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第6話 夢の中で

 気づくと、私は見覚えのある教会にいました。つい先ほどまで、エオリアちゃんと宿で寝ていたはずなのに。


 その教会は、お世辞にも綺麗とはいえません。むしろ、所々が老朽化していて、石造りの表面には苔が生い茂っているような状態。普段、人がいるような気配はまるでありません。けれど、祭壇にはまだ神聖さが残って……います。いると思いたいです。


 そんな祭壇に佇む、天使を象った銅像の前に、エオリアちゃんがいました。なぜかとても小さくなっていますが。


 声をかけてみたものの、全く聞こえないみたいです。不思議に思っていると、エオリアちゃんが銅像に向かって話しかけました。


「天使さん、今日も来たわよ」


「わぁ! こんにちは、エオリアちゃん」


 ちょっと幼い声でしたが、間違いなくこれは私の声です。私は喋っていないのに、銅像から声が聴こえました。

 状況がわからず困惑しています……が、どうやら私のことは見えてもいないみたいです。黙ってその状況を見守ることにしました。


「相変わらず私しかいないわね、この教会」


「それは言わない約束です……でもエオリアちゃんが来てくれたから、私はそれで良いです」


「良くはないんじゃなかったかしら……。まぁ、私としても、他に誰か居たら困るのだけれど」


「今日も、演奏聴かせてくれますか?」


「そんな大したものでは無いけれど……今日もここで練習させてもらうわね」


 エオリアちゃんが楽器をとりだした。確か、名前は『フルート』だったはず。そうして、音楽を2人で楽しんでいたような……。


 懐かしい気持ちに浸っていると、急に身体を揺らされた。



「そろそろ起きなさい」


「……ふぇ、エオリアちゃんが大きくなった……!?」


「何を寝ぼけているの。私は元々このサイズよ。良かったわね、ちゃんと眠れたみたいで」


「ねむって……そうでした、私、眠ったんでした」


「はじめての睡眠はどうだったかしら?」


「そうですね……不思議な感覚でした。それと、エオリアちゃんがなんだか小さかったことは覚えているんですが……」


「私が小さかったの? 夢でもみていたのかしらね」


「夢……ってなんでしたっけ」


「夢は……なんて説明したら良いのかしら。眠っている時に見る幻覚というか」


「そうなんですね。眠っている時でもエオリアちゃんに会えるなんて、なんだかお得ですね」


「お得っていうのかしらそれ……? まぁ、人間はこうやって睡眠をしないと生きていけないの。今日から毎日するわよ」


「わかりました。最初はちょっと怖かったですが、エオリアちゃんが毎日横でこうして一緒に寝てくれて、夢の中でもエオリアちゃんと会えるのなら大丈夫そうです」


「……しれっと毎日一緒に寝ることになってるし……まぁ、いいわよ。諦めるのよ私……」


「何をですか?」


「なんでもないわよ。さっさと準備して行くわよ」


「わかりました! ええと……どこに行くんでしたっけ」


「なんで忘れてるのよ! あなた自分の教会に戻りなさいって言われたんじゃなかったかしら」


「そうでした。眠ったら忘れてました」


「睡眠を言い訳にしたわね……まぁ、私も竜帝都に戻らないといけないし。一緒に行くわよ」


「ぜひお願いします。ありがとうございます、エオリアちゃん」


「……私、あなたのそうやってお礼を素直に言えるところ、好きよ」


「えへへ、嬉しいです。私も、エオリアちゃんが大好きです」


「はいはい、ありがとう。じゃあさっそく着替えましょ」


「お願いします!」


「……お願いします? いやあのね、そんな両手広げて待ち構えられても」


「へ……?」


「へ? じゃないわよ! 昨日確かに着替えるの手伝ったわよ? 着替えたことがないからって……」


「はい、天界だと服が汚れるなんて概念も、着替えるなんて概念も無くて……」


「そう言ってたものね。でも今日からは自分で着替えなさい」


「ど、どうしてですか……!? あっ、わかりました! 私が代わりにエオリアちゃんが着替えるのを手伝います!」


「違うわよ! どうしてそうなるの……!?」


「エオリアちゃんに着替えさせてもらうの、とても楽しかったので!」


「そんな力説する!? 私はちょっと恥ずかしかったわよっ!」


「エオリアちゃん、ダメですか……?」


「あなた、それをしたら私が断れないの覚えたわね」


「だってエオリアちゃん、優しいから……」


「うー……。私のこと優しいだなんていうの、あなただけよ……まったく」


「本当のことですよ。私はそんな優しいエオリアちゃんが大好きです」


「ちょっと何、急に……。さっきもそうだったけど、急にそんな好き好き言われても恥ずかしいの」


「エオリアちゃんが先に言ってくれたんですよ? 私のお礼ができるところが好きって。それがとても嬉しかったので、そのお返しです」


「余計なこと言うんじゃなかった……!」


「余計じゃありません! 私はとっても幸せです」


「恥ずかしすぎて心臓がもたないわよ! 好きっていうのしばらく禁止します」


「えー! なんでですかー!! ぶーぶー!」


「ブーイングなんてどこで覚えたの全く……。話は戻るけれど、着替えるのは自分でやりなさい。それくらいは独り立ちしてもらわないと困ります」


「……わかりました。着替えるのは自分でやります。でも好きっていうの禁止は反対します!!」


「いつまでこの話するのよ! 着替える! 早く出発します!」


「はぐらかされたっ!」


 エオリアちゃんは恥ずかしがり屋さんです。でも、好きって言われて実はちょっと嬉しそうにしてるの、私知ってます。エオリアちゃんの竜の尻尾が揺れるんです。でも、そのことは内緒にしようと思います。

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