第2話 竜の少女
私は竜人と呼ばれる種族である。名前はエオリア。まだ無いわけありません。
状況を整理する。
つい先ほど、空から自称天使が落ちてきた。危ないと思って受け止めようとしたら、ちょっと失敗したけれど、結果的に助かったので良し。
カノンと名乗るその少女は、正直かなり変な子だけれど、話していて楽しい。もし私に友達がいたら、こんな感じなのかなって思った。
私の故郷は特殊で、子どもがほとんど生まれない。人間の友達を作ろうにも、竜人という種族は敬遠されがち。だから私に友達がいないことは普通なのだ。普通……よね?
そんなことはさておき、話し相手を捕まえた私は、通称「水の国」と呼ばれるブランニア王国に向かっていた。
ブランニア王国は、海沿いに面したいわゆる魔法国家。人口も多く、活気のある国である。とカノンに説明をした。
「エオリアちゃん、魔法国家ってなんですか?」
「ここ300年くらいかしら? 魔法が使えるようになった人たちが中心となって作り上げた国のことね。中でもブランニア王国は、水属性の魔法の研究が盛んで、例えば漁業なんかに活かしているわね」
「魔法……人間さんは、生活を豊かにするために魔法を使ってくれているイメージです」
「そうね、使ってくれている、になるのね……」
魔法。
それは、天が人間に授けた技術。だから、カノンが本当に天使なのであれば「使ってくれている」というのは正しい認識だ。
どうやら天界の天使たちは、人間の演奏する「音楽」が大層気に入ったらしく、見返りに新たな力を人間に与えた。と言われている。
この魔法の力により、人間という種族は急速に発展していった。
こうして、かつて上下関係にあったらしい竜と人間は、竜が兵力を提供する代わりに人間に資金や技術を提供してもらう、という関係に落ち着いた歴史がある。だから、半分は竜である私はこうして魔物退治に日々明け暮れている。
「天使って、音楽が好きだから人に魔法を与えたって認識なんだけど。それって本当なのかしら?」
「そうです! 天界って正直、あまりやることが無くて……。音楽が癒しなんです!」
「……なんだか聞いちゃいけない話を聞いた気がするわね」
「はっ。私が少し不真面目だっただけです。他の天使さんたちはそんなことありません」
「やっぱりそうなのね……? 聞いて良いのか分からないのだけれど、あなたって天界にいた時のことは覚えているの?」
「一応……というか、今思い出した、に近いです。言われてみればそうだったなーって」
「このやりとりで記憶が戻ったの? 冗談言ってみるものね」
「そうです。エオリアちゃんとお話してから、記憶がだんだん戻ってきている気がします。もっとお話するしかないですね!」
「あなたが喋りたいだけでしょ。まぁ、着くまで暇だし良いわよ」
「ところでエオリアちゃん。ずっと気になっていたんですけど。どうして『空から降ってきた私を受け止める』なんてしようと思ったんですか? 人間さんってそんな力は強くないイメージだったのですが……」
「私が竜人族って気づいていない? 天使からみると同じ括りなのかしら。私って人と竜のハーフなのよ。だから力も強いの」
「そうなんですか!? 竜って、あんまり知らないですけど……時々いる大きいゴツゴツですよね?」
「大きいゴツゴツって、もうちょっと何か表現無かった? まぁ正しくはある……わね。ふふっ」
「空の上からだとしっかり見えなくて、そうとしか……」
「竜たちが聞いたら泣くわよそれ。ふふふっ」
地上で最強とか言われてたのに。私が言うのもなんだけど、ちょっと面白い。
「えへへ。エオリアちゃんが楽しそうで嬉しいです」
「……恥ずかし気もなくそういうこというわよね、あなた」
言われ慣れてないこちらの身にもなって欲しい。
そんな会話をしていたら、カノンが何かを見つけたらしく、遠くを指さす。
「あ、エオリアちゃん。あれは何ですか?」
「あれは魔族化した狼ね。炎属性と融合してるからファイアウルフとか呼ばれていたような気が……危ないわね?」
ファイアウルフ。名前の通り炎をまとった狼である。攻撃的な性格で、放っておくと危ない。
「どうしましょうエオリアちゃん!?」
「まぁ、私がすぐに倒すから見てなさい」
危険度が高い魔物とはいえ、私の本職はこれである。
『氷晶よ 貫け 加速せよ』
魔法を唱える。
自分の魔力がかなり持っていかれるのを感じる。今までそんなことは無かった気がする。
氷の槍を召喚した。1本しか出てこない。いつもより少ない。
加速した氷の槍が相手にぶつかる。大したダメージになっていなさそう。普段は1発で仕留めることができるのに。
突然攻撃されて、怒った様子のファイアウルフ。
「……あれ? おかしいわね。魔法が全然上手く発動しない」
「エオリアちゃん、こっちにファイアウルフさん向かってきましたよ!?」
「そうね。ええと、自称天使さん。こういう時は地上では走って逃げるのよ。人には足があるでしょう。それを使ってこう足を上げて」
「ちょっと現実逃避してませんか!? そんな走り方くらいわかって……ませんでした。ありがとうエオリアちゃん!」
「流石にわかってるものだと思ってたわよ! わかってたわよね!?」
冗談はほどほどにして、走って逃げ始める私たち。
ところで、どうして魔法がしっかり出ないのか。今までこんなことは無かった。結構ショックである。
「エオリアちゃん、力が強いっていう竜人なんですよね!? ドラゴンパンチとかで倒せないですか!?」
「倒せると思うけれど嫌よ! ちょっと触りたくない見た目してるじゃないあれ!」
「それは否定できないですけど! ええと『真炎よ? 爆ぜよ? というか相手を止めてください』って魔法こうですか?」
「ちょっと違くない!? あとファイアウルフに炎属性の魔法ぶつけてもあまり効果は」
ばしゅーん。
と、なんだか気の抜けるような音と共に、ファイアウルフがどこかへ吹き飛……吹き飛んだということにした。決して塵になったりなんてしていない。カノンの方をみると、ちょっと放心状態だった。
「炎属性に炎属性、効果あったわね……」
「エオリアちゃん。魔法って難しいですね……」
「難しいわねぇ……」
カノンと一緒に天を仰ぐ。いわゆる遠い目というやつである。
魔法に対する謎は、深まるばかりだった。
謎といえばもう一つ。
カノンに、私は「教会に行けば天使と会話できる」と説明をした。
私はなぜ、教会で天使と会話できると思ったのだろうか。全く記憶にないのである。大事なことを忘れている気がする。
そういえば魔法も弱くなった。
「もしかして、私も記憶喪失になっていたりする……?」
「エオリアちゃん? どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないわ。また記憶が戻ったら教えて頂戴ね」
まぁ、教会にいけば全部わかるわよね。と、私は問題を全て先送りにした。
もうすぐ着くし。




