第7話 歩いて竜帝都へ
「さて、ここからはひたすら歩いて竜帝都に向かいます」
「あそこにある馬車? は使わないんですね」
「そうね。私は竜だからか、怖がられるのよね。馬が暴れちゃうのよ。だから行きも私一人で歩いていたの」
「そうなんですか。不思議ですね。エオリアちゃんはこんなに優し、むぐっ」
「……まーた恥ずかしいこと言おうとしたわね。この話終わり。竜帝都までは歩いてだいたい10日くらいかしら。まぁのんびり行きましょ」
「わかりました。エオリアちゃんと一緒に旅ができるなんて楽しみです」
「はいはい、そうね。私も楽しみってことにするわね」
「素直に楽しみって言ってくれればいいのに」
「それができたら苦労しません。それはさておき、正直10日歩くだけって結構暇よ」
「そうなんですか? お喋りしているだけでも楽しそうですけど」
「ま、まぁ……そんな気もする……じゃなくて」
「どうしたんですか、エオリアちゃん」
「なんでもないわよ。こほん。話を変えるわね」
「またはぐらかされた気がします!」
「とりあえず、竜帝都に着いたらまず私が本部に報告しないといけないから、それが終わったらあなたの教会? かもしれないところに行く、で良いかしら」
「はい、大丈夫です。私の教会、いったいどういう状況なんでしょうか……」
「そうね……私もあまり覚えていないというか、よく行っていたような気もするのだけど……」
「そうなんですね……え、よく行っていたんですか?」
「ちょっと自信がなくて。記憶がないのよね。でも思い入れはあるし、やっぱりよく行っていた気はしているのよ」
「……私が記憶を無くしてしまったことと、何か関係がありますかね」
「そうね……私がこのことを思い出したのもつい今、って感じで。あなたもだけれど、私も記憶を失っている気がするのよね」
「私たち、もしかして会ったことがありますか……!?」
「天使さんと会うなんてことは普通無いと思うのだけれど……。ほらあの、魔法奏者? の要領で話したことはあるかもしれないわね」
「だとしたら、私とエオリアちゃんって前はどんな仲だったんでしょうか」
「んー……まぁ、仲が悪いってことは無いんじゃないかしら」
「そこは『とっても仲良し』と断言するところです」
「はいはい。じゃあそういうことだとして。どうして天使が地上に落ちてきたのかしら」
「天界の天使が地上に落ちる時は、悪いことをした時だった気がします……もしかして私、悪いことをしたのでしょうか……」
「……まぁ、あなたが悪いことをするとは思えないのだけれど」
「私、エオリアちゃんに会いたすぎて悪いことを……?」
「そんなわけ……いや、ちょっとやりそうよね。私が言うのは恥ずかしいけれど。あなたまさか本当に……」
「さ、さすがにしていない……と思うんですけど、自信が無くなってきました」
「うわぁ……」
「そんな目で見ないでください! もし本当にそんなことを考えたとしたら、きっとエオリアちゃんに相談して……エオリアちゃんが止めてます!」
「そうね。どちらかというと、私がどうにかして会いに行きそうよね」
「わー……エオリアちゃん……! ありがとうございますっ! な、なんだかすごく……心がぽかぽかして、嬉しいです!」
「ちょ、そんなニヤニヤしないで! い、今のは私が悪い……わね。私も恥ずかしいこと言わないようにしないと……」
「言っていいですよっ! どんどん言いましょう」
「言いません。そういえば、もう一つ気になっていることがあって」
「どうしましたか?」
「私、強い魔法使えなくなったって話をしたじゃない。実はまだ使えなくて……」
「そうでしたね。私と出会ってから……私が原因ですかね……」
「それは……わからないけれど。私、魔法に自信があることがプライドを保っていたんだなって思って……今更精神的にダメージが……」
「エオリアちゃーん! 急によろけないでくださいっ! あああ、髪の毛だけじゃなく顔まで真っ青に……」
「いや髪の毛は関係ないわよっ! もうちょっとどうにか……ならないかしら……」
「エオリアちゃんが今にも倒れそうに!? わ、私がエオリアちゃんの魔法力? を取っちゃったんでしょうか……返します! もどれー……もどれー……」
「ちょ、抱きつかないでよっ! そんなんで戻るわけ」
「エオリアちゃん好き好きー……」
「こらぁ! 違うもの送られてきてるわよ!」
「いらないですか?」
「いらな…………うるさいわねこの天使さんは本当に!」
「わーん! エオリアちゃんにフラれたーっ!」
「フッてはなかったでしょう! そんなことより魔法力をどうしたら……あれ?」
「……どうかしましたか?」
「ちょっと遠いけれど、あそこに魔物がいるわね。それと、魔法が使える気がする……。ええと『氷晶よ 貫け 加速せよ』」
魔法がしっかりと発動し、その魔物に突き刺さる。
「おおー! ちゃんと魔法できましたね……!」
「あれで本当に効果あるの、ちょっと複雑なのだけれど。使えるようになったのかしら」
「それなら良かったですっ!」
「ええ、本当に良かった……! これでまた魔法が使え…………あれ?」
「またまた、どうかしましたか?」
「魔法、使えなくなってる気がするのだけど……」
「じゃあまた、ぎゅーっ! が必要ですねっ!」
「ちょっと、あの、待って。そうと決まったわけじゃないし。じりじりと近づいてこられても怖いのだけれど」
「ふふふ……エオリアちゃん……」
「この馬鹿天使ーっ!『氷晶よ 捕らえろ 縛りつけよ』」
「魔法は反則ですーっ! 足元がひんやりして動けません!」
「弱くはなっていても、馬鹿天使を捕まえるくらいは大丈夫ね」
「でもエオリアちゃん、本当にぎゅーってしないとダメそうですよ? 長い時間ぎゅーってしたら沢山魔法を使えるかもしれないじゃないですか」
「うぐっ、本当にそうなら……その時に考えるわね。で、でも昨日寝る時に抱きつかれていたわけだから、チャージはできないと思うのよね」
「好き好きーって送るのが大事なんですかね……? ほら、人間さんが魔法を使えるのだって、そもそも私たち天使が人間さんを好きだからですし」
「そ、それは……あまりにも説得力が強すぎるわね……」
「じゃあ、これから毎日」
「本当に勘弁してーっ! 心臓がもたないわよーっ!」
その後、エオリアちゃんが魔法を強く使える時間は、私が好き好きパワーを送り込んだ時間に比例することがわかりました。えっへん。