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第5話 冒険者登録とお泊りと

「冒険者登録ですか?」


 エオリアちゃんの説明を受けながら、冒険者ギルドという場所にきた私たちは、とりあえず受付の列へと並ぶ。


「そう。私たちが倒したリヴァイアサンの討伐は依頼には出てたみたいなの。でも誰も受けてなかったから、受けていた扱いにしてもらってクリアしましたって報告するの。ついでに天使さんも冒険者登録しておきましょ」


「登録すると良いことがあるんですか?」


「お金がもらえるわ」


「登録します! 美味しいものたくさん食べましょう!」


「……あの、私のイメージの問題かもしれないのだけれど、天使ってそんなに欲望だだ漏れで良いの……?」


「それは……ダメかもしれません」


「そうよね。あと、これがもし詐欺だったらどうするのかしら。地上ではあんまりおいしい話を信じちゃだめよ。天界においしい話があるのかは知らないけれど」


「はい、わかりました。でも、エオリアちゃんは私のこと騙したりしないので大丈夫ですっ」


「……まぶしい。そんな純粋な目でみないで。いえ、やましい気持ちがあるわけじゃないけれど……その目に弱いのよ私」


 エオリアちゃんが恥ずかしそうに小声で喋る。


「えっ、なんて言いましたか?」


「なんでもないわよ」


 そんなやりとりをしているうちに、自分たちの番になる。


「さておき、登録しましょ。手伝ってあげるから」


「はいっ! エオリアちゃん、いつもありがとうございますっ」


「良い笑顔ね……」


 エオリアちゃん、さっきからなんだか様子が変です。大丈夫でしょうか。それと、受付のお姉さんが困った様子でこちらを見ていた。


「……あの、受付をする方ですよね?」


「……はっ。すみませんそうです。この子の冒険者登録をお願いします」


「承知しました。新規登録ですね。手数料として銀貨が3枚必要になります」


「ここは一旦、立て替えておくわね。では、これでお願いします」


 エオリアちゃんがテキパキと受付の人とやりとりをする。


「はい、確かにいただきました。ではこちらに必要な情報を記入してください」


「わかりましたっ! ええと、名前は……カノンで……苗字は……苗字?」


「え……まさかとは思うけど、苗字も」


「忘れたのか、天使には無いかもしれません」


「と、とりあえずフォールトラークって入れておいたらどうかしら」


「フォールトラーク?」


「ええ、私の苗字なのだけれど……」


「私たち家族ってことですか?」


「そ、そういうことになる……のかしら?」


 エオリアちゃんの目がだんだんぐるぐるし始めました。本当に大丈夫でしょうか?


「私はエオリアちゃんと家族、嬉しいですよ」


 と、喋っていると受付の人が困ったように一言。


「……あの、お二人様、嘘を書くのはちょっと……」


「「失礼しました」」


 二人で同時に謝る。


 そんなこんなで、苗字について悩んでいると、ふと脳内に単語が思い浮かぶ。


「ええと、では苗字はソルフェージュで」


「ソルフェージュ?」


「今思い出した……んだと思います。あってると思います」


「そうなの? まぁ……それなら良かったわね」


 こうして書類を記入したあと、一通り説明を受けた。

 依頼を受けて、達成できれば報酬がもらえること。冒険者ギルドのカードは身分証明書にもなっていること。無くすと大変なことになることなど。


「わかりました。ありがとうございます」


「それではがんばってください」


「はい! たくさんお金を稼いでエオリアちゃんにお金を返します!」


「そういうことは言わなくていいの。あとさっきのリヴァイアサンで、もう返してもらう目途ついているから」


「そうなんですか!? それなら良かったです」


 こうしてリヴァイアサンを倒した分の清算を終え、私はエオリアちゃんに借金を返しました。


「この後はどうしますか?」


「まぁ今日はもう疲れたし、近くで宿でもとりましょ」


「お泊まり会ですか!?」


「そうね、お泊まり会よ。本当はそれぞれのお家でやるものかもしれないけれど、だいたいお泊まり会よ」


「わーい! 昔からやってみたかったんですよね!」


「わかるわ。私もそうなの。ずっと憧れてて......! お菓子食べたり、のんびりお話ししたり……!」


「エオリアちゃんのテンションが高い! すっごく楽しみです! 今夜はパーティー? ですねっ」


「そうね! じゃあさっそくお菓子を買いに…………待って。テンション上がりすぎてスルーしてしまったけれど、あなた記憶が無いのよね。昔からお泊まり会やってみたかったの?」


「……確かにおかしいですね。でも、エオリアちゃんとお話してると、時々ふっと記憶が蘇ることがあるんです」


「お泊まり会をやってみたい、ねえ。天使もそんなこと思うのね」


「だって面白そうじゃないですか。天界にはお泊まりなんて概念ありません」


「そうなの? 天界ってどんな感じなのかしら」


「詳しくは覚えていないんですが、特になにもないですよ。夜は暗くて、ずっと暇なだけです」


「……寝てないの?」


「はい、天使に眠るなんて概念もありません。だから暇で暇で……」


「なんだか不思議ね。もしかして、今日初めて眠るの……? というか眠れるの……?」


「わかりません。わかりませんが、なんだか先ほどから……ふわぁ、なんだかあくびが出そうで」


「眠たくなってるじゃないの! 今日は色々とあったことだし、早めに寝ましょ」



 その後、急いで宿を取り、寝るまでの準備を全部終わらせました。


「……さて、あとはもう寝るだけね」


「じゃあ枕投げですね」


「どうしてそうなったの……!? それと、枕投げ知ってるのね」


「はい! 昔、誰かに教わりました!」


「天使にそんな野蛮な遊びを教える人がいるのね……。一体どこの誰かしら」


「でもその話を聞いて、やってみたいと思っていたんですよね」


「枕投げ、私もやったことないけれど。絶対勝てると思うのよね。私パワー強いから」


「待ってくださいエオリアちゃん。やめましょう。枕が壊れます。こんな野蛮な遊びはよくないです」


「さすがにそこまで強く投げないわよ! ま、まぁよく考えたら、はしたないわよね、枕投げ」


「はしたないんですか? 枕投げ」


「そうね。子どもの遊びだから……」


「そうだったんですね。確かに、聞いたのは結構昔だったかもしれません。てっきり地上のメジャーな遊びなのかと思ってました」


「どんなイメージだったのよ……」


「夜って人間さんが外にいないから、天界からじゃ何してるかよく分からなかったんですよね。だからてっきり枕投げしてるのかと」


「知識が偏りすぎているわね……! 枕投げは殆どの人がしないわよ。というか、早く寝るって話だったでしょ」


「そうでした。では、睡眠をはじめたいと思います」


「そういうのじゃないわよ、睡眠。おやすみなさい」


 エオリアちゃんが部屋の電気を消す。私は布団に入って、深呼吸を一つ。


 これが『眠い』ということなんでしょうか。だんだんと意識が遠のく感覚に、私は恐怖を覚えました。


 また、記憶が無くなるような気がして。


「……エオリアちゃん。私、眠るの、怖い、です」


「……なら、眠らずにお喋りしてるのも良いんじゃないかしら。お泊まり会っぽいし」


「いいんですか? じゃあお喋り……を……」


「でも、それどころじゃないほど眠そうね」


「うう……どうしたら良いですか……」


「い、一緒の布団で眠るとか……? それで恐怖心が無くなるとは限らないのだけれど……」


「エオリアちゃん……一緒に寝てもらっても良いですか?」


「ま、まぁしょうがないわね。こっちにおいでなさいな」


「ありがとう……ございます」


「これで少しはマシかしらね」


「エオリアちゃんの隣は、一番、安心できます、から…………すぅ」


「……あらら、あっという間に寝ちゃったわね。さて、私も眠ろうかしら。おやすみなさい、天使さん」

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