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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第九話「試したいこと」

 試合スペースから出た途端、セシリアたちが俺を取り囲むように集まってきた。


「みんなが時間を稼いでくれたおかげで不戦敗にならずに済んだよ。本当に助かった」

「ブランドン先生からアルが警察に連れて行かれたって聞いた時は驚いたわ。でもただの事情徴収で良かったわ」

 

 セシリアがホッとしたように顔を綻ばせる。

 無事に第一試合を勝利した俺たちは稽古場から食堂へ移動し、少し遅めの昼食を摂ろうとしていた。


「よっしゃ! とりあえず全員第一試合突破ってことで乾杯しようぜ!」

「……まったく。依頼をこなしたあとの冒険者じゃないんだから」

「うるせぇ、ブレンダ。ほらおまえも早く持てって、みんな待ってんだからよ」


 ロイドはお茶の注がれたカップをブレンダに持たせた。

 俺やセシリア、ハロルドにミリアムもすでにロイドから急かされてカップを握りしめていた。

 そうしてロイドの音頭で乾杯してから食事を始める。


 昼食時の話題はもちろん午後から始まる第二試合のことだ。

 午後からは第二試合が始まる。

 第二試合からは一対一の対戦形式だ。

 第一試合の結果、第二試合に駒を進めた五年生は二十名。

 ここからはここにいる六人の仲間同士が当たる可能性がある。

 組み合わせ抽選がどういう結果に転ぶのかまだ解らない。


「しっかしホントに全員勝てて良かったぜ」

「うん、私は負けてもおかしくなかったけど、ね」

「ううん、そんなことないわ。ミリアムの組は全員実力が拮抗していたけれど、特訓の成果が出たわね」

「えへ、ブレンダちゃんとセシリアちゃんが丁寧に教えてくれたからだよ」


 この数日、俺がサイーダ森林でワイバーン相手に腕を磨いていたように、みんなもそれぞれ頑張っていたようだ。

 特に剣が苦手なミリアムにはセシリアとブレンダが一緒に稽古しようと話を持ちかけたようだ。

 俺はミリアムの試合を見れなかったが、セシリアやブレンダの話を聞く限りじゃ相当な進歩があったらしい。


「あーあ、女どもは協力してやってんのによぉ、それに比べて男連中は薄情なもんだぜ。アルもハロルドも一人で稽古するからって俺を除け者にしてよぉ」

「そんなことで拗ねるなよ。確かに少しは悪かったと思ってるよ、ただちょっと基礎からやり直したいことがあってな。おまえらに付き合わせるのは悪いと思ったんだ」

「それはさっきのザフィーア流のことですか? アルが構えたときは目を疑いましたよ」


 ハロルドが訊ねてくる。

 セシリアたちも気になるようで全員が俺に注目していた。

 俺は一旦食事を止め、持っていたスプーンを置いた。


「俺なりに片手でも戦える方法を模索してるんだ」

「それがザフィーア流だったと言うんですか?」

「それが答えかどうかは自分の中でもまだ結論は出ていない。だからザフィーア流だけじゃなく他のも一通り試した」

「まさかこの短期間ですべての流派をマスターしたって言うんじゃないですよね?」

「ホントかよ!?」

「アルくん、すごいっ!」


 ロイドは興奮してテーブルに前のめりになり、ミリアムは目をキラキラさせて俺を期待の眼差しで見つめている。

 俺は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。


「そんなわけあるか。俺は達人じゃないんだから。言っただろ基礎中の基礎。まだほんの触り程度だよ。それと俺は双剣が得意だから右手も左手も同じように扱えると思われがちだが、おまえらも知ってのとおり実際は右利きだから、どうしても右のほうに力が入りすぎてしまうんだ。だから――」

「なるほど。だから左手で戦ったと。そうすれば双剣を使うときのレベルアップにもなりますね。それでもぶっつけ本番でそれを実行するアルには驚かされます。ブレンダ、アルのザフィーア流はどうでしたか?]


 ハロルドがザフィーア流剣術の使い手ブレンダに話を振った。

 俺もそれは気になっていたところだ。


「あたしに訊かずともハロルドも解っているでしょう? 基本はちゃんと押さえてあったし練度も高かった。だからスカーレットに勝てたのよ。彼女は初級の腕前なのよ。勝負を決めた〈アイリス〉に関してはまだまだね。踏み込むとき軸がわずかにぶれていたもの」


 ザフィーア流剣術の突き技〈アイリス〉はブレンダの最も得意とする剣技だ。

 〈アイリス〉に関してブレンダから及第点をもらおうとは俺もそこまでずうずうしくない。

 現時点での評価に俺は満足した。


「急場しのぎにしては出来過ぎなぐらいよ。実際のところ、いつからやっていたのかしら?」

「本格的に体を使って試したのは死竜の砦の一件以降だよ。それまで四年間、この目で嫌というほどおまえたちの動きは見ていたからな」


 それもあってブレンダのザフィーア流剣術、ロイドのザルドーニュクス剣術、ミリアムのディアマント流剣術の三つの流派は頭の中ですぐにイメージできたので、あとはそれを体に落とし込むだけだった。


「アル、ぜってぇ第二試合で俺と当たるなよ。俺が決勝トーナメントにいけるかどうかで兄貴と賭けてんだ」

「俺に言われても困るぞ。組み合わせ抽選をするのは先生たちだ」


 セシリアたちがぷっと吹き出した。

 兄貴と賭けをしているロイドは少しでも勝ち残れる可能性を上げるために、俺とは絶対に当たりたくないそうだ。

 もし決勝トーナメントの決勝まで進みウルズ武闘祭の出場権を手にしたならば、親父さんから臨時の小遣いがもらえるらしい。

 その金で新しい鍛冶道具一式を買い換えるんだそうだ。


「う~ん、でもロイドくんじゃないけど、第二試合の組み合わせ次第で勝率が大きく変わるんだもんね」


 ミリアムが不安そうに言った。

 第一試合を勝ち抜いた二十名の内訳は、樹竜クラスがエドガ-を含めた五名、氷竜クラスと雷竜クラスがそれぞれ四名、炎竜クラスが一名、そして風竜クラスは俺、セシリア、ロイド、ハロルド、ブレンダ、ミリアムの六名だ。

 残念ながら俺たち六人以外のクラスメイトは負けてしまったが、彼らの実力が劣っているとは一概には言えない。

 現にミリアムはクラスでも下から数えたほうが早い実力だ。

 そこは第一試合の多人数による生き残り形式という点と、組み合わせの結果も大きい。

 仮に俺たちのうち誰かがエドガーと当たっていたら負けもありえたのだ。


「残った面子を考えれば、誰と当たっても強敵なのは間違いないです。僕たちより下のクラスでは炎竜クラスの一人だけですが、第一試合を見た限りでは油断はできません。次の第二試合で五年生二百三十五名の上位十名が決まります。つまりウルズ剣術学院全体では上位六十名となりますからね。みんな目の色を変えて必死になりますよ」


 ハロルドの言うとおり楽に勝てる相手などいやしない。

 誰もがウルズ剣術学院で切磋琢磨してきたのだから。




 ◇◇◇




 昼食を終えて六人揃って稽古場に戻ると、すでに組み合わせ抽選を待っている生徒たちで賑わっていた。

 そうした中、ついに組み合わせ抽選が始まった。


「六年生のほうが騒がしいわ。何かあったのかな?」


 セシリアが俺に問いかけた。

 答えたのはハロルドだ。


「強者同士当たるようですね。片方は去年準決勝まで残った人です。その対戦相手はローラ先輩みたいです」


 ローラ先輩も勝ち上がっていたらしい。

 その対戦相手は格上か。

 準決勝ということはウルズ魔術学院との交流戦のメンバーにも選出されたはずだ。

 面識がある分ローラ先輩を応援してやりたいが、一筋ならではいかない相手のようだ。


「六年の組み合わせよりこっちも大変なことになっているわよ」


 ブレンダの声に振り返ると、俺たち五年の組み合わせでも大きな動きがあった。


「おいおいおいおい! こんなことってありかよ!?」


 ロイドが抽選結果を見て頭を抱えた。

 ブレンダは楽しそうに口元を押さえながら、ロイドの背中を叩いた。


(なかなか面白い組み合わせだな。ロイドには悪いが俺にとってはいい巡り合わせだ)


 俺はロイドの肩を叩き言う。


「よろしくな、ロイド。いい試合をしよう」

「くっ……解った。ウジウジ悩んでも仕方がねぇぜ。こうなりゃ全力でやるだけだ。アル、どっちが勝っても恨みっこなしだぜ」

「ああ」


 ロイドが拳を突き出してきたので俺もそれに合わせ互いに視線を交した。

 こうして第二試合が始まった。

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