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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第三章 武闘祭と後継者
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第五話「双剣を使う者」

「闇夜の死竜の偽物が出た?」


 俺はブランドン先生から不可解な事実を告げられた。


「きみが俺に内緒で仕事を手伝ってくれたのではないのなら、そうなるね」

「誰がそんな回りくどいことするかよ」

「だったらきみになりすました何者かの仕業ということになる」


 ブランドン先生によると、ここ数日ウルズの町に闇夜の死竜が出没していたらしい。

 やってることと言えば、普段俺がしていることと同じだ。


「今夜も暴力沙汰を起こしていた闇ギルドのゴロツキを捕まえてくれたようだ」

「闇ギルド……ひょっとしてミリカ団か?」

「いいや、取るに足らない弱小組織のチンピラだよ。しかもきみより手際がいい。おかげで俺はかなり楽ができたよ」

「あーそうかい。だったらそいつに三代目を譲ってやってもいいんだぜ。俺も肩の荷が下りるってもんだ。これでようやく普通の学生生活を送れるな」


 初代闇夜の死竜であるブランドン先生は、大げさに肩をすくめた。


「で、いつからだ?」

「何がだい?」

「俺の偽物が出たのがだよ」

「ふぅん、やっぱり嫌だ嫌だと言いつつも、闇夜の死竜の座は誰にも渡したくないんだね」

「別に。ただ俺の偽物が出たってのが気にくわないだけだ」


 俺の偽物が出没し始めたのは十日前かららしい。

 黒衣のマントをなびかせるその出で立ちは、まごう事なき闇夜の死竜そのもののようだ。

 ご丁寧に死竜の仮面まで装着して、左右の腰には一対の双剣があるようだ。


「俺もこの目でみたわけじゃないからね。目撃した警官からの話をまとめるとそういうことらしい」

「どうして俺に教えてくれなかったんだよ」

「今日言おうとしたさ。なのにきみが仕事を断って話を切り上げたからね」

「別に今日じゃなくても昨日だって、その前だっていくらでも伝えることはできただろ。この十日間、毎日学校で顔を合わせていたんだぞ?」

「いやぁ、こっちも情報を精査していたからね。不確定な情報を相棒に伝達するのはマズいと思ったんだよ」


 ブランドン先生は顔に笑みを張り付けたままで言う。

 どうだかなぁ……。

 正直、ブランドン先生の考えは読めない。

 本当に深刻な状況なら真っ先に俺に相談したと思うし――そうだよな?――この落ち着き具合から判断すると、大事には捉えていないと感じる。


「解ったよ。相棒がそう言うなら納得はしていないが理解はした。ところで、稲妻の谷で気になることがあった」

「稲妻の谷? どうしてそんなところへ?」

「学院内予選に向けての腕試しだよ」

「ワイバーン相手にかい? なるほど、俺の仕事を断ったのはそういうことか。しかしワイバーンではきみの双剣の前じゃ相手にならないだろう? ゴブリンも然りだ」


 ブランドン先生もワイバーンが俺の敵でないことは解っている。

 そして勘違いもしていた。


「苦労はしないさ。双剣を使えばな」

「……おい、冗談だと言ってくれ。頭は大丈夫か?」


 俺の言葉を聞いて、半信半疑のブランドン先生が少し狼狽えたような表情をした。

 滅多に見られない顔だ。

 ワイバーン相手に双剣じゃ稽古にならない。

 だから俺は片手剣で戦った。

 もちろん俺の片手剣の練度じゃ倒しきることはできない。

 仕留めたのは双剣だ。

 理解したブランドン先生は大きくかぶりを振った。


「格上のワイバーン相手に緊張感あるギリギリの攻防。おかげで片手剣の練度は格段に上がったよ。次の昇級試験じゃ中級を狙えるかもな」

「呆れるよ。まさかワイバーン相手に腕を磨いていたとはね。その自慢話を聞いて欲しかったのかい?」

「まさか。話の腰を折ったのはそっちだろ。本題はこっからさ。俺はこの数日、それを日課にしていたんだ。だから今夜も稲妻の谷へ向かった――」


 俺は稲妻の谷で目撃した一部始終を事細かに説明した。

 さすがにブランドン先生も真剣な表情で、時折うなずきながら聞いている。


「そうか。軍と冒険者ギルドには俺から連絡しておこう。しかし、闇夜の死竜にワイバーンの死体か……」

「……? その二件の出来事に何か関連性があるとでも言うのか?」

「いや、同時にこんなことが起こるなんて、と思っただけさ。普通に考えれば手練れの冒険者パーティーがやったのかもしれない。冒険者ギルドに聞けば、最近ウルズの町に出入りしたAランク以上の冒険者も調べられる。これも俺が調べておこう。明日には返事ができるはずだ」

「解った、頼む」


 お互いに持っている情報を交換し終えて、少しの沈黙があった。

 すると、不意にブランドン先生が訊いてきた。


「それで、今夜はどうするつもりだい?」

「そうだな。今から稲妻の谷間で戻るのも時間がもったいないし、俺の偽物とやらを捕まえに行こうか。変な悪さでもして濡れ衣を着させられても困るし」

「了解だ。魔眼で追えるかい?」

「無理だと解って訊いているんだろ。少なくともそいつの持ち物か何かが無ければ無理だな」

「だったらどうする? この広いウルズの町をあてもなく探すってのかい?」


 さっきの警官も言っていたとおり、俺はこの町のありとあらゆる裏道や抜け道を熟知している。

 偽物が辿ったルートさえ解れば、予測は立てられる。


「相棒は警察署へ行って、今夜偽物が目撃された場所をすべて訊いてきてくれ。そしたら俺が偽物の移動ルートを予測する。あとは先回りして挟み撃ち。いつものパターンだ」


 ブランドン先生は口元に笑みを浮かべながらうなずくと、マントを翻し警察署に向かって駆け出した。

 俺はその背中を眺めていた。




 ◇◇◇




 しばらくしてからブランドン先生と合流し、偽物の目撃情報を確認した俺はすぐさま予測ルートを割り出す。

 導き出されたのは三つのルートだ。

 これ以上の手がかりがないので、こればっかりはしらみつぶしになる。


「ルートは頭に叩き込んだな? 行くぞ、相棒」

「解った。もし戦闘になったら頼むよ。きみの代わりに二人分働いたから疲れているんだ」

「はいはい、解ったよ」


 同時に石敷の地面を蹴って、別方向に走り出す。

 見つけても見つからなくても、目標地点で合流する手筈になっていた。


 俺は大通りを横切って路地に入る。

 人一人がやっと通れるような狭い路地だが、速度を緩めることはない。

 突き当たりを右に曲がり、さらに奥へと突き進んだ。

 先へ進むと高い塀が立ち塞がり行き止まりになっているが、俺は飛翔の魔法を使い跳び越えた。

 着地したのは民家の屋根の上だ。


(警官の数が少ない。あてが外れたか)


 周囲にうっすらと移動するランタンの灯火を確認しながら、俺はこのルートは違うと判断した。

 そうと決まれば、予定を変更して早めにブランドン先生と合流する必要がある。

 俺は来た道を少し戻ってから針路を変えた。

 路地裏を右へ左へ駆け抜ける。

 路地から飛び出した俺はブランドン先生と鉢合わせした。

 ブランドン先生は目を白黒させている。


「――!? つっ……! ……驚かさないでくれ。今ので寿命が縮んだよ」

「相棒、この先に偽物はいない。別のルートでいく」


 簡潔に次のルートをブランドン先生に説明すると、俺たちは逆方向を目指した。

 もちろん俺とブランドン先生はそれぞれ別の方角へ走り出す。

 偽物を見つけたときに挟み撃ちにするためだ。

 結論から言うと、ここで当たりを引いた。


 前方の暗闇に何者かの気配を察した俺は足を止める。

 ブランドン先生かと思ったが様子が違う。

 ゆっくりと近づくと相手の姿がおぼろげながら見えてきた。


 相手は背をこちらに向けている。

 俺を警戒して、向こうも注意を払っているようだった。

 漆黒のマントを羽織って肩越しに俺を見る。

 そこで俺は声をかけた。


「見つけた。おまえが偽物か」


 俺と同じドラゴンを模した仮面を被った何者かがこちらに向け直った。


(これは驚いたな。俺とまったく同じ出で立ちじゃないか。体格も俺と同じくらいときた。警官たちが勘違いしたのもうなずける)


 しかし、よく俺と同じ装備を用意できたものだ。

 マントや鎧はともかく、死竜の仮面に至ってはブランドン先生が職人に特注で作らせたものだというのに。

 腰には双剣か。

 こいつの目的は何だろう。

 そして何者だ?


「ここ数日、俺の代わりに悪党退治をしてくれたようだな。偽物さん、目的は何だ?」


 俺の問いに偽物が肩を上下に震わせた。

 笑いを押し殺しているようだ。


「……偽物、か。ならばおまえが本物か? その証拠はどこにある。そっちこそ偽物じゃないのか?」

「なに……?」


 観念するどころか俺を偽物扱いしてくるとは。

 何なんだこいつは。

 声からして男。

 それも若い。


「おまえが本物かどうか、俺が試してやろう」


 そう言って偽物は腰の剣を抜いた。

 やはり双剣だった。

 俺の両腰にぶら下がっている双剣と同じ形状。

 

(双剣まで同じかよ。……!? しかも、隙がない)


 偽物が双剣を構えているが本当に隙らしい隙が見当たらなかった。

 ただの真似事ではなさそうだ。

 双剣使い……だと!?

 しかもこの構えは――!?


 次の瞬間、偽物が動いた。

 双剣を振るいながら突進してきたのだ。

 俺は対応すべくすばやく双剣を抜いた。


 二人の体が交差し、互いの位置を入れ替えた。


(こ、これは……!?)


 偽物の攻撃を完璧に受け流した俺は、背中に冷たいものが流れるのを感じた。


「やっと会えたな、ウルズの守護神。いや――アルバート・サビア」


 偽物は俺の名を呼んだ。

 俺は大きく動揺した。

 正体不明の偽物から名前を呼ばれたからではない。

 偽物が使った剣術に驚いていたのだ。


 なぜならそれは、俺が使うアレクサンドリート流剣術だったからだった。

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