第一話
真行寺霊能探偵事務所御中
そう書かれた封書が届いていた。
真行寺霊能探偵事務所のポストだから
まあ当たり前の事で有るが真行寺豊がその封書を手に持った時
「妙な感じ」を受けた。
いつもの事と言えばいつもの事だ。
『霊能探偵事務所』などという胡散臭さ満点の看板を掲げている以上
『霊能』という水物商売に嫌悪感を持っていたり
何かと揶揄しようとする連中に絡まれる事など、よくある事なのだ。
その封書を手にもった途端に感じた
「妙な感じ」も度々感じる類のものだ。
「どうせインチキだろうから、俺の嫌がらせに手も足も出ないだろう」
と思いながら嫌がらせしてくる輩特有の
「優越感と嗜虐心の混ざった思念」が
その封書から読み取れたのだ。
封書の大きさはB5判くらいか。
封書の紙が結構厚めなので、中に入ってるものは封書を開けなければ断定は出来ないが、恐らくはCDかDVDのディスクのようなものだろう。
こうやって送りつけて来られるものは
迂闊にパソコンや再生デッキに入れられないものが多い。
この手のものを送りつけてくる連中は
再生させると機械の方が壊れるようなものを送りつけておいて
「本物の霊能者ならそれを見抜ける筈だ」
といった屁理屈を脳内妄想で捏ねていたりする。
つまり何の罪悪感も持たずに悪事を働いているのだ。
インターネット上でサイバー攻撃を行う連中にしてもそうなのだが
何の罪悪感も持たずに他人を攻撃する輩は「自分には他人を試す権利がある」と激しく思い込んでいる場合が多い。
そしてそうした「他人を試す権利がある」という特権意識は
「自分が社会の構成員である事」を否定していて
「自分は社会によって一方的に制限・束縛されている」と激しく思い込んでいる事に由来する。
実際には人間が「人間社会」というもの一切の文明的恩恵を受けない環境に
つまり無人島で土人暮らしをする羽目に陥ったとしたら
多くの人間がそう長く持たずに死ぬ事になる。
そうした事実を鑑みるならば
「人間が何の恩恵も受けずに一方的に社会から制限・束縛されているという事はあり得ない」
のだが。…
しかし犯罪者や反社会的な人間は
そうしたあり得ない、起こってもいない「不当な社会的束縛」が存在すると思い込んでいる場合が多い。
「被害妄想的に被害者意識を作り出すことによって悪事を行う正当性を脳内妄想で作り出す」
という事をほぼ無意識に行うのが
そうした犯罪者や反社会的な人間達なのだ。
イジメにしても
イヤガラセにしても
それを面白がって行う連中にとっては
それらは或る種の「テスト」なのだ。
相手を怒らせるような事をする。
それで相手が怒れば「俺の予想通りあいつは狭量な奴だ」というレッテルを貼る。
そしてそうした行為を行った際に
大した罰も受けずに済んだなら
今度は「どの程度の事をしたら、自分達にリスクが生じるのか?」をテストしようとする。
イジメられている子供には気の毒ではあるが、イジメを行う連中にとっては、やはりそうした不道徳行為は
「どの程度の事をしたら、自分達にリスクが生じるのか?」
を測る為に、周囲に対して社会環境に対して「テスト」してるようなものなのだ。
これは軽犯罪者が徐々に気が大きくなって、重犯罪へと向かう心理とも共通している。
そうした犯罪者心理や反社会的心理は
「他人を試す、社会環境を試す」
という事を余りにも当たり前に自分の権利であるかのように錯覚しているのである。
その封書を手にした時に真行寺が感じた「妙な感じ」は
そうしたテストを振りかけるような『残留思念』であり
そこにはそうした犯人像の痕跡が残されていたのである…。