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帰り辻馬車を拾うために大通りまで歩きながら、オーウェンはため息をついた。それを聞きとめたフェイシスが口を開く。
「悪かったな。たいしてナイト・クイーンの情報が得られなくて」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと考えすぎて疲れただけだ。あんな若い娘が聖女なんて呼ばれ、人のために自分の身体を傷つけているんだと思うと、衝撃的でさ。ケイトと同じ歳ぐらいだろうに」
「聖職者とは、そういうものだろう」
フェイシスの反応は冷たい。
「だが、まだ子どもだろう?」
「子どもだろうと、自分自身で選択した道だろう? それに、あの娘が見かけ通りの子どもに見えたか? とんだ食わせもんだ」
オーウェンはフェイシスを見る。むすりと曲げられた唇に、彼の不機嫌さが窺える。
「彼女に、キラとベリティリの繋がりがばれてしまったこと、怒っているのか? あれは、俺が軽はずみにしゃべったせいで、彼女は別に悪くないだろう?」
「オーウェンはずいぶんとあの聖女が気に入ったようだな」
「フェイ、俺はそんな意味で言ったんじゃない。むしろ、怪しいのはシス司祭の方だろう?」
「シス司祭が? なぜだ?」
「さあな。ただの勘だ。ただ、鈴のことで動揺しすぎじゃないかと感じた」
「それは、聖職者が装飾品をつけていることを咎められそうになったからだろう?」
「別に俺は咎めちゃいないぞ。それに、そういったのは聖女であって、司祭じゃない。キラとおそろいの鈴って言うのが気になるんだよ。それに―――――」
オーウェンはそこで言葉を切った。
「あの時戻ってきた聖女は、まるで鈴のことをごまかそうとしているように思えたんだ」
聖女。神の御使い。奇跡の力。人々の尊崇を集め、慈悲を蒔く。そして、ひどく謎めいた少女だと、感じた。
「少し、あの聖女のことも調べてみるか」
フェイシスが呟く。オーウェンも頷いた。
そのとき、どこから着いてきていたのか、それとも同じ道の先に飼い主の家があるのか、先ほどの白い猫がオーウェンの足元に一瞬身を摺り寄せて、走り去っていった。身体をこすり付けられたとき、その感触に一瞬ぎょっとなる。
白い猫は細い路地へと曲がり、影の中へ溶けて消えてしまった。




