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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第三話「俺の力を見せてやるぜ」

「おー完全に元通りだ。これが聖女の力ってわけか」


 ジェラードは元通りになった左腕の感触を確かめるように、拳を閉じたり開いたり繰り返した。その様子を黙って眺めるのは聖女と賢者そして二人の戦士だ。傷ついた聖女を助けるためとはいえ、魔族であるジェラルドの呪いを解き、治癒魔法を施して良かったのだろうかと戸惑っているように見えた。


 一方、聖女の治癒魔法で一命を取り留めたジェラードは、すがすがしい気持ちになっていた。目の前で女は死なせないという、自分の信念を通せたからだった。


(さてと、どうするかな)


 本来、人間と魔族は敵対関係にあるので、互いの間には微妙な緊張感が生まれていた。沈黙を破ったのは聖女だった。

 

「あの……本当に助かりました。ありがとうございます」

「俺のほうこそ腕を元通りにしてもらったし、気にすんな」

「そういえば、助けていただいたのにお名前を聞いていませんでした。わたしはソニアといいます」

「……ジェラードだ」


 聖女はソニアと名乗った。人界では十五歳になると成人の儀式というものが執り行われる。故郷の町で成人の儀式を受けたソニアは、なんと聖女の適正ありと告げられたのだ。ソニアにしては青天の霹靂だったが、二年間聖女になるための厳しい修行を終え、勇者パーティーに合流するべく王都に向かっている途中であった。


「ふうん、それで魔王軍と遭遇したってわけか」

「はい。王都から派遣された精鋭の方たちだったのですが、わたしの力が足りなかったばかりに……」


 魔王軍に六人が殺されていたのはジェラードも確認していた。ソニアは申し訳なさそうに俯いた。すると、賢者の老人がソニアに近寄った。


「何をおっしゃいます聖女様。彼らも聖女様をお守りできて本望でしょう」

「でも、肝心なところでわたしが倒れてしまったので、回復が追いつかなくなったんです」

「さっきの魔王軍は精鋭部隊といって、そこらの雑魚より強いんだ。運が悪かったと思うんだな」


 ソノアの護衛も王都から派遣された精鋭なのだが、魔族の精鋭と比べると見劣りする。これが人間と魔族の差であり、戦力の差となる。


「ところで、ジェラード様はどうして魔王軍を倒してくれたのでしょう?」


 ジェラード様と呼ばれて、ジェラードは少し気分が良くなった。魔王軍から追放された経緯から、ここに至るまでの話をソニアたちに聞かせる。


「そんなっ! それはあまりにもひどいです!」

「……ああ」


 ジェラードは戸惑っていた。人間の聖女が魔族である自分に同情したからだ。


「おい、どうして俺の話を素直に信じるんだ? 俺が嘘をついていると思わないのか? 俺は魔族で、おまえら人間とは対極の存在なんだぞ」


 ソニアは優しい笑みを浮かべていた。賢者と二人の戦士もジェラードと敵対する素振りは一切見せない。


「それはのう、聖女様の能力……真偽判定でわかったからじゃ」

「……真偽判定だと?」

「はい。わたしの力の一つで、相手の嘘を見抜くことができるんです。ジェラード様はこれまでの会話で嘘をついていません」

「便利な力だな。そんなものが魔族にあったなら、俺の無罪を証明できただろうな。いや、いまさら魔王軍に戻ってくれと頭を下げられても戻る気はねぇし。しかしだ、人間に味方するとは言ってないぞ。俺がここでソニアを襲うとは考えなかったのか?」」


 そう言ってジェラードは視線を賢者と戦士に向けた。賢者と戦士は警戒したように目つきを鋭くしたが、ソニアが制止する。


「ふふっ、大丈夫ですよ。ジェラード様にそんな気はありませんから」

「……どうやら真偽判定ってのは本物みたいだな。恐れ入ったぜ」

「それに、ジェラード様はわたしに触れることさえできないはずです」

「なに……?」


 ソニアが試しに触れてもいいと言うので、ジェラードは無造作に手を伸ばす。ジェラードの頭の中に、聖女を治療した時に見た乳房が浮かんできた。


「じゃあ、揉んでいいん――うおっ!? な、なんだぁ?」


 ジェラードの右手はソニアの胸に触れる直前で弾かれた。ジェラードの右手には電撃を受けたかのような痺れが残った。ソニアは一歩も動いてはいない。少し考えてから、ジェラードは得心がいった。


「なるほど。魔族は聖女に直接触れることができないってわけか。それが聖女の――ソニアの力か。こいつはたまげたぜ」

「初めて見たのに、よくわかりましたね。ジェラード様の言うとおり、これもわたしの力です」


 ソニアはそう言って、ジェラードの胸板を指でつついた。聖女のほうからは触れることはできるのだとジェラードは理解する。魔族がソニアを傷つけるには武器を使うか魔法で攻撃するしかないという。


「おまえらのことはわかった。ところで、俺は三日も何も口にしてないんだ。何か食べ物はないか? できれば喉も潤したいから酒もあればなお良しだ」


 ジェラードは半壊した馬車を見ながら言った。さっきの魔王軍に潰されたのだと推測できた。


「お酒はありませんが、水ならあります。食べ物もあるので、お分けできると思いますよ」

「そいつは助かる」


 ソニアのはからいで腹を満たしたジェラードは、精鋭部隊から奪った棍棒を担いで出発の準備を進める。


「ジェラード様は、これからどうするんですか?」

「別に行く宛てなんかねぇよ。どうとでもなるさ」

「わたしならジェラード様の呪いを解くことができるかもしれません」

「本当か? そこの賢者のジジイでも一部しか解けなかったんだぞ。いくら聖女でも……」

「わしは賢者のメレディスじゃ」


 メレディスがむすっとした顔で答える。若い頃は先代の勇者と共に旅をしていたらしい。メレディスが言うには、王都の城に行けば大きな魔方陣があるという。その魔方陣を使い、ソニアの聖女としての力があれば可能かもしれないという話だ。ジェラードは藁にもすがる気持ちで同行を申し出た。


「飯も食わせてもらったし、呪いを解いてくれるんなら、おまえらを王都まで護衛してやってもいいぞ」

「本当ですか! それは頼もしいです」


(なんだか、調子が狂うな。まあ、よく見りゃソニアは可愛らしいし、俺の好みだな)


 こうして、ジェラードはソニアの護衛として王都に向かうことになった。


「だけどよ、魔族が人間の町に入って大丈夫なのか?」」


 ジェラードの疑問は真っ当だった。容姿こそ人間に近いが、明確な違いが一つだけあった。それは額に付いている魔石だ。魔族の命の源であり、人間でいうところの心臓にあたる部分だ。取り出された魔石は魔力を回復する道具として、人間たちの間で高値で取り引きされることもある。


「これを着けていれば問題ないじゃろ」


 メレディスが荷物から取り出したのは禍々しい冠だった。地獄の宝冠という呪われた装備品だ。


「こいつはいい。俺好みのカッコイイ装飾だ。どうせ呪われてるんだ、いまさら呪いの一つや二つどうってことないぜ」


 ジェラードは地獄の宝冠を気に入った。そうして歩いていくと小さな村があ見え、そこで一旦休憩することになった。しかし何だか様子がおかしかった。近づくと、そこかしこから悲鳴が聞こえる。醜悪な怒号も混じっていた。


「魔王軍の歩兵部隊だな。さっきおまえらが戦っていた精鋭部隊に比べれば雑魚みたいなもんだが、ちょっと数が多いな。おまえらは、そこで隠れてろ」

「そんな!? ジェラード様一人で大丈夫ですか?」

「愚問だな」

「おぬし、いま使える魔法は? 言っておくがわしは魔力は残っていないぞ」

「いま使えそうなのは治癒魔法と、威力の小さい単発の魔法だけだな。雑魚相手なら十分だ」


 ジェラードはおもむろに村へと足を向けた。状況を確認すると、村の自警団らしき若者たちが魔王軍と交戦していた。


(あっちは、何とかなりそうだな。逃げ遅れた女や子どもはいないか?)


 自警団のほうは何とかなると判断したジェラードは、周囲をくまなく走り回った。そして突如、甲高い悲鳴が響き渡った。逃げ遅れた女がいたのだ。周りには魔王軍だけで自警団からも距離が離れている。


(おい、女には手を出すなよ……。俺が獣界方面軍の中隊長をしていた時は、武器を持った男しか相手にしなかったが、こいつらは……)


 しかし、ジェラードの思いとは裏腹に、魔王軍の兵士は剣を振り上げた。それを目の当たりにした瞬間、ジェラードは地面を蹴った。


「ふざけんなよ! おらっ!」


 ジェラードの跳び蹴りが、兵士の後頭部に直撃した。華麗に着地を決めると、その兵士に向かって右手を突き出した。


「ダークエッジ!!」


 漆黒の刃が出現し、兵士の胸を切り裂いた。呪文を完全に省略した無詠唱だ。高位の魔法を高速詠唱で発動できるジェラードにとっては、簡単な魔法なら無詠唱で放つことができる。


「死にたいやつは前に出ろ! 切り裂け! ダークエッジ!!」


 ジェラードは矢継ぎ早に魔法を繰り出す。時折、棍棒を振るっては魔王軍を肉塊に変えていった。ジェラードの信念どおり、女は無傷で助けた。女に感謝されたジェラードは気分が良くなった。戦闘が終わり、ソニアたちが駆けつけた。


「ジェラード様、助かりました。おかげで誰も大怪我せずに済みました」

「そりゃ良かったな……」


 ジェラードは人間の女も悪くないと思った。

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