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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第十話「その頃、魔王軍は」②

 魔王城のある一室で、魔王軍宰相ギデオンと四天王が集まっていた。ジェラードがギデオンや四天王に敵対の意思を見せたことは、ライナスの報告で明らかになった。それ以前にも幹部の報告があったのだが、これで確定的となったのだ。しかし、その空気は非常に重かった。


「ライナス、これは失態だな。ジェラードを殺すと息巻いていながら、おめおめと逃げ帰ってくるとは」

「女に弱いジェラードの性格を利用するために、前聖女の娘を人質にする策でしたが、まさか……その場にジェラード本人が現れるとは……」


 獣界方面軍に所属していたジェラードは、町を襲っても略奪行為は認めたが、女と子どもに対する陵辱行為は一切禁止していた。不満を漏らす兵もいたが、それを宥めていたのは配下だった四天王だ。そしてジェラードが追放された現在では、その禁止事項は撤廃されている。


「言い訳はいい。俺もあまり気が長い方ではないぞ? 次はしくじるな」

「はっ……申し訳ございません」


 ギデオンから叱責され、顔を上げることのない暗黒騎士ライナスは冷たい汗を流していた。


「それで……おまえの話では、ジェラードの使った魔法はスペルシャドウで間違いないだろう」

「ギデオン様、知っているのですか!?」

「うむ。古代魔法の一つだ」

「古代魔法……!」


 ギデオンが語る。古代魔法とは、かつてこの地とは海を隔てた大陸でリオネス王国が繁栄していた時代――いわゆる魔法文明と呼ばれた時代の魔法だ。初級、中級、上級と分類される魔法のさらに上に位置づけされているが、その存在を知っているのは一握りの者だ。


 ライナスが呪術師カールをちらりと目をやるが、怪訝な顔つきで横に首を振った。


「おまえたちが知らぬのも無理はない。古代魔法は俺もわが師から学んだが、ジェラードも当然使える」

「そのリオネス王国という名も初めて聞きました。人間どもの住む国なのですか?」

「それに関しては師が気まぐれに話していたのを聞いただけなので、真偽の程は定かではない」


 ギデオンは記憶を辿るように続ける。元々、魔族はその大陸から海を渡りこの地にやって来た。二千年も前の話だ。魔族には多種多様の種族が存在し、ある時、諍いを起こした一種族が袂を分かちこの地に渡った。それが今日の魔族の祖先である。この話を知っているのは魔王とギデオンを始め古参の幹部が、伝承として知っているのみ。比較的若い四天王が知っているはずがなかった。


「師の娘が六十年も前にこの地を捨て、かの大陸に向かったが恐らく生きてはおらんだろうな」

「前宰相に娘がいたというのは初耳です」

「くだらない親子喧嘩だ。師もわざわざ話すことではないと思ったのだろう。魔術に長けた師に反抗するように、その娘は剣術を磨いた。……ふっ、まさか古代魔法の話からこんな話になるとはな。話が逸れたから元に戻そう」


 懐かしむように頬を緩めていたギデオンは、神妙な顔つきになった。ジェラードが遺跡から持ち出そうとした禁呪は、その古代魔法の一つで、あまりに危険なため前宰相が禁忌とした魔法である。禁呪のスクロールにはそのような魔法がいくつか記載されているようだ。


「しかし、ジェラードが人間側についたとなると、少し考えねばならんな。元々、人界、エルフ界、獣界で一番力を持たなかったのは人界の人間どもだ。エルフには強力な魔法が、獣人には強固な肉体がある。どちらにも及ばない人間は非力な存在だったが……忌々しい。ジェラード一人に掻き回されるとは」

「ギデオン様、私に今一度汚名返上の機会をお与えください。次こそは必ず、ジェラードを血祭りにあげてみせます」


 ライナスはそう言うしかなかったのだろうが、ギデオンは考えるように顎に手をやった。四天王は息を飲み、その様子をじっと見つめた。沈黙に耐えかねるように、闇神官ヘイデンが声を絞り出した。


「ジェラードめが裏切ったとなると、魔王様も動くのではないですか?」

「そんなことはわかっている。いくら魔王様でも、もう殺すなとは言わんだろう。だが、他の幹部が先にジェラードを殺してみろ。おまえたちは役立たずと罵られ、いまの立場から降格することになるんだぞ」

「そ、それは……!」


 四天王の失脚、それは同時に彼らを重用したギデオンの責となる。宰相にまで成り上がったギデオンにとって、それは何より耐えがたい苦痛であろう。


「そうなりたくなかったら、ライナスとヘイデン。おまえたち二人で、策を練れ」

「はっ」


 ライナスとヘイデンは頭を下げた。


「カール、獣界のほうはどんな状況だ?」

「はっ。獣王の護衛にとんでもなく腕の立つ者がおりまして、なかなか事が運びません……」

「どういうことだ?」

「ウォルターの調べでは、恐らく獣王以上の実力だと思われるそうです」

「獣王より強いだと? わが師と死闘を繰り広げたあの獣王よりもか。ウォルター、そうなのか?」

「はっ。私の見立てではそうなります」


 ギデオンは目を細めて、暗殺者ウォルターを睨んだ。


「そこはおまえの出番ではないのか、ウォルターよ。さっさと始末して獣界を手中に収めろ。そして、問題はジェラードだ。われら魔族に反旗を翻すとは馬鹿な男よ。――ジェラードを必ず殺せ」


 ギデオンが殺気を放ち低い声で告げた。四天王も次はないと思ったに違いない。

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