第十一話「その役目俺が引き受けてやる」
ジェラードたちはセドリック侯爵の手厚い歓迎を受けて、三日間の休暇を楽しんだ。その間、レイラはジェラードにべったりだった。ジェラードのことがいたく気に入ったようだっだ。そして、セドリック侯爵領から王都に戻る馬車の中。ソニアとメレディスが隣同士で座り、その向かいにジェラードとレイラが座っていた。
セドリック公爵や妻のヒルダは侯爵領にいるより、ジェラードやソニアと一緒にいたほうがレイラは安全だと言い預けた。なので、ここにレイラがいるのである。レイラにしても、憧れのジェラードや姉と慕うソニアと一緒にいたそうだった。
「それで、それで? ソニアお姉様、ジェラード様の活躍をもっと教えてくださいませ!」
「わたしを助ける際、メレディス様に対して不信感を拭うために自分の片腕を斬り落としたそうです。わたしもそれを聞いた時は驚きました。なので、この人を絶対に助けなきゃって思ったんですよ」
「えぇ!? 片腕を落とされたのですか! ソニアお姉様のためにそこまで……!」
レイラは驚いた後に、どこか悔しそうな顔をする。
「レイラ殿、こやつは女にはだらしのないやつでして、気をつけたほうがよろしいじゃろう」
「ジジイ、うるせえぞ。助けてやった分は、王都に帰ったらたっぷり奢ってもらうからな。レイラ、酒はあるか?」
「あ、はい! お父様が持たせてくださった高級ワインがここに」
レイラが荷物から酒瓶を取り出してジェラードに差し出した。ジェラードはそれを受け取ると、口で詮を抜き飲み始めた。
◇ ◇ ◇
王都に着くと、勇者パーティーと情報を交換した。魔王軍が一度攻めて来たが、撃退したそうだ。そして、今後の方針について会議をするそうなので、ジェラードたちは息をつく暇もなく参加することになった。参加者は国王や大臣など国の重鎮を含め、勇者パーティーとソニア、メレディスそしてジェラードだ。レイラはソニアに与えられた屋敷で待っている。
「僕から提案なんですが、よろしいですか?」
勇者が起立して言った。国王はそれを見て頷き、着席するように促した。
「今後も魔王軍と戦っていくには、やはり戦力が不足しています。いまはジェラードさんの助けもあり何とかなっていますが、根本的な解決には至りません。そこで、僕は多種族との共闘を考えています」
大臣たちがざわついた。無理もない。エルフや獣人と共闘するなど、いままで考えられなかったからだ。人間、エルフ、獣人はそれぞれ別の国家を形成しており、国家間の交流はまったくと言っていいほどない。争うこともないのだが、仲がいいわけでもなかった。そして、いまは魔族という共通の敵がいるのだ。同盟を結ぶならいまこの時をおいてない。
「だが勇者よ、その二国とは国交はないぞ。われわれ人間をどう見ておるか、まったく予想がつかん」
大臣の一人が言った。
「わしは前勇者殿と旅をした時に二国を訪れましたが、エルフの女王は気難しいと聞きますし、獣王は気性が激しいと聞きました。交渉に長けた人物でないと難しいでしょうな」
メレディスが苦い顔をする。かつて前勇者と共に二国を訪れたメレディスは、その時のことを思い出すように語った。当時はまだ魔王軍とも国境付近での小競り合いが膠着していた時代だ。その戦いで勇者は命を落とし、いまも生きているのはメレディスと前聖女のヒルダだけだった。
全勇者も同じ事を考えていたようだが、結局エルフの女王とも獣王とも謁見はできなかった。それなのに、誰がその役を担うのだという大臣の視線が勇者に突き刺さる。
「適任者がいなければ、僕が向かうしかありません」
「しかし、そなたがいなければ王都の守りはどうする? 魔王軍が王都にも攻めてくる昨今の状況では、簡単に決められる話ではないぞ」
大臣が首を横に振った。黙って話を聞いていたジェラードは腕を組んで考えていた。
(エルフの女王……一度目にしたことはある。獣王にいたっては師匠を殺した張本人だ。俺とも因縁がある。だが――)
ジェラードは自分の本能に従うことにした。
「エルフの女王も獣王もどっちもいい女だ」
唐突にジェラードが発言する。国王や大臣は一瞬、ぽかんとした表情になった。すかさず、メレディスがジェラードの脇腹を肘で突いてから咳払いする。
「……二国と同盟を結ぶなら、俺がその役目引き受けてやってもいい」
「本当ですか! 僕も長く王都を空けるわけにはいきませんので、ジェラードさんが引き受けていただけるなら助かります!」
勇者は賛成のようだ。ジェラード一人では心配だと言うのでソニアが、そして二人きりで行かせるのはマズいと思ったメレディスが同行を申し出る。大臣もそれならと了承した。
◇ ◇ ◇
屋敷に戻ったジェラードたちを出迎えたのは、満面の笑みで駆け寄ってくるレイラだった。レイラはソニアの手を両手で掴むと、お願いを言った。
「ソニアお姉様、屋敷の中を見せてもらいましたわ! とっても素晴らしい住まいで羨ましいです。それで、ソノアお姉様にお願いがあるんですが、ジェラード様のお隣の部屋が空いていると執事に聞きましたわ。わたくし、その部屋を使ってもよろしいでしょうか?」
ジェラードの部屋の隣はソニアの部屋だ。しかし、反対側の隣は空室になっている。大きな屋敷なので使っていない部屋はたくさんあった。
「もちろんよ。レイラの好きな部屋を使ってくれて大丈夫ですよ」
「わあ! ありがとうございます! ソニアお姉様、大好きです!」
レイラが嬉しそうにソニアに抱きついた。
「でも、ごめんなさいレイラ。いまからわたしたちまた王都を発つことになったの。しばらく戻れないと思うわ。寂しいと思うけれど、王都には勇者様もいらっしゃるから安心してね」
「そんな!? 嫌ですわ! ソノアお姉様が行くということは当然ジェラード様も一緒なのですね。わたくしも行きますわ!」
「駄目よ。危険な旅になるわ。エルフと獣人の国へ行くのよ。未知の危険が待っているの。お願い、わかってレイラ」
ソニアが困った顔でレイラを宥める。
「でも、ジェラード様がいるならきっと大丈夫ですわ!」
レイラはジェラードのほうを見つめた。ジェラードはレイラの頭に手を置いてくしゃっとすると、屋敷に向かって歩いて行く。
「旅をするのに酒と女は多いほうがいい。レイラ、ついてくるんなら早く旅の支度をしろ」
「ジェラード様!? 本気ですか?」
「ねっ、ソニアお姉様! ジェラード様もこう言ってるわ」
「ジェラード、おぬし事の重要性を理解しておるのか?」
「俺が二人を守りゃいいんだろう。安心しろ、俺は女は傷つけさせねぇ。ジジイ、酒の奢りは次に王都に帰ってきた時まで貸しにしといてやるぜ」
ジェラードは後ろ手に手を振って、屋敷に入っていった。




