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「本当に大丈夫なのか、シファ様? 疲れてないか? なんだったら、俺の膝を貸すから横になったらどうだ?」

 先ほどからルルゥは、しつこいほどシファの身を気遣う。主の感情に反応して、少し前に戻ってきたノーアとノーユがみゅうみゅうと鳴いている。

 夜半近くにアシルが駆け込んできてから、ずいぶんと時間が経った。真夜中を越す時刻に、シファの身が心配になったのだろう。とはいえど、彼女は別段虚弱体質というわけではないし、夜遅く起きることを苦にしているわけでもない。

 ルルゥがたんに心配性なだけだ。シファは苦笑し、片手を伸ばして彼の頬を撫でた。

「ありがとう。でも大丈夫ですよ。それよりも、あなたは大丈夫ですか? わたしに付き合って疲れたのではありませんか? わたしの膝でよければ、横になりますか?」

「し、シファ様の膝にっ!」

 ルルゥが叫んで、絶句した。彼女の顔をまじまじと見つめ、純白のダルマティカに包まれたきちんとそろえられた膝を見る。それから、苦悶するように眉根を寄せ、突然首を横に振った。

「だめ、それはだめだ! かりにもあんたは聖職者なわけだし。さすがに・・・・・・許されねぇよ」

 いったいなにを苦悩しているのか、秀麗な美貌を苦しげに歪め、独り言を呟き始めた彼を、シファがきょとりと見つめていると、きいと音を立てて診察室の扉が開く。ユリエラはそこでちょっと立ち止まり、怪訝そうな表情をした。

「なにやってんだ、ルルゥ?」

「さあ? わたしにもわからないのです。疲れているのならわたしの膝を貸しましょうかと言っただけなのですが・・・・・・」

 それを聞いたユリエラが何故か、あちゃーというように目の上に掌を置いた。やれやれとため息を吐く。

「こいつ一応は男娼なんだろう? なのにたかが膝枕でこうもうろたえるとは・・・・・・隠れ純情なのか、はたまたシファ様の魅力が凄いのか・・・・・・」

 小声で呟くユリエラの言葉がよく聞き取れなくて、シファは小首を傾げた。ユリエラは上げていた掌を落すと、反対の手に持っていた小さな包み紙を差し出した。・・・・・・どうやらルルゥのことは無視することに決めたらしい。

「アシルから話しは聞いた」

 完結にそれだけ言う。

「そうですか」

「ただ、少し不可解なことが。確かに病院では薬を配っていたが、もらえたのは一度きりだけだったそうだ。その後は、医者のすすめで薬屋へ直接買いに行っていたらしい」

「薬屋?」

 シファは眉根を寄せる。

「そして、これが件の薬だ。もっとも残ってるのはかなり少量だ。どうやら飲んでいるときにうっかり零したのを、大事に拾い集めたらしい。中を見て欲しい」

 シファはそれ受けとり、そっと中を開いた。そして、目を眇める。

 薄茶の包み紙をそっと開く。まるで砂粒のような結晶が、ほんの少しだけ入っている。それは、紅かった。血のように。

「俺の研究室ここから盗まれた薬の、終着地点だ」

 ――――ゆらりと視界が、揺れた。ゆらゆら、と。それは自分の体内から沸きあがる怒りのせいだと、シファは気付いた。


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