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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
外伝 深淵の魔導師
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第一話「屈辱の追放だ」

「外伝」を挟んでから三章に入ります。

まるまる一章分ぐらいの文章量ですので、三章の前後に分割して投稿します。


「深淵の魔導師ジェラード、本日をもって魔王軍から追放とする!」


 魔王の居城にて魔王軍宰相ギデオンに呼び出されたジェラードは、思いもかけない言葉に戸惑いを隠せなかった。ギデオンの後ろに勢揃いする魔王軍幹部たちも冷ややかな目をジェラードに向けていた。


 この大陸には魔族、人間、エルフ、獣人が存在し、魔族の魔王が擁する魔王軍は大陸統一を実現するべく、すべての勢力と敵対している。人間、エルフ、獣人が住む領域をそれぞれ人界、エルフ界、獣界と呼び、魔族の支配領域を広げていた。


 ジェラードが所属していた獣界方面軍は、これまで多くのSランクパーティーを葬ってきた。その都度、魔王から莫大な報酬と兵の追加、そして幹部としての役職を与えられていた。実際、同じ部隊で戦っていたギデオンは魔王軍宰相の地位まで出世し、魔王から莫大な財宝と選りすぐりの美女を賜っていた。


 しかし、ジェラードはギデオンほど出世できなかった。なぜなら、ギデオンの策略で、獣界方面軍の手柄はジェラード以外の者が立てたことにされていたからだ。事実、ジェラードの役職は中隊長で止まっている。代わりに、ジェラードの腹心だった四天王が大隊長まで出世していた。それ自体は、ジェラード自身が権力には興味がなかったので気にしていなかった。だが、魔王軍を追放されるとなれば別だ。


「ちょっと待て、ギデオン。俺がいままでどれだけ尽くしてきたと思っているんだ。苦楽を共にしたおまえならわかるはずだろ。俺は別に幹部にしてくれと言ってるわけじゃねぇ。いままでどおり――」

「黙れ!」


 ジェラードの言葉を遮るように、ギデオンが一喝した。


「たかが中隊長の分際で、それが魔王軍宰相に対する口の利き方か。苦楽を共にしただと……ふん、笑わせる。手柄を立てたのは俺であり、貴様の部下である四天王ではないか」

「おい、本気で言ってるのか?」

「魔王様の前で嘘など言えるはずがないだろう。取り繕うのはよせ。余計に惨めになるだけだぞ」


 ギデオンは魔王軍幹部たちの前で、わざとらしく肩をすくめた。

 他の幹部たちもギデオンの言い分を信じているようだった。

 これでは公開処刑ではないか、とジェラードは思った。


「功を焦ったおまえは、封印されている禁呪にまで手を出した。それがどういうことかわかるな?」

「……はあ?」


 ジェラードの記憶と食い違っている。獣界を完全に制圧するには、禁呪を使用するしかないと四天王に言われたのだ。もちろん、ギデオンの許可は得ていると聞いていた。ギデオン本人にも確認したが、魔王の指示だと言われたのだ。経緯を説明するが、四天王は揃って首を横に振った。それを見てギデオンが鼻で笑う。


「おまえの元部下たちも違うと言っているではないか」

「そのとおりですギデオン様。おい、ジェラード。この期に及んで嘘は困るな。おまえは俺たちに先を越されて、手柄欲しさに魔王様やギデオン様の許可なく、封印されている禁呪のスクロールを盗もうとした。元部下としては恥ずかしい限りだ」


 発言したのはジェラードの四天王の一人だった暗黒騎士ライナス。重厚な漆黒の鎧を纏った男は、呆れたように笑った。


「くくく、哀れだなジェラード。落ちぶれたおまえの姿、見るに耐えん」


 肩を震わせるのは、四天王の呪術師カール。


「おまえら……」


 嵌められた。ジェラードはようやく気付いた。ギデオンと四天王はグルだ。ジェラードの手柄で出世し、邪魔となったので大罪を被せて魔王軍から追放するのが筋書きだろう。しかし、この場でジェラードの言葉を信じる者は誰もいない。ギデオンがすべて根回ししているのだから。


「魔王様の許可無く禁呪を盗もうとするなど、魔王軍の風上にも置けませんなぁ」


 四天王、闇神官のヘイデンが吐き捨てる。俺に禁呪を取りに行くように言ってきた張本人が、平然と言ってのける。


「俺を嵌めたのか? おまえら揃いも揃ってふざけやがって」

「ギデオン様、こいつはもう駄目です。反省して謝るどころか、開き直るんですから。ただ魔王軍から追放するだけでは生ぬるい。かつては深淵の魔導師と呼ばれた力を駆使して、良からぬことを考えるやもしれません」

「ほう、ではどうする。ライナス、何かいい考えがあるのか?」

「はっ、人界に捨ててはどうでしょうか。我々が手を下すまでもないでしょう。あそこには勇者がいますから」

「それはいい提案だ」


 ジェラードの始末を人間の勇者パーティーに委ねるつもりだろう。ジェラードは魔王軍の実力者の一人。万が一の反撃を懸念して、ギデオンは自分たちで始末せず敵対する勇者に殺させようと企んでいるようだ。


「人界か、これは面白い。ギデオン様、ついでに魔法が使えないように封印してしまうのはどうでしょう? 人間たちの中に魔法の使えない魔族が放り込まれたら……想像するだけで恐ろしい」


 暗殺者ウォルターがせせら笑う。


「おお、それは良い提案だ。カールよ、おまえの呪いをかけてやれ。他の幹部も同じようにして何重にも呪いをかけるのだ。二度と魔法が使えぬようにな。魔王様、それぐらいは構わないでしょうか?」


 そう言って、ギデオンは玉座に座る魔王に振り返った。ジェラードは前宰相の弟子だった。そのため、魔王からも命までは取るなと言われていたのだ。ただ、それではギデオンの気は収らない。命を奪えないなら、それ以外の方法で徹底的にやるつもりだった。魔王はしばしの沈黙のあと、無言で頷いた。


「ありがとうございます、魔王様。私も心苦しいのです。同じ師に学んだ兄弟弟子がこのような馬鹿な真似をするとは……。しかし、ジェラードの行動は魔王様に対する背信行為です。これを許すわけにはいきません」


 ギデオンは芝居がかった素振りで言った。他の幹部も同調した。すべてギデオンと四天王の台本どおりだ。ジェラードは下唇を噛みしめた。たとえ開き直って暴れても、ここには魔王軍の幹部が多く集まっている。囲まれて瞬殺されるのが予想できた。ジェラードは悔しさに耐えながら、沈黙を貫く。


 いままでのことを思い返す。いまは亡き前宰相だった師から授けられた数々の魔法。それらを使い、多くのSランクパーティーをことごとく潰してきたが、すべてギデオンの手の上で転がされていただけだったのだ。


「深淵の魔導師ジェラードを追放する! 呪いをかけて魔法を封印した上でだ!」

「…………っ!」


 ジェラードはギデオンを睨みつけるのがやっとだった。ジェラードは、魔王軍を追放される。ギデオンは嬉しそうにジェラードを見下ろした。ジェラードを自らの出世のために利用したギデオンや四天王は、邪魔者は消えたと考えたに違いない。その日のうちにジェラードは呪いで魔法を封印された上、全身を鎖で縛られて人界の辺境に捨てられた。


 ギデオンは師が死ぬ間際に残した言葉を思い出していた。その言葉はギデオンしか聞いてはいなかった。


 多くの弟子の中で才能溢れるギデオンは百年に一人の逸材。しかし、ジェラードは千年に一人の逸材だ。いずれ魔王軍を率いる男だと。


 ギデオンは奥歯を噛みしめながら、師の言葉を闇に葬った。

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