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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第四話「深淵とは進化の到達点だ」

 途中、いくつかの町や村を経由して新しい馬車を調達したジェラードたちは、二十日ほどで王都に辿り着いた。ジェラードにとっては初めての人界の城を目の当たりにし、その大きさに驚いていた。


「魔王城と同じぐらい大きいな」

「ジェラード、そのようなことを迂闊に口にするでない。ここは人間の国だというのを忘れぬようにな」


 メレディスに窘められて、ジェラードはおどけた表情で肩をすくめた。王都に着くまでにも何度か魔王軍と遭遇したが、ジェラードの活躍によりソニアたちの出番は一切なかった。


「聖女様、勇者様はまだ王都に到着していないようです。王城の大臣たちからはしばらく待機するようにと、宿を提供してくれているようです」


 戦士が恭しく言った。ソニアはこの王都で勇者パーティーに合流する予定らしい。メレディスは王城の地下にある魔法陣使用の許可を取りに、王城へ向かった。戦士二人も王都に到着したことで護衛の任が解けるということなので、メレディスに同行して王城に戻っている。残されたのはジェラードとソニアの二人だけだ。


「ジジイが戻るまで、どうするんだ?」

「メレディス様に宿の場所を聞いていますので、そちらに向かいましょう。メレディス様から当面のお金も預かっていますし、食事でもしませんか?」

「それはいいな。ジジイの奢りなら久し振りに酒でも飲むか」


 ジェラードたちが行き着いたのは豪華な宿だった。さすが聖女に提供されるだけのことはある。王都でも一二を争う高級施設だ。メレディスの金ということもあり、ジェラードは遠慮なく酒と料理に舌鼓を打った。


「ははは、こりゃうめぇ! 俺の国とは大違いだぜ!」

「ジェラード様、すごい食欲ですね。わたしは見てるだけでお腹がいっぱいになりそうです」


 ジェラードの前には山のように皿が積まれていった。それに比べて、ソニアは一皿目の料理を行儀良く食べていた。そこへ、メレディスが戻ってきた。


「なんじゃ、これは! ジェラード、誰がこんなに食っていいと言った!」

「うるせぇジジイだな。それより、魔法陣は使えるのか?」

「もちろんじゃ。聖女様、すぐにでも使えるようです」

「ありがとうございます。それじゃあ、食事が終わったら向かいましょう」

「良くやったジジイ。おまえも食っていいぞ」

「バカたれ! わしの金じゃ!」


 食事を終えたジェラードたちは王城の地下に向かった。そこに薄暗く、床一面に大きな魔法陣が描かれていた。平時は宮廷魔術師たちの拠点として使われていた場所で、今日の戦況下では利用する者はほとんどいなかった。多くの魔術師は、度重なる魔王軍の襲撃で命を落としていたからだった。


 魔法陣の中央には大人が横になれるぐらいの祭壇があった。ソニアはジェラードにそこに寝るように言った。


「は~、食い過ぎたぜ。昼寝するにはちょうどいい。ここに寝そべればいいんだな」

「はい、わたしがいまから解呪を試みますので、楽にしていてください」


 ジェラードは祭壇に体を横たえると、仄暗い天井を見上げながら考えた。これで、自分の呪いが解けるのだろうかと。ジェラード自身も解呪の魔法は知っているし、使用できた。しかし、いまのジェラードは呪いによってその魔法は使えない。なので、ここはソニアの聖女としての力に賭けるしかなかった。目を瞑ると、ソノアとメレディスの会話が聞こえてくる。


「これは……何重にも強力な呪いが施されていますね」

「やはり、聖女様もそう思いますか。しかも複雑に絡み合っておるようですじゃ。恐らく呪いをかけた本人でも解けるかどうか……」

「取りあえずやってみます。メレディス様も手伝ってください」

「わしにできることなら、なんなりと」


 ソニアが呪文の詠唱を始めると、ジェラードの体に突如異変が現れた。


「ぐぼはっ……! おえええっ!」


 ジェラードが口から血を吐き出す。全身の痙攣が止まらない。ソニアの解呪魔法が効いているのだ。これに耐えなければ、ジェラードの呪いは解けない。


「ジェラード、しっかりするんじゃ! 気を確かに持て!」

「うっ……るせ……ジジ………ィ! うおえええっ!」


 その間もソニアは呪文を詠唱し続けている。額に浮かぶ汗は、その緊張感を物語っていた。ソニアの呪文が完成し、魔法を発動させた。すると、ジェラードの口から何かが飛び出した。真っ黒な影のような塊だ。それは徐々に人型を形作っていく。


「何じゃ、あれは……!?」

「はあっ、はあっ……あれが呪いの元凶か」

「ジェラード様! その影を消し去れば呪いは解けるはずです!」


 それを聞いたジェラードは跳び上がるように上半身を起こした。


「わかった。あとは俺のほうで何とかするぜ……」


 ジェラードは手の甲で口元の血を拭ってから、指先に付いた血をひと舐めした。そして、その右手を前方に突き出すと魔力を放出した。


「汝の敵を討て――ホーリーバレット!!」


 ジェラードの右手から生み出された光弾が、影をめがけて飛び出した。影は逃げるが、光弾はまるで意思があるかのようにそれを追いかける。


「そいつは当たるまで飛んでくぜ! くたばりやがれ呪い野郎ッ!」


 ――ダダンッ!


 光球の直撃を受けた影は、一瞬で霧散した。


「見たか、ジジイ!」

「おおお! あの禍々しい影を一撃で!」


 メレディスが驚くのも無理はない。ジェラードがあっさり倒した影は、魔王軍の精鋭部隊より強いのだ。ジェラードはもちろんのこと、経験豊富なメレディスもそう感じていただろう。


「これで……俺の呪いはすべて解けたのか?」

「ええ、そのはずです」


 ソニアはひどく消耗していた。ジェラードは自分なりに感謝の意を示そうとソニアの頭を撫でようとして、手を引っ込める。また電撃に弾かれると思ったからだ。そして、笑みを浮かべながら言った。


「ソニア、魔王軍討伐に俺の力を貸してやる。やつらには借りがあるからな」

「本当ですか!? それは嬉しいんですが、ジェラード様はそれでいいのですか? 同じ魔族に敵対することになるんですよ?」

「まったく問題ないな。やつらは俺を嵌めてこんな目に遭わせた。このままでは済まさない」


 ジェラードは右手でギュッと拳を握った。


「これだ! これだ! これこそ深淵の魔導師だ!」


 ジェラードは両手を広げて天を仰いだ。深淵の魔導師。かつて魔王軍にいた頃、ジェラードはそう呼ばれていた。


「しん……えん?」


 首を傾げたソニアに、自慢げにジェラードは告げる。


「深淵とは進化の到達点だ。つまり、俺こそ最強の魔導師ってことだ」

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