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双剣魔眼の剣術学院クロニクル  作者: ユズキ
第二章 死竜の砦
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第十九話「死竜の砦四階・東」

 三階に辿り着いた俺は、背後の物音で振り返った。

 そこには、二階にあったテーブルや椅子が投げ込まれている。

 危うく当たりそうになったので、慌てて避けた。

 もちろん、やったのはリチャードしか考えられない。


「お、おいっ! 騙し討ちか!」


 リチャードは負けを認め、先へ行けと促した。

 なのにこれは……。

 しかし、すぐにこの行動に攻撃の意図はないと知る。


「悪いな。この階段は塞がせてもらった。もし俺に勝って三階に行く者がいれば、こうしろと頼まれてたんでな」


 リチャードの足音は遠ざかっていく。

 もう目的は果たしたようだった。

 階段はテーブルや椅子で埋め尽くされている。

 それどころか、その衝撃から途中で穴が空いていた。

 当然テーブルも無残な姿になっていた。


「……これを攻撃でされていたら、ちょっと危なかったな」


 改めてリチャードの怪力を思い知った。

 俺は周囲を見回した。

 いくつもの廊下が交差しているようで、壁には扉がずらりと並んでいる。

 中には開け放たれたままの扉もあり、俺はその中を覗き込んだ。

 ベッドと机、椅子がある。床には無造作に服が散らばっていた。

 まるで学院寮の部屋を見ているようだ。


(俺はこんなに散らかしたりしないけどな)


 隣の扉を開けて中を確認すると、同じような状態だった。

 この死竜の砦で寝泊まりしているものもいるのだろう。

 一階には店もあるし、特に困ることもないはずだ。

 もしかしたら、死竜の砦の前にいた死竜クラスの誰かの部屋かもしれない。

 俺は扉を閉めて、辺りを注意しながら四階へ続く階段を探した。


 廊下は東西と南北、それぞれに五本あった。

 俺が二階から上ってきた階段は、真ん中の廊下のちょうど中心辺りにある。

 他の下りの階段は南西の端に見つけた。

 上りの階段は正反対の方角、北東に存在した。

 俺は階段を上った。


 二階と同じような雰囲気の部屋に出た。

 ただし、こちらはテーブルと椅子が整然と並んでいる。

 一番奥のテーブルに一人の男が腰かけていた。

 トラヴィス・ミリカ。

 ミリカ団団長の息子にして幹部、そしてジェラルドの兄である人物だ。


 トラヴィスは俺の姿を見ると、目深に被った帽子を取った。

 前に見たとおり茶髪を短く刈り上げている。

 左目の下に刃物で斬られたような傷がある。

 この間見た右頬の痣は消えていた。

 代わりに左頬が大きく腫れている。

 お世辞にも善人とは言えない面構えだった。


「次はあんたか」

「口の利き方に気をつけな。おれはここの卒業生だぜ?」

「いまは違うだろう」

「あたりまえだ。こんな学生がいるか?」


 トラヴィスは懐からナイフを取り出すと、テーブルに突き立てた。

 おどけたような表情で、首を傾げて舌を出す。


「ここに来たってことは、下にいたのをぶっ飛ばしたのか?」

「ミリカ団副団長のリチャードのことか? それなら俺が倒した」

「ちっ、リチャードのおっさんも手ぇ抜きやがって……。おまえみたいな痩せたガキが、ゴリラみてぇなあの人に勝てるわけねぇだろが。元冒険者だぞ、学生ごときに後れを取るほど老いちゃいねぇはずだ」


 トラヴィスは俺がリチャードを倒したことを信じていないようだった。


「そんなことはどうでもいい。俺はこの上にいるジェラルドに話があるんだ。邪魔するなら倒して通るまでだ」

「へぇ、いい度胸じゃねぇか。おれがミリカ団のトラヴィスと知ってのことか? あぁ?」

「ああ、知ってるぞ。闇ギルドのだろ。ジェラルドと闇ギルドの関係は気になるが、直接本人に問いただす」


 トラヴィスはため息をついて肩をすくめた。

 そして、懐から札束を取り出して投げて寄越す。

 俺の目の前のテーブルを滑って、札束は俺の足元に散らばった。


「何の真似だ?」

「受け取れよ。その金持って今日のところは帰りな」

「何だと?」

「それで足りないって言うなら、おまえが卒業するまでおれが資金面で援助してやってもいいぜ。何なら卒業後の就職先も紹介してやる。ただし、ミリカ団で良ければな」


 金銭で俺が退くと本気で思っているのか?

 トラヴィスの意図が読めない。


「遠慮するよ。闇ギルドと取り引きする気はないからな。話はそれだけか?」

「……くっ、ふははははっ! おいおい、おまえマジで胆が座ってるなぁ。相手が闇ギルドだとわかったら、普通の学生は小便ちびって逃げ帰るぜ?」


 俺はトラヴィスを視界に入れながら、周囲を確認する。

 壁には窓があるが、完全に閉め切っている。

 そのせいで、部屋の中はちょっと蒸し暑かった。

 五階へ続く階段は、トラヴィスの後ろに一つあるだけだ。

 俺の考えていることがお見通しのように、トラヴィスは笑みを浮かべた。


「上へ行くなら鍵が必要だぜ?」

「鍵?」

「ああ、そうだ。後ろの階段の先には扉がある。この鍵が無けりゃ先へ進むことはできねぇ」


 トラヴィスはポケットから取り出した鍵を、顔の高さまで上げて見せる。

 そして、俺が確認したのを見計らってポケットにしまい込んだ。


(鍵か。どうやらトラヴィスを倒すしかないようだな)


 俺は木剣を構えてテーブルを回り込もうとした。

 すると、トラヴィスは慌てて立ち上がり俺とは逆の方向へ移動した。


「おっと、おれもそう簡単にやられるわけにはいかないからな」


 俺が移動すると、トラヴィスも逆の方向へ動く。

 三度同じ行動を繰り返して、俺はトラヴィスがここで時間を稼ごうとしているのではないかと考えた。

 トラヴィスの武器は右手に持ったナイフだけだ。

 しかし、それを構える様子もなく、俺の動きにだけ注意を払っているように見えた。


 次の瞬間、俺は床を蹴ってテーブルを乗り越えた。

 トラヴィスとの間には、あと三つテーブルがある。

 一つ目のテーブルに着地し、すかさず次のテーブルに跳んだ。


「ひゅう! やるねぇ!」


 トラヴィスは右に移動した。

 そのほうが俺との距離を稼げるからだ。

 しかし、俺はそれを読んで二つ目のテーブルから跳んだ。

 三つ目のテーブルに着地すればトラヴィスに手が届く。


「だが、そうはいかねぇ」


 トラヴィスは三つ目のテーブルの下に勢いよく滑り込むと、一気に俺の背後に回った。

 着地した俺が振り向いた時には、部屋は煙に包まれていた。


「煙幕……!?」


 トラヴィスの足音が遠ざかっていく。

 目の前に白煙がたちこめる。

 窓を閉め切っていたのはこのためか。


 煙に毒性は感じられない。

 あくまで目隠しのつもりだろう。


(魔眼、――開眼ッ!)


 俺の魔眼がトラヴィスの居場所を教えてくれた。

 さっきまで俺が立っていた場所だ。

 俺は足音を立てないように近づいていく。

 しかし偶然なのか、トラヴィスは逆の方向へうまく移動していく。


(トラヴィスも俺の動きを把握している? どうやって……? いや、これは……!?)


 俺の足元が仄かに青白く発光していた。

 正確には俺が歩いてきた場所がだ。


「へっ、気付いたか。テーブルに細工させてもらったぜ。おまえが足場にしたテーブルには特殊な塗料が塗ってあったんだよ。この煙の中でもおまえの居場所がわかるようにな」

「まるで俺の動きを読んでたみたいに用意周到だな」

「あたりまえだ。闇ギルド同士の抗争では奇襲や暗殺、何でもありだ。このぐらい用心深くなくてどうするよ」

「なるほど……」

「しかし、おまえはおれの位置がどうしてわかる? 特殊な訓練でも受けてるのか? いや、訓練でどうにかなる問題じゃねぇな……。マジでおまえ、ミリカ団に入れよ。オヤジにはおれが口きいてやるからよ」

「お断り――だッ!」


 俺は横薙ぎ技の〈スレヴィ〉で近くの窓を叩き割った。

 わざわざアレクサンドリート流剣術の技を使ったのには意味がある。

 〈スレヴィ〉の起こした風で煙を吹き飛ばしたかったからだ。

 俺の目論みどおり煙が晴れていく。


「いやぁ、おまえ才能あるぜ。気に入った。……気に入ったが、上には行かせねぇ」


 トラヴィスはポケットから取り出した鍵を口の中に放り込んだ。

 そして、少し間をおいて口を大きく開けた。


「んあ~、ほら飲み込んじまった」

「なっ……何だと!?」


 俺はトラヴィスの予測不可能な行動に、驚きを隠せなかった。

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