第3話 魔法奏者
ブランニア王国に到着しました。
さて、早速教会に向かおうと思ったのですが。
私は先ほどからお腹のあたりが痛いというか、なんか変な音が鳴るというか。天界ではそんなことは無かったです。一体、私の身に何が起きているのでしょうか? もしかして、これは地上の呪いですかエオリアちゃん。
「……お腹が空いているんじゃないかしら」
「お腹が空いている」
「ちょっと待って。そんな真顔で固まらないで。そっかー天使はお腹空かないのね、設定もそこまで来るとなかなか凝ってるわねー。とはならないわよ」
「でも、お腹は鳴っていますが……」
「なっているだけにって? 天使ギャグ、ちょっと雑じゃないかしら?」
「もっと精進します……」
「良い心がけね。そうしなさい」
なんだか腕を組んで頷くエオリアちゃん。最近採点が厳しくなってきました。最初から厳しかった気もしますが……。
「それは置いておいて、とにかくご飯よ。ご飯食べましょう」
「エオリアちゃん! あの辺りからすごく良い匂いがします!」
「本能で理解したわね! じゃあそこに行きましょう。ところで天使さん、お金はもっていらっしゃる?」
「おかね……?」
「うんうん。そうよね。大体分かってきたわ。なかなか常識が…………その、残念ね」
「そんな気まずそうな顔で言わないでくださいーっ!」
言葉を選んでくれたのはわかりますが、逆に心に刺さりました。
「放っておいたらその辺りで倒れてそうだし、ここは奢ってあげるけど……。色んなこと教えないといけなさそうね……」
「お願いします……」
エオリアちゃんに、焼いたお魚さんを渡される。それを食べるエオリアちゃん。そのまま真似をする。
「……! なんですかこれは! すっごく美味しいです!」
「何って、焼き魚だけど……。美味しいわよね」
「はいっ。私はこのために地上に来たのかもしれません……!」
「そんな本気の顔で言われるとは思わなかったわよ」
私たちは、お魚を食べたあと教会に向かいました。
「来たわね、教会」
「エオリアちゃん、ついに来ましたね……!」
「ついに、ってほど旅してないわよね。私たち」
入口で、そんな会話をしていたところ、金髪の、なんだか綺麗な服装の女性の方がこちらを観ていました。どちら様ですか……?
「おいでになりましたか」
「……なぜ王女様がこちらにいるのかしら?」
どうやら、エオリアちゃんの知り合いみたいです。こちらを見ていたことに合点がいきました。
「そういう貴方は『氷晶の竜姫』エオリア様。あなたこそなぜ、天使様とご一緒に?」
「まって。お願いだからその二つ名やめて。特に今は」
「エオリアちゃん、氷晶の竜姫ってカッコいいですね! 羨ましいですっ」
「ほらぁ! 絶対食いつくと思ったわよ! 恥ずかしいのよこれ……カッコいいなんて思うのは14歳までよ……」
「エオリアちゃん、今いくつなんですか?」
「15歳だけど……」
「わぁい! 私も15歳です! 同じですねっ」
「天使にも年齢あるのね……?」
エオリアちゃんと話をしていたら、その王女様?が申し訳なさそうにしていました。
「……あの、私もしかしてお邪魔でしたか?」
「いえ、すみません王女様。そういうわけでは……この自称天使、本当に天使なの?!」
「エオリア様、そこを拾うまでに、なかなか時間かかりましたね……?」
「すみません……だんだん麻痺して天使か疑っていたことを忘れていました。それについて、説明して頂けると助かるのですが」
「端的に言います。天界から『天使が地上に落ちた』『赤い髪の女の子』『助けて』『助けて』……と、かつてないほど多くの天啓を預かりまして」
「それで、天使様がここで待っていれば来るとのことだったので。待ち構えていました」
「王女様自ら……」
「これは私にしか出来ないお仕事ですから」
私は、気になっていたことを聞きます。
「……それで、私はやっぱり天界から落ちてしまったのですか?」
「話を聞く限り、そういうことみたいですね」
「私は、これから何をすれば良いのか、わかりますか?」
「それは……わかりません。ですが、可能な限り手助けをさせて頂きます。天使様、まずはこちらをどうぞ」
そういって、差し出されたのは木でできている、不思議な形をした……楽器だった。
「こちらは『ヴァイオリン』と呼ばれる楽器です。とある事情でこの教会で預かっていたものなのですが、弾ける人が誰もがおらず……。もし天使様がお使いになられるのでしたら差し上げます」
ヴァイオリンを手にとる。
何も知らなかったはずなのに、自然と構え方がわかる。
そうして、私はヴァイオリンを弾きはじめた。
それがとても楽しくて。夢中になって弾いていると、ふと脳内へ優しい声が聞こえた。
(良かった……! カノン、無事ですか)
(この声は……大天使様ですか? はい。私は大丈夫です!)
(あまり保たないですし端的に伝えます。あなたを『魔法奏者』として認めます。そのことをライエに伝えて、説明を受けなさい。そしてカノン、自分の『教会』に戻りなさい。エオリアが場所を知っています)
(わかりました!)
演奏が終わると同時に、その声は聞こえなくなりました。
「天使様、素晴らしい演奏でした!」
「……すごいわね。そんな特技があったのね」
「えへへ、ありがとうございます。それと、大天使様と少しお話ができました。一つ目は、ライエさんという方に、私が魔法奏者になったことを伝えて説明を受ける、でした」
「……今更ですが、まだ私の名前を伝えていませんでしたね。私がそのライエです。魔法奏者の説明、ですね。承知いたしました」
ライエさんの話をまとめるとこうでした。
魔法奏者とは、天使から特別強い魔法を扱えることを許された人のこと。自分の魔力を使うのではなく、天に魔力を肩代わりしてもらい、かつ出力のリミッターを外された状態、であるらしい。
……ちょっと難しかったですが、結論として、私は今強い魔法を扱える状態みたいです。
「そして、もう一つは自分の教会に戻ること、でした。その場所はエオリアちゃんが知ってるって言ってました」
「…………え、私? 教会の場所なんて、ここと、竜帝都の寂れた教会しか思いつかないわね」
「エオリア様、その竜帝都の教会の可能性が高そうですね」
「待ってください。私の教会(仮)は寂れてるんですか? それが本当に私の教会なんですか……?」
「……ま、まぁ竜帝都じゃ天使への信仰とかあまり流行ってないし? 仕方ないんじゃないかしら?」
「あれ、エオリアちゃんにフォローされた……。『天界から落ちるくらいだし寂れて当然よね』くらい言われると思って身構えてました……」
「あなたが私のことどう思ってるかよくわかったわよ!」
「冗談ですーっ!」
「わかりにくい自虐ネタやめなさい!」
「ま、まぁお二人とも。ひとまずは向かってみてはいかがでしょう」
「わかりました! ところで本当に、この『ヴァイオリン』は貰っていいのですか……?」
「はい、構いません。私たちは天使様たちのおかげで生活できているのですから。少しでもそのお礼になればと思います」
「ありがとうございますっ! じゃあエオリアちゃん、さっそく……」
「私、仕事でこの国に来たのよね。あいにくだけど、終わらないと行けないわよ」
「……そうですよね。ごめんなさい……」
「……急にとんでもない罪悪感が。じゃあこうしましょ、あなたは私の仕事を手伝う。お礼に案内する。それでどうかしら?」
「わーい! ありがとうございますっ!」
私は思わずエオリアちゃんに抱きつく。
「だーきーつーくーなー!」
そんなこんなで、まずはエオリアちゃんのお仕事を手伝うことになりました。