第十四話「死竜クラスの宣戦布告」
「待っていましたわ」
翌朝、剣術学院に着くと、俺の席の前でローラ先輩が腕組みして立っていた。
セシリアたちに視線を向けると、困ったような顔をしていた。
どうも俺が昨日話し合いに出席せずに帰ったことを怒っているらしい。
五年風竜クラスの五人には、俺が夜の仕事で一睡もしていないことを知っていたので、帰って寝ていいと言ってくれたのだが、ローラ先輩にうまく説明がいってなかったようだ。
まあ、俺の夜の仕事を話すわけにはいかないから、説明に苦労したとは思うが。
「すいません。昨日はあまりにも眠くて」
「アルバート、あなたやる気ありますの? エドガーのために、みんな集まってくれているというのに」
「別にエドガーのためじゃ……いだっ!」
余計なことを口にしかけたロイドの脇腹に、ブレンダの肘が入った。
それから俺はローラ先輩から、今日は必ず話し合いに参加するように念押しされた。
ローラ先輩が教室を出ていき、ほっと一息つく。
俺はようやく自分の席に腰を下ろした。
すると、隣の席に座ったセシリアが訊いてくる。
「昨日はよく眠れた?」
「ああ、疲れも取れた。しばらく夜のほうは落ち着きそうだから、死竜の砦に集中できそうだ」
「無理しないで、わたしたちにもちゃんと頼ってね」
「そうだぜ、アル。もっと俺に相談しろって」
「相談するなら、ロイドを以外にしたほうがいいわね」
「てめ、ブレンダ~!」
ロイドとブレンダの茶番は授業が始まるまで続いていた。
午前の授業を終え昼食を挟んでから、午後の授業が始まる。
歴史の授業だった。
ブランドン先生の授業を真面目に聞いていると、ロイドが相変わらずしょうもない質問を投げかけて笑いを誘っていた。
教室のそこかしこら、くすくすと笑い声が聞こえる。
ブランドン先生は肩をすくめていた。
――ドドンッ!
そんな笑い声を吹き飛ばすかのように、大きな音が響く。
校庭のほうからだ。
ブランドン先生が窓のほうへ近づく、クラスのみんなもぞろぞろと続く。
「おい! 何だありゃあ!?」
ロイドが叫ぶ。
校庭に立っていたのはジェラルドを筆頭に十人ほどの死竜クラスの生徒。
そのすぐ近く、見慣れた校庭に大きな窪みができていた。
地面が抉れている。
いまの大きな音はこれが原因だろう。
「魔法ですか?」
ハロルドがブランドン先生に尋ねる。
「……だろうね」
再び、校庭に視線を移動すると、ジェラルドが何やら話をするようだ。
「聞こえるか、剣術学院の生徒たち! オレは今日、行動を移すことにした!」
何だって……?
ジェラルドはいったい何を始めるつもりなんだ!?
「オレはこのウルズ剣術学院を変える。そのための狼煙として、まずは校舎をぶっ壊すことにする!」
唐突に、とんでもないことを宣言した。
教室内の生徒は大きくざわついている。
「おまえたちも見たことがあるだろう、オレの城、死竜の砦を! オレが言ってることが信じられないなら、いますぐ死竜の塔を見るんだな!」
それを聞いてブランドン先生が教室の入口に向かった。
ここからでは校庭とその向こうにある正門しか見えない。
死竜の砦は反対の方向だ。
俺もブランドン先生の後を追いかけて教室を出る。
廊下側の窓からは死竜の砦が見える。
俺はそれを見て目を見開いた。
「ブランドン先生! あの天辺にあるのは……!」
遠見の魔法が使えたり、目のいい生徒なら気付くだろう。
「バリスタのように見えるね。しかも、あんな規模のは見たことがない」
死竜の砦の最上部にあったのは、巨大なバリスタだった。
バリスタという据え置き式の弓のような攻城兵器があるが、いま俺が目にしているのは見たこともない超特大のものだ。
しかも、巨大な鏃がこちらを向いている。
「まさか、あれをこの校舎にぶっ放すってのかよ! イカれてやがるぜ、ジェラルドの野郎ッ!」
生徒の中から悲鳴が上がる。
中にはロイドのように、死竜クラスの正気とは思えない行動を非難する生徒もいた。
この間、俺が死竜の砦を訪れた時、六階部分を増築中だと思って深く考えなかったが、これを隠していたのか!
くそっ……あの時、疑問に思って調べていたら……!
ちょうどその時、ジェラルドたち死竜クラスが校庭から校舎の裏手に回ってきた。
「あの矢は日没と同時に校舎に向けて発射される! 死にたくなかったら、いますぐ逃げるんだな! 止めようと思っても無駄だ! 止めるには死竜の砦を登らなくてはならないぞ!」
ジェラルドは言いたいことは言い終えたかのように踵を返す。
死竜クラスは死竜の砦へと引き上げていく。
こちらは大混乱だ。
だが、俺は即座に判断して、教室へ取って返す。
教室に入り、剣置き場から自分の双剣を取ってベルトに装着する。
ロイドに贈られた双剣だ。
「アル!」
「アルバート、待つんだ!」
背後からセシリアとブランドン先生の声が聞こえるが、俺は無視して呪文を詠唱する。
そして、開け放たれた窓から飛び出したのと、俺の背中に翡翠色の翼が出現したのは同時だった。
「アルバート!」
ブランドン先生の呼びかけと共に、飛んでくる何かの気配を察した。
止まる気はないので、振り返るだけに留める。
ブランドン先生が投げた寄越したソレを掴んで、俺は絶句した。
「――!?」
何でこれをブランドン先生が……。
俺は半ば呆れながら、ソレを懐にしまい込む。
ブランドン先生はいつもの笑みを浮かべていた。
五年風竜クラスの教室は三階だ。
ここから滑空しつつ旋回して校舎裏まで一気に降りる。
着地に成功した俺は、すぐにでも死竜の砦に向かいたいところだが、少し距離がある。
歩いたんじゃ時間がかかりすぎるし、走れば体力を消耗しすぎる。
俺は辺りを見回す。
見つけたのはアラベスク家の馬車だ。
エドガーが通学に使っている馬車で、御者と別に護衛の男が二人立っていた。
「借ります!」
「おい、おまえ! 何をするッ! この馬車はアラベスク家のものだとわかっての狼藉か!」
怒鳴りつける護衛に申し訳なく思いながらも、俺は剣を抜いて馬車と馬を繋ぐハーネスを断ち切った。
「おまえ、いい加減に――」
殴りかかってくる護衛を躱して、俺は馬に跳び乗った。
「あとで必ず返します!」
俺は馬を走らせる。
目指すは死竜の砦だ。
先に向かったはずの死竜クラスの生徒の姿は一向に見えない。
恐らく、ジェラルドたちもどこかに馬を繋いでいたのだろう。
「日没と同時に発射されると言っていたな……! のんびりしている時間はない!」
俺は逸る気持ちを抑えながら、懸命に馬を走らせた。




