能力を試すようなものかも知れない…)


真行寺は犯人が投函を迷った時の心理の中に「諦観」めいたものを感じた。


その印象に基づく直感に従うなら、犯人の意図は

「純粋に此方のリーディング能力を試す」ところにある可能性が高い。


正直に言えば、そうした思惑に乗るのは面倒と言えば面倒だ。

大抵の場合は無視する。

時間の無駄だからだ。


何故なら「残留思念を読む」というリーディング能力はあくまでも「仕事」として行うものなのだから


わざわざ仕事でもない場面で

他人からチョッカイをかけられたり冷やかしを受けたりする度に

ただ働きで能力を使うのは何とも疲れるのだ。


言うなれば

此方を試そうとする輩は


金も払わず

正式に仕事を依頼する訳でもなく

此方に能力を使わせて

仕事をさせようとしているのだ。


困った事があるのに金がないので頭を下げてお願いするといった態度ならばともかく…

色々な連中が霊能プロファイラーに対して「無礼なただ働きの強要」という形の嫌がらせを仕掛ける。


そうした「ただ働きの強要」を毎回受けて振り回されていたら収入にならない。

親に食わせてもらっている学生ならともかく、社会人は収入に結びつかないただ働きは極力避けるに限るのだ。


なのでDVDを封書に戻してゴミ箱に棄てる事にした。


燃えるゴミの日は事務所近辺は月曜と木曜。

今日は火曜なので次のゴミの収集日は明後日だ。


朝にゴミ置場にゴミを出せばこの問題は片付く。

そう思った。


しかしそれは甘かった…。



***************



前回手掛けた事件のプロファイルを時系列に沿って客観的に読みやすいように書き直してから

昼食を食べに近くの定食屋まで行って、そして事務所に帰って来てみると


「お兄ちゃん、なんでDVDをゴミに捨ててるのよ?」

と妹の絵里えりが何故かゴミ箱を漁って、DVDを再生デッキに入れていた…。


こいつは偶に事務所の掃除に来てくれるのは良いのだが、色々と面倒事を持ち込んで来る事も多い。


まあ、そのお陰で真行寺は警察とも協力関係が出来て

「捜査協力」という仕事が回ってくるようになったのだとも言えるのだが…。


「お前は非番か?暇なのか?他にする事がないのか?」

と真行寺が絵里に訊く。


「好奇心って大事だよね〜。ほら、このDVD見てみてよ。ものすごく変だよ?」

絵里が画面を観ながら指摘した。


言われて見れば

変と言えば変だ。


画像は悪い。

昔の8ミリビデオで撮影したかのような映像なのだが。

鏡に映っている女が写っている。

なのにカメラが鏡の何処にも映っていない。


(まるでこの女の目自体がカメラみたいじゃないか…)


そして鏡に映っている女の背後に男の姿が見える。

女が振り向くと映像から鏡が消えて、先ほど鏡に映っていた男の姿だけが写し出された。


(やはりこの見え方は…)


真行寺は内心で動揺した。


(他人の「心象風景」を読む時と同じ見え方だ。本人の視点から物が見えている…)


男が襲い掛かって来て女の視界が揺れたらしく、映像も揺れた。


女が激しく抵抗しているらしくて

映像も激しく揺れている。

殺意に歪んだ男の顔が見える。

拳が何度も振り上げられ

恐怖の為に女は目を閉じたのか

或いは死んだのか


画面は暗転した…。



真行寺と絵里はいつの間にか食い入るように画面を観ていた…。

言葉も出ない。


(これって一体どうやって撮られたんだ?あり得んだろ?)


可能性として考えられる事はあるが、それは余りにも滑稽だ。

つまり「故人の心象風景を読みだして、それを念写で撮影した」という可能性だ。


(俺には流石にそれは出来ない…。というか、そんなこと出来る奴がいるのか?)


念写という現象が

何処まで本当なのか…。


それに関する認識は

インチキ「超能力者」達のお陰で

社会的信用は下落している。


「念写能力は人間の能力の一つだ」

などと本気で信じれば

世間的に如何にも胡散臭く見られ

揶揄・嘲笑を引き寄せる事になる。


だが真行寺は

(「今の俺には出来ない」というだけなのかも知れない)

と、その可能性を考えてしまった。


念写によって

故人の心象風景を

ダイイングメッセージとして

映像化して客観的に知らしめる


それが実は可能なのではないかと

そう思ったのだった…。


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