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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第六話「面倒だからおまえらがやれ」

 勇者が王都に到着し、聖女であるソニアと合流を果たした。ジェラードはソニア自らが登用した護衛という形で、勇者パーティーに加わることとなる。そうして、勇者パーティーは王都近隣の魔王軍に襲撃された町や村に出向いて、それをことごとく退けていた。


 もっとも活躍したのはジェラードだった。こんな魔導師が野に埋もれていたのかと、勇者たちは驚いていた。そして、数日ぶりに休暇をもらったジェラードとソニアは、国王に与えられた屋敷で怪我人の治療に追われていた。


「ソニア、俺たちは休暇をもらったんじゃなかったのか?」

「はい……そうなんですけれど……」


 目の前には負傷した兵士が次々と担ぎ込まれている。朝からジェラードとソニアは休む間もなく治癒魔法を使い続けていた。怪我人は近隣の街や村で、魔王軍との戦いによって負傷した者たちだ。


「はっはっは。さすが、深淵の魔導師ジェラードだのう。わしはもう魔力が尽きてしまったというのに、全然疲れておらんようじゃ」


 笑いながら近づいてきたのは賢者のメレディスだ。


「おい、ジジイ。おまえ最初から知っていたな? 俺とソニアの休暇が名ばかりだということに」

「仕方あるまい、それが力ある者の宿命じゃ。弱き者を助ける。良いではないか」

「わたしは大丈夫です。それより、特に重体の方の治療をしないと……あっ」


 ソニアが目眩を起こしたように崩れ落ちそうになる。咄嗟に支えるジェラードだったが、魔族は聖女に触れることができない。


「あだだっだだだだだっだだっ!」


 ジェラードの全身に電撃が迸った。代わりにメレディスがソニアを支える。


「聖女様、あまり無理をなさらぬよう。あとは、このジェラードに任せたほうがいいじゃろう」

「いえ、メレディス様……それではジェラード様の負担が……。わたしは、まだやれます」

「わかった、わかった。ソニア、おまえは少し休んでいろ。あとは俺がやる。おい、ジジイ酒を持ってこい。喉が渇いた」

「水ならそこにあるじゃろう」

「俺の魔力の源は酒だ。早く持ってきてくれ」

「酒で魔力が回復するなど聞いたこともないわ」


 もちろん、メレディスの言うとおり酒で魔力が回復するわけはない。しかし、ジェラードは酒でも飲まなければ、面倒臭くてやっていられなかったのだ。結局、メレディスが首を縦に振ることはなく、ジェラードは渋々怪我人を治していった。


「ジェラード様、ありがとうございます! 折れていた腕が、ほらこんなに良くなりました!」

「俺もです! また自分の足で歩けるようになるなんて思ってもみませんでした! 本当にありがとうございます!」

「……お、おう」


 ジェラードに向けられる心からの感謝の言葉。魔王軍では味わったことのない出来事に、ジェラードは戸惑っていた。


(意外と悪くねぇ……な。しかし、あと何人いるんだ?)


 治癒魔法を続けながら、ちらりと長蛇の列を見るが、その終わりは見えなかった。


「ジジイ、あと何人いるんだ? そろそろ腹が減ってきたんだが」

「あと二百人ほどじゃのう。それが終わったら酒でも何でもわしが馳走してやろう」

「ちっ、こき使いやがって」


 悪態をつきながらも、ジェラードは悪い気はしなかった。頼られて感謝される。経験したことのない感情だったからだ。こんなに心地よいものだったのかと、そう思った。


「それにしても、ジェラード様の魔力はどれほどあるんでしょう? わたしもほとんど魔力が残っていないというのに」

「わしも気になっておりました。まったく底が見えん」

「ふん、おまえらと一緒にするな。俺は深淵の魔導師だぞ。俺ぐらい魔力総量が多いやつなんて、死んだ師ぐらいなもんだぜ」


 魔力総量とは体内に蓄積されている魔力の量で、生まれつきでその量はほぼ固定されている。いくら修行を積んでも魔力総量が増えることはほとんどない。聖女のソニアや、賢者のメレディスでさえ、魔力総量は普通の冒険者の三十倍ほどだ。しかし、ジェラードの魔力総量は最低でも百倍はある。今日治療した怪我人の数がそれを物語っていた。実際のところはジェラードのみが知る。


「お師匠様ですか? いったいどのような方だったんですか?」

「こやつの師であるなら、ジェラードに似て酒好きの乱暴者だったんじゃろう」

「……勝手なこといいやがって。そんなことはどうでもいいんだよ」


 あしらうように手を振ると、ジェラードは怪我人の治療を再開した。そして、少しだけいまは亡き師のことを思い出してほくそ笑む。


「なんじゃ、急にニヤけおって」

「ジェラード様、少し顔が赤いですけれど大丈夫ですか!?」

「うるせぇ、魔力が回復したならおまえらも手伝え。アルティメットヒール!!」


 しばらくすると、ジェラードは本格的に飽きてきた。怪我人はあと百人ほどだろう。


「いいことを思いついた。おい、この中に治癒魔法が使えるやつがいたらこっちに集まれ」

「ジェラード様、いったい何を?」

「まあ、見とけ」


 十数人の者がジェラードの元に集まった。ジェラードはその者たちを順に見ていく。


「う~ん、おまえはいいや。下がって良し。おまえとおまえは残れ。おい、そこのおまえもだ」


 そうして、何人かを戻らせて、ジェラードの目の前には十名が残った。


「よし、おまえらにはアルティメットヒールを教えてやる。安心しろ、俺の見立てではそのぐらいの素質はある」


 ジェラードは突然、魔法の使い方を教え始めた。元々は治癒魔法を使えた者たちだ。しかも、ジェラードに素質はあると選ばれた者たちなので、個人差はあるものの全員がアルティメットヒールを使えるようになった。


「よし、練習はこのぐらいでいいだろう。おまえらもいまから怪我人を治療していけ。どうしても無理な怪我人だけ、俺のところへ連れてくるんだ。ソニアとジジイは、王都にいる者で素質がありそうなのをここに呼んでくれ。俺が選別したのち、アルティメットヒールを授けてやる」

「むう、そんなやり方があったとはのう。見直したぞ」

「わたしも感心しました! わかりました、メレディス様と手分けしてそうします」

「ああ、今日だけじゃなく、今後も怪我人の治療はあるんだからな」


 ジェラードの考えは功を奏した。数日で王都の治癒魔法の質が格段に上がったのだ。国王や大臣、そして勇者パーティーもえらく感心していた。


 こうして、ジェラードは王都で名を轟かせていった。口は悪いが、気のいい男だと。しかも顔が良かったので女に人気が出るのもそう時間はかからなかった。

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