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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第七話「遅れて来た者」

 翌日、学院内予選当日の朝。

 俺は警察署にいた。

 取調室とプレートに書かれた小部屋。

 木椅子に腰かけた俺と机を挟んで向かい側には机に肘をついた警官が視線を合わせていた。


「なるほど。ゴブリンを狩っていたらいつの間にかサイーダ森林の奥へと足を踏み入れてしまっていた……と」

「はい、だからさっきからそう言ってるじゃないですか」


 今朝早く寮母のおばさんに警官が訪ねて来ていると起こされた俺は、眠い目をこすりながら学院寮の玄関口で警官と対面した。

 見覚えのない警官だったが、昨夜サイーダ森林の禁止区域に近づいたことで話があるから警察署まで連行するというのだ。

 面倒なことになったと思ったが、ここでこうしていても埒があかないと判断した俺は、素直に警官に同行することを決めた。

 どうせすぐに済むだろうと軽く考えていたからだ。

 寮母のおばさん気は動転してあたふたしていたが、冷静に戻ったら学院のブランドン先生にでも連絡を入れてくれるだろう。


 警察署に着いた俺は取調室に案内されて――そのときになって、ようやく悪い予感がしだした――警官から事の顛末を聞かされた。

 昨夜、俺を町まで送ってくれた兵士のおじさんが警察に連絡したのかなと思ったが、そうではないようだ。

 稲妻の谷で兵士のおじさんと一緒にいた二人の兵士が子どもが森の奥まで入ってきているから厳重注意するようにと、早朝に警察署に立ち寄ったらしい。

 業務に支障が出るから厳しく叱っておいてくれと言っていたらしい。


 兵士のおじさんが武器の携帯に関しては口止めをしてくれていたのか、その件は話に上がっていない。

 あくまで俺が丸腰で禁止区域付近の稲妻の谷まで近づいたことになっていた。

 警官からはどういった理由でそんな場所にいたんだと詰め寄られているのだ。

 まぁ、身から出た錆なのだが、学院寮を出た時点ではこんな面倒になるとは考えてもいなかった。


 とっくに学院の始業時間は過ぎている。

 今日は学院内予選の当日で、朝から試合が進行する予定だ。

 もう最初の試合が始まっている頃合いだろう。

 試合の組み合わせは厳正なる抽選によって決められるが、俺の試合が最初のほうになっていたらもう欠場は確定的だ。

 そのため俺も少し焦っていた。


「あのなぁ、いくらなんでもそんな嘘が通用すると思っているのか? 武器を持たずに町の外へ、しかも魔物が棲息するサイーダ森林の奥まで行くなんて正気の沙汰じゃないぞ。そんなことは子どもだって解ることだ」


 警官は呆れたように何度目かのため息を吐いた。

 確かに正論だ。

 俺が剣を携帯していなかったことになっているので、自分で説明していてもおかしいのは理解している。

 警官を納得させるだけの言い訳が思いつかず、時間だけが過ぎていく。


 警官との問答は平行線だ。

 妙案も浮かばないので、俺は違うことを考え始めた。

 闇夜の死竜の偽物と稲妻の谷でのワイバーンの件だ。


 互いに沈黙が長くなってきたが、それを破るかのように警官の背後にある扉の向こうからノックが聞こえた。


「おい、なんだ? 昼飯にはちょっと早いだろう」

「あの、違います。その少年の身柄を引き取りにウルズ剣術学院の教師が訪ねてきています」

「学校の先生が? よし、解った。お通ししろ」


 扉の向こうから「はい、すぐに」と返事が聞こえ、警官が胡乱げな顔で俺を見つめる。


「昼飯の時間までには終わらせたいもんだな。さっさと正直に言えば帰れるのに……ったく。あとは先生からも説得してもらうか」


 少しして取調室を訪れたのは別の警官だ。

 扉を少し開いて顔だけ出している。


「お連れしました」

「どうもー、身元引受人のブランドン・ダフニー、ウルズ剣術学院の教師です。うちの生徒アルバート・サビアの身柄を引き取りに来ました」


 警官の後ろから顔を覗かせたのは担任のブランドン先生だった。


「ブランドン先生!」

「アルバート、警察の人は大事な仕事があるのに迷惑をかけちゃ駄目じゃないか。すみません、私のほうからキツく言っておきますので今日のところはこの子を連れて帰ってもいいですか? 本当に普段は真面目でいい子なんです。私の担当しているクラスでも他のクラスの模範になるような生徒でして。いや、あなた方のおっしゃりたいことは十分理解しています」


 いつもより二割増しの笑顔でブランドン先生はまくし立てる。

 口を開こうとした警官に喋る機会を与えず矢継ぎ早に一方的に言うと、俺の肩に手を回して無理やり立たせた。


「今回はご迷惑をおかけして本っ当にすみませんでした~。では」


 そのまま呆気に取られる警官を置いて、俺を取調室から救出してくれた。

 警察署内をすれ違う警官たちに愛想笑いを振りまいて、俺の首根っこを掴みながら玄関へと向かう。


「ったく勘弁して欲しいよ。これは貸しひとつだよ」

「ごめん、今回ばかりは反論の余地もないよ。来てくれてありがとう」


 そうして二人揃って警察署を出たのだった。

 問題はこのあとだ。

 俺は気になっていることをブランドン先生に訊いた。


「ブランドン先生、学院内予選はどうなってる?」


 時間的にはもうそろそろ、すべての組の一試合目が終わる頃だ。


「俺が学院を出た時は五組目の試合が始まってすぐだった。風竜クラスからはロイドが出場する試合だよ。ロイドはできるだけ時間を稼ぐと言っていた。だから必ずきみを連れてくるように頼まれたよ。セシリアや他のクラスメイトも心配している」

「みんなが……」


 そこからは全力疾走だった。

 警察署からウルズ剣術学院までの最短ルートは頭に刻まれている。

 通りを駆け抜けながら横目で隣を見る。

 さすがブランドン先生も俺のスピードについてきている。


「ちょっと飛ばしすぎじゃないかい? これじゃあ試合前にバテてしまうだろう」

「試合に間に合わないほうが最悪だ。たとえ足が折れても走るつもりだよ」


 そしてウルズ剣術学院が見えてくる。

 正門をくぐり、試合が行われている稽古場へ滑り込んだ。


「アル! もう、心配したわよ! どこ行ってたの!? あまりに遅いから、寝坊したんじゃないかって学院寮まで迎えにいったのよ」


 セシリアが血相を変えて近づいてくる。


「ごめん、セシリア。心配かけた」


 いま試合をしているのはハロルドだった。

 幸運にも俺の試合は最終組だったようで出番は次だ。

 それでも、もう間に合わないと思っていたのにまだ学院内予選の一試合目は続いていた。

 俺の疑問はすぐにセシリアが解消してくれた。

 みんなが時間を稼いでくれたらしい。


 セシリア、ロイド、ブレンダ、ミリアムはできるだけ時間を使い試合を進め、なおかつ勝利をもぎ取っていた。

 他のクラスの有力候補に当たらなかったという運もあるが、それでも時間を延ばしながら試合運びをするのは苦労しただろう。

 特にミリアムは勝利するだけでも厳しかったはずなのに――学院内予選では魔法の使用は認められていない。あくまで剣術の競い合いだ――頑張ってくれたとブレンダが俺の背中を叩きながら教えてくれた。


 みんなに望みを繋いでもらったことに少しばかり目頭が熱くなるのを感じた。

 そして俺はいま目の前で試合をしているハロルドにの背に向かって大声で叫んだ。


「ハロルド! みんなのおかげで俺は間に合った!」


 ハロルドは試合相手と対峙しているのでこちらに背を向けたままだが、後ろ姿からでも頷いてくれたのが解った。

 俺の到着が合図だったようにハロルドが素速く攻勢に出る。

 瞬く間に他の生徒を圧倒し勝利を収めた。

 審判から勝ち名乗りを受けてから、ハロルドが俺に歩み寄ってくる。


「アル、準備運動なしで大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。走って来たからいい感じに体が温まってるよ。行ってくる」


 俺は額の汗を拭いながら言った。

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