第4話 VSリヴァイアサン
「エオリアちゃん、これから仕事って一体何をするんですか?」
とりあえず教会の外に出た私たちは、ぶらぶらと歩きながら話を続ける。
「言ってなかったかしら。ブランニア王国に厄介な魔物が出たらしいのよ。だからその退治をお願いされてきたのだけど……」
「……けど?」
「現地で詳しい内容を聞く予定だったのよ。でもさっき『依頼した記憶はない』なんて言われちゃって。ただその魔物に困っているって事実はあったの。だから、どう対応したらいいのかわからなくて」
「どんな魔物なんですか?」
「リヴァイアサンっていう、海にいる大きな蛇みたいなものね。蛇って例えでわかるかしら? 私は氷魔法が扱えるから相性が良いのよ」
「なんか細いうねうねしたやつですよね? 倒しちゃいますか?」
「きちんと仕事として受けるのであれば、それでも良いかもしれないわね。それとは別に不安なこともあるのだけど……」
「不安……ですか?」
「ええ。私、あなたと出会ったあとくらいからかしら? 魔法が上手く使えないのよね」
「それってもう私が原因じゃないですか!?」
カノンはショックを受けた様子だった。私は慌てて訂正をする。
「そうとは限らないわよ。偶然ってこともあるわ。でもさすがにリヴァイアサンを倒すのに魔法が使えないとなると困るわね」
うーん、とカノンと一緒に悩んでしまう。魔法を覚えてから今日まで、そもそも使えなくなるなんてことは無かった。
リヴァイアサンを倒すだけであれば、物理的に攻撃してしまえばギリギリなんとかなりそうではある。が、今後も困る場面はあるだろう。何らかの解決策を……。
と考えていると、海の方から何やら悲鳴が聞こえてきた。
「エオリアちゃん、さっきのリヴァなんとか、あれですか!?」
「リヴァイアサンね。この距離だからわからないけれど……きっとそうね」
「このままだと人間さんに被害が……!? エオリアちゃん!」
カノンは、真剣な表情で私の方をみて頷く。その瞬間にカノンがしようと思っていることを理解してしまう。
「……倒しにいくのね。まぁ私も元々そのつもりだったわけだし、一緒に手伝うわよ」
「さすがエオリアちゃんです! 行きましょう!」
私は、カノンと一緒に海の方向へと走り出した。
「作戦とか何も考えてないけど大丈夫?」
「エオリアちゃんが凍らせて足止め、私がドカーンで倒せるかなって!」
「私さっき魔法が使えなくなった話したわよね!?」
「そうでした! じゃあ私が足止め、エオリアちゃんがドカーンとやっちゃってください!」
「ドカーンって何!? まぁそれで良いわよ!」
海へたどり着くと、リヴァイアサンがまさに地上へ攻撃をはじめようとするところだった。逃げ遅れている人の姿もある。
「あぶないっ! 『天よ 防げ 全てを守ってください!』」
すかさずカノンが魔法を唱えると、超巨大なバリアが生成され、リヴァイアサンの攻撃を防ぐ。
とんでもない魔法の規模である。これが説明のあった魔法奏者の力なのだろう。
「良い感じよ! このまま相手を拘束して!」
カノンを信じて、私はすかさずリヴァイアサンとの間合いを詰める。
「わかりました! 『天よ 捕らえよ 動けなくしてください!』」
煌めくカノンの魔法の光が、敵を縛り上げる。
その直後、敵に向かってジャンプする。
「あとは任せなさい! 『氷晶よ 加速せよ ふつうにキーック!』」
「いかにもな感じで唱えてますけどそれ魔法じゃないですよね!?」
「大事なのは勢いよ」
「魔法って奥が深いですね」
「感情が籠ってないってないわよ天使さん」
そんなやりとりの中、見事脳天にキックが命中し魔物が大きな音を立てて倒れた。
「……あ、忘れてましたけどリヴァイア……さん?は倒せましたね」
「リヴァイア、さん。じゃなくてリヴァイアサンだから。リヴァイアって名前じゃないから」
「惜しかったですね……!」
「あとちょっとで覚えられそうね。今日のところは良しとしましょう」
「話は変わりますけれど、エオリアちゃん。キック強すぎじゃないですか?」
「まぁ、竜人だから。元々は魔法になんて頼らずに戦う種族なのよね」
「そうなんですね……。エオリアちゃんを怒らせるとあのキックが飛んでくるわけですね。絶対に怒らせないようにしようと思いました」
「あなたが私の人生で一番私を怒らせてるけどね……?」
「私がエオリアちゃんの人生で一番……!?」
両手でほっぺを触りながら、頬を赤らめるカノン。
「変なところ切り取るなーっ! はい怒らせたわよ! キックします」
「『エオリアちゃん ごめんなさい 私が悪かったです』」
「いや確かに今、魔法っぽく言っちゃったけど。私このボケさっきやっているけれど。今のは違うから」
「エオリアちゃんが流行らせました」
「この2人の間でしか流行ってないわよ」
そんなやりとりをしていたら衛兵が来た。
倒したリヴァイアサンの横でする会話じゃないわよね、とは思った。