第13話 天界へ行くための
カノンが、天界に帰ってしまった。
天界の天使が、地上にいるのは良くないことなのかもしれない。
カノンは、本当は天界で暮らしていかないといけないのかもしれない。
色んなことをぐるぐると考えて。結論は出なくて。
でも、私がカノンに会いたい。ただそれだけの気持ちで、私はその方法を得るべく『魔界』へと旅立った。
魔界。
魔族と、それを束ねる『魔王』が納めている国である。
今は不可侵条約が交わされており、人間と魔族が関わることは滅多にない。
竜と魔族も敵対関係にあったが、いつの間にやら手を組んで、天界に行ったという話は記憶に新しい。それで攻撃されたのがカノンなのだから。
カノンにぎゅーっとされないと使えなくなっていた魔法は、もう無制限で使えるようになっていた。恐らくカノンが天界に戻ったから。今まで通り、私のために頑張っている、ということなのだろう。
そんなことを思って、私は、思わずカノンと交換した髪飾りをそっと撫でる。
「エオリアちゃん……聞こえますかっ!」
「……へ? カノン?」
「な、なんで魔界に向かっているんですか……?」
「魔王? に会うために……。って、なんで会話できるの!?」
「……長くは持たないですけど。私とエオリアちゃんが、髪のリボンを交換しましたよね。そこに残ってたパワーで、少しだけ」
「そんなことができるのね」
「私もはじめて知りました」
「偶然なのね。カノンは無事なのよね?」
「はい、私は大丈夫です。今までみたいに、天界でお仕事をしているだけです。って、それよりも! やっと名前で呼んでくれましたね」
「……その、タイミングがわからなくて」
「その最後の1回だけでも。私のことを直接名前で呼んでくれて、すっごく嬉しかったです。それだけで、私はこれからずっとがんばれます」
「……まるで、もう会えない、みたいな言い方ね」
「あの後、先輩の天使方に聞いて回ったんです。天使は、地上に落ちたら記憶が消えちゃうみたいです。この前は、事故みたいなものでしたから、そこが曖昧だったのですが……」
「本来は、完全に記憶が消えちゃう、ってことなの?」
「はい。もしも、意図的に地上に落ちようとしたら、きっとエオリアちゃんのことを完全に忘れちゃいます。それは嫌だなぁ……って。エオリアちゃんのことも、エオリアちゃんのことが好き、ってこの気持ちも、私は忘れたくないです。忘れるのが、すっごく怖いです……」
「……わかったわ。『事故』で落ちるのなら、曖昧になるのよね」
「そ、それは……どうなんでしょうか。天使の輪が守ってくれているのは間違いないのですが……悪いことをして落ちる時には、天使の輪を消されてしまうので」
「それなら、天使の輪は維持したまま、地上に降りないといけないのね」
「エオリアちゃん……? もしかして、私が地上に降りる前提で喋っていませんか」
「……私と約束したわよね。一緒に、沢山旅をして、世界の色んなところを回るって」
「はい。私も、エオリアちゃんと、ずっと一緒に居たかったです。でも……もう……方法が」
「まあ、私に任せなさい。これでダメだったら次の方法を考えるわね。絶対に諦めてあげないわよ」
「エオリアちゃん……? あっ、そろそろ時間が……」
「じゃあ、また今度ね、カノン。おとなしく待ってるのよ」
そう言ったあと、カノンの声が聞こえなくなる。
今まで、ほとんど1人だったのに。今はもう、横にカノンがいないだけで、こんなにも寂しい気持ちになる。
早く会いたい。
そんな気持ちを胸に、私は急いで魔界へ向かう。
「そういえば、一応試しておこうと思ったのだけれど」
カノンが以前唱えていた『空を飛ぶ魔法』である。これを使えるのであれば、そもそも魔界に行く必要は無いのだから。
空を飛ぶ魔法は許可されない。なぜなら天界に行けてしまうから。
今唱えたら、おそらく天界で、カノンが涙目になりながら却下して不発になるのだろう。
そんなことを想像するだけで、カノンへの愛しさが溢れて、思わず笑ってしまう。
ただ万が一、カノンが許可してしまったら、記憶を失って落ちてしまう。という説明だったはず。そして、そんな姿も安易に想像できてしまう。
……やらないことにした。




