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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第十話「強くなった」

 第二試合の組み合わせ抽選の結果、俺たち五年の組み合わせはこうなった。

 俺とロイド、そしてミリアムとブレンダという仲間同士での対戦。

 セシリアはエドガーと当たっていた。

 そして今、ハロルドは氷竜クラスの生徒と試合中だ。


「あわわわ、ハロルドくん押されてるっ!」

「大丈夫よ、相手の動きがちゃんと見えているわ」


 氷竜クラスの生徒が使うザルドーニュクス流剣術の猛攻にハロルドは防戦を強いられていた。

 だがブレンダの言うとおりハロルドは綺麗に受け流している。

 やはりグラナート流剣術の腕は俺より上だな。


「ハロルドの相手、氷竜クラスで一番強いんだろ?」

「らしいな。確か二ヶ月前の野外授業で一番ゴブリンを倒したのは、あいつのいたグループだったとブランドン先生が言ってたな」


 決して一人だけの力じゃないだろうが、ゴブリンを倒した数だけならイアンを率いていたエドガーのグループ以上の結果を残していた。

 確かに強敵であることに間違いはない。

 だがハロルドは腕を上げていた。

 いまのハロルドの敵ではなかった。

 徐々に相手を押し返し、ついには攻勢に転じた。


「勝者、風竜クラス――ハロルド・ソネット!」


 ハロルドの勝利を主審を務める教師が宣言した。

 セシリアたちがそれぞれハロルドに労いの声をかける。


「お疲れさん。さすがだな」

「まだまだです」

「謙遜するなよ。俺でも敵わないさ」

「片手では……ですよね。双剣を握ったアルといま試合すればどうですか?」

「えっ……」

「正直に教えてください」


 ハロルドは俺を試すような視線を送っている。

 ここで嘘はつけない。

 それではハロルドを裏切ることになる。


「双剣なら俺が勝つ」


 俺は端的に言い放つ。

 ハロルドは納得したように頷いてから、ようやく頬を緩めた。


「それを聞いて安心しました。これで稽古に励めます」

「そうか。でも俺はもっと強くなるぞ」

「ふふっ、そうこなくちゃ面白くありません。僕だってさらに腕を磨きます」


 それから試合は進み四組目、ミリアムとブレンダの試合になった。

 俺はこの組み合わせに正直少し安心していた。

 ミリアムが他のクラスのやつと対戦して怪我をするよりも、ブレンダと戦うほうが安全だからな。

 仮に炎竜クラスの生徒と当たっていた場合、彼からしたら風竜クラスは格上のクラスと考えるのが普通だ。

 したがって、玉砕覚悟でぶつかって来られる可能性も大いにあった。

 もしそうなればミリアムの技量では怪我は免れなかっただろう。


 その点この二人の場合、実力差は圧倒的にブレンダで決してミリアムに怪我をさせる勝ち方はしないだろう。

 今も見ている限りはそんな感じだ。

 ミリアムの流派は守りに長けたディアマント流剣術で、極めれば鉄壁の防御になる。

 しかし今のミリアムの練度ではブレンダの攻撃をかろうじて防いでいるに過ぎない。


「ブレンダも腕を上げましたが、それを凌いでいるミリアムの上達も目を見張るものがありますね」

「ああ。女三人で秘密の特訓した成果があったんだろうな」

「それだけじゃないと思いますよ」


 ハロルドの言葉に俺は首を傾げた。


「何だ? 他に何かあるのか?」

「先月、短い期間でしたが、リネットさんに指導を受けたのが利いていると思いますよ」


 リネット――つまり俺の母さんが先月ウルズの町へやって来たときのことだ。

 たった三日間だけだったが、母さんがみんなに稽古をつけてくれたのだ。

 母さんの指導は的を得ていたようで、解りやすくて丁寧だとセシリアたちから好評だった。

 それを聞いて妙に嬉しくなったのを思いだした。


「リネットさんは的確に僕たちに足りないところと、どうやって改善すればいいかを一緒に考えてくれましたからね。学院の教師は多くの生徒を指導する立場上、どうしても個人の細かい部分までは把握しきれないですから。その点リネットさんは指導者として完璧です。もし冒険者をしていなかったら、僕の父が家庭教師に招聘していたかもしれません」

「……冗談だろ?」


 ハロルドはくすりと笑ってから、試合中のミリアムとブレンダのほうへ顔を向けた。


「やはりミリアムの体力では厳しいようです」

「ああ、残念だがここまでのようだ」


 体力でも劣るミリアムの型が崩れた途端、ブレンダの剣技が決まった。

 二人が試合スペースが出てきたとき、ミリアムは晴れ晴れとした顔をしていた。

 自分の持てる力をすべてぶつけて、やりきったという気持ちで溢れているのかもしれない。

 これがブレンダ以外の相手だったなら、自分のふがいなさが悔しくて気落ちする可能性もあった。

 やはりこの二人の対戦で良かった。


「二人ともかなり上達したな。いい試合だった」

「アルくん、ホント!? えへへ、ブレンダちゃん、アルくんに褒められた~」

「あたしもお世辞抜きでそう思うわ。序盤は本当に攻めあぐねたもの」


 この二人の関係は本当の姉妹のようで何だか微笑ましい。


「じゃあ、わたし行ってくるね」

「ああ、俺たちはここで応援してる」

「セシリアちゃん頑張ってね!」


 続いて五組目はセシリアとエドガーの試合だ。

 ミリアム、ブレンダ戦と同じ理由でこの組み合わせにも安堵する。

 以前のセシリアの実力はミリアムより少し上といったところだ。

 もちろん、ミリアムやブレンダがそうだったように、セシリアも腕を上げているだろう。

 だが相手は樹竜クラスのトップ、エドガーだ。


 エドガーはザフィーア流剣術の中級。

 初級のセシリアではエドガー相手に善戦することすら困難だろう。

 しかしエドガーならセシリアに怪我をさせるような戦い方はしないと断言できる。

 他の女生徒と違って同じ侯爵家というのもあるが。


 そして試合が始まった。

 予想どおり一方的な展開だ。

 といってもエドガーが攻撃に徹しているのではない。

 セシリアが攻めては守り、エドガーが守っては攻めている。

 一見、セシリアが互角の戦いを繰り広げているように見えるがそうではない。

 だからといってエドガーが手を抜いているわけでもない。

 これはエドガーが完全に試合展開をコントロールしているのだ。


「セシリアには悪いですが、てっきりエドガーが早々に勝負を決めると思っていました。でも、これは……?」

「おそらく観戦している教師や生徒へのアピールだろうな。攻撃も防御も完璧にこなす。圧倒的な俺の剣技を目に焼き付けろ……とでも聞こえてきそうだな」

「なんでぇ。要するに自慢したいだけかよ」


 俺とハロルドの背後からロイドが顔を出してきた。


「いや、もしかしたら、今年の五年はひと味違うぞと、俺たち五年を全員背負ってのアピールかもしれないぞ」

「ないない。俺ら平民のことは何とも思ってねぇだろ。あいつは自分のことしか考えていない」


 断言するロイドに、俺とハロルドは苦笑する。


「アル、あのエドガーと僕が戦えばどちらが勝つと思いますか?」

「おまえはどう思う?」

「僕が勝ちます……と言いたいところですが、客観的に見て互角でしょうね。だからアルの意見を訊いているんです」


 ハロルドもエドガーと同じ中級だ。

 二ヶ月前ならわずかにハロルドが優勢だと言えたのだが、エドガーはかなり強くなっている。


「俺にも正直解らん。多分互角……いや、おまえもエドガーもさらに奥の手を隠しているだろ。勝敗を分かつのはその差になる」

「……さすがですね。やはりアルは目の付け所が違います。アルの言うとおり僕はまだ手の内を隠しています。それを見せるのはエドガーと当たるか、アルと戦う時です」


 ハロルドは力強い目で言いきった。

 試合は攻守入れ替えての応戦が続いたが、セシリアの息があがったところでエドガーが勝負を決めた。


「負けちゃった。やっぱりエドガーは強かったわ」

「ごめんね……セシリアちゃん。私の稽古に付き合わなかったら、セシリアちゃんはもっと強くなれたのに」

「そんなことないわよ。ミリアムとブレンダが一緒じゃなかったらここまでの戦いはできなかったわ」


 しゅんとしたミリアムを、セシリアは優しく抱きしめた。


「セシリアもミリアムもブレンダも、そしてハロルドもみんな強くなった。今度は俺とロイドが見せる番だ。なぁ、ロイド」

「もっちろん! おまえら見とけよ。俺たちの試合をよ」


 そして六組目の試合があっさりと終わり、いよいよ七組目――俺とロイドの試合になった。

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